第260話 おめぇ、許可もなく勝手に商売したそうじゃないか?

リュー 「おい、ヤンってのは誰だ?」


男 「そこのバーに居る、来れば分かる」


見れば、冒険者ギルドに併設の酒場に何人かの男が座っていた。その中の一人がヤンなのだろう。


断っても良かったが、自分の名前を知っていた事を不思議に思ったリューは酒場に素直について行った。


テーブルに近づくと、奥に座っていた男が言った。


男 「お前がリュージーンか?」


リュー 「お前がヤンか?」


ヤン 「そうだ」


リュー 「どこで俺の名を?」


ヤン 「ふん、警備兵と派手にやったらしいじゃねぇか、噂は入ってるぞ」


リュー 「なるほど……で、何の用だ?」


ヤン 「おめぇ、許可もなく勝手に商売したそうじゃないか?」


リュー 「何の話だ???」


ヤン 「とぼけるんじゃねぇよ、おめぇが城門の外で宿を開いて商人を泊めたのは分かってるんだぜ?」


リュー 「ああ、その事か。何か拙かったのか?」


ヤン 「当たりめぇだろ、許可もなく勝手に商売するのは、この街では禁止なんだよ」


リュー 「ほう、それは知らなかった。だが、俺は単に親切で泊めただけだ。確かに宿泊料は貰ったが、相手が気を使わないでいいようにそうしただけだ。別に宿の営業を普段から行ってるわけじゃない」


ヤン 「金を受け取ったなら商売だろうが。それにお前が普段から宿をやってたかどうかなんて俺は知らん」


リュー 「仮に、この街の商法に違反していたとして、お前に何の関係があるんだ? お前も冒険者じゃないのか?」


ヤン 「この街の法律ってわけじゃない、まぁあれだ、街のルール、暗黙のルールって奴だよ。領主が決めた法律にはいちいち書かれていなくとも、街で生活する上で守らなけりゃならんルールってもんがあるもんだろう? 俺は確かに冒険者だが、そういうのを取り締まる仕事もやってるんだ」


リュー 「じゃぁ、その商売の許可というのはどこで取るんだ? 商業ギルドの身分証なら俺も持っているぞ?」


ヤン 「商業ギルドの身分証があっても、ちゃんと届け出は必要だ。そして、届けはここでできる。この街は、冒険者ギルドと商業ギルドが兼用になってるんだ」


リュー 「ほう、で、お前がここのギルドマスターなのか?」


ヤン 「いや違う、マスターは他に居る。俺は勝手にみんなの世話を焼いている、ただのおせっかい者さ」


リュー 「なら届け出よう、それで解決だな?」


ヤン 「事後承諾の場合は登録料に金貨百枚だ」


リュー 「随分吹っ掛けるじゃないか」


ヤン 「ペナルティだよ」


リュー 「だが、よく考えたら俺が客を泊めたのは街の外だ。仮にこの街で許可なく商売するのが違法だったとしても、街の外なら関係ないんじゃないのか?」


ヤン 「門の横で営業しておいて関係ないとも言い切れんだろう? だがまぁ確かにグレーゾーンではあるな。そこでだ……ひとつ勝負しないか? その勝負にお前が勝ったら、今回の事は知らなかったって事で不問にしてやってもいい」


リュー 「ふん、なんで俺がそんな勝負を受けなければならんのか分からんな」


ヤン 「だからそれはこの街のルールだと…」


リュー 「今自分で言っただろう、グレーゾーンだと? つまり明確に黒でもないわけだよな?」


ヤン 「ルールを守れねぇならこの街で生きていく事はできなくなるぞ?」


リュー 「俺はこの街の人間ではない、すぐに出ていく旅人でしかないからな。俺がこの街の、明文化もされていないローカルルールに従わなければならん理由はないだろう?」


ヤン 「ぐぬぬぬ」


リュー 「だが……勝負の内容と条件について一応聞いてやろう、面白い余興なら多少付き合ってやらんでもないぞ?」


ヤン(ほっとしながら) 「こ、この街では、冒険者同士の揉め事は、冒険者同士で拳で決める事になってるんだ、武器を使わず、魔法も使わず、素手で、な。冒険者らしい平和的なルールだろう?」


リュー 「それも暗黙のルールって奴か」


ヤン 「そうだ。お前が勝ったら今回の事は不問、商売の許可証もやる。悪い話じゃないだろう?」


リュー 「なんだか俺にあまりメリットが感じられないんだが……それで、そんな事してお前にはどんなメリットがあるんだ?」


ヤン 「お前が負けたら、金貨百枚払ってもらう。払えないなら借用書を書いてもらい、借金を返し終えるまでは俺の下で働いてもらおう」


リュー 「なるほど。で、俺が勝った場合は?」


ヤン 「だから、勝手に商売をした事について罪に問わないのと、商売の事後承諾を認める……」


リュー 「だけ?」


ヤン 「…だけ、かな……」


リュー 「それじゃぁ俺が受けるメリットはない。明文化もされてなくて、しかもグレーゾーンだと言ったのは自分だろう? その気になれば、俺は簡単にこの街から出ていく事ができる」


ヤン 「無傷で出て行けると思ってるのか? この街の冒険者全員を敵に回す事になるぞ?」


リュー 「警告しておくが、俺に手を出すなら命の覚悟はしておけよ? なるべく手加減はするつもりではあるが、手足の一本二本失うくらいで済めばラッキーってところだと思っておけ」


ギルド併設の酒場の中で、ヤンとリューの殺気が火花を散らす……



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


ヴェラの提案


乞うご期待!



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