第259話 領主の息子の愚かな判断

領主バラスは、息子のトツテを叱りつけていた。


バラス 「まったく! 何をやっておる?! お前が警備隊の荒くれ者共を押さえられると言うから任せたのだぞ! しっかりしろ!」


トツテ 「申し訳有りません父上」


バラス 「このまま街を上手く治めさえすれば、陞爵しょうしゃくが約束されておるのだ。だがここで王に失策を報告されれば、お前が継ぐ爵位もなくなるのだぞ?」


トツテ 「はい、分かっております……」


男爵は本来一代限りの爵位であり、子供に継がせる事はできない。だが、この街をうまく治めさえすれば、いずれ子爵に陞爵させてやっても良いと前王に約束されていたのだ。だがその王は死に、息子が王位についた。何も問題なければ前王の約束はそのまま実行されるはずであるが、少しでも問題があれば、現王の裁量次第では簡単に潰されてしまう可能性もある。


バラス 「取り敢えず、王都から来たコンステル(ブリジット)お目付け役が問題だ。うまく事を収めて追い返せ」


トツテ 「必ず期待に応えて見せます!」


バラス 「必要であれば騎士団を使っても良い。上手く・・・やれよ?」


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現王はバラス男爵家の事をあまり良くは思っていない。もともと山賊上がりだと噂されている人物で、先王の時代に戦場で活躍して爵位を得たのだが、その活躍も、勝てばなんでもいいという卑怯な手段が目立つモノだったのだ。王子の立場でそれを見ていた高潔な性格の現王の目には、男爵はあまり好ましい人物には映っていなかったのである。


今回も、街の住民から直接王宮に陳情の手紙を読んだ王自ら調査を命じたのだ。王は、問題があるようなら男爵家は取り潰し、国境を守っている辺境伯の領土に組み入れてしまうつもりであった。


そうして派遣されたのがコンステル卿ブリジットである。そのコンステル卿が早速領主に問題を突きつけてきた。


コンステル卿の要求は、警備隊の風紀の乱れを糺す事。それだけなら分かりましたと言っておけば良いが、具体的に、警備隊がこれまでやっていた悪事を全て調べ上げ、罰せよと言う命令であった。


だが、そんな事をしたら警備隊のほぼ全員が犯罪者となって、警備兵が居なくなってしまう。それはそれで、街を治める能力なしと判断される材料となってしまうだろう。


トツテが警備隊長のナルダーに確認したところ、旅の冒険者が揉めた事で事が発覚したという報告であった。ならば、その冒険者さえ殺してしまえば、あとは警備隊員が口裏を合わせてしまえば証拠は何もないのだから、問題はない。


もしそれでもコンステル卿がうるさい事を言うのなら、コンステル卿にも死んでもらう必要があるかも知れない。この街の周辺には強力な魔物が多い。魔物に襲われて死亡というのは良くある話なのだから……


考えを纏めたトツテは警備隊長のナルダーに会いにいったのだが……


ナルダー 「いえ、トツテ様、奴は危険です、百五十人の警備兵が全滅させられたのです! 暗殺も失敗した。ヤツに手を出すのは危険すぎます!」


トツテ 「ならどうする? このまま素直に罪を白状して、全員仲良く断頭台に登るか?」


ナルダー 「それは……


…奴は旅の冒険者だという事です、王都に向かっている途中だと言う事らしいので、そのうち街から出ていくはず。それを待てば……」


トツテ 「いつまで待てば良いのだ? それまでコンステルが待ってくれると思うのか?」


ナルダー 「そこは、調査中と言う事で、うまくトツテ様に誤魔化して頂いて……」


トツテ 「馬鹿者、コンステルから王に失態を報告されれば、父上の陞爵の話もなくなる。それどころか、バラス家が取り潰しになるかもしれんのだぞ!」


ナルダー 「……」


トツテ 「もう時間がない、後はないのだよ……


…バラス家の親衛隊を貸してやる。バラス家の騎士団は優秀だ、騎士達と警備隊全員で掛かれば、いくら奴が強いと言っても勝てはすまいよ」


ナルダー 「ですが……」


トツテ 「…コンステルにまずはお前の悪行を纏めて報告してやろうか? お前の罪状は全部知っているぞ?」


ナルダー 「…っ、わかりました。


―――しかし、どうします? さすがに町中で襲うわけにもいかないですが」


トツテ 「奴は冒険者だそうじゃないか、この街に居る間に依頼のひとつも受けるのではないか? それで街を出た時に襲えば……


魔物に襲われて冒険者が死ぬのはよくある事だろう?」


ナルダー 「奴が依頼を受けず、すぐに街を出たらどうしますか? それでもやるんですか?」


トツテ 「そりゃそうだろう、この街の悪評を広められても困るからな。あのリュージーンという奴を張っておけ。いつでも警備兵を総動員できるように準備しておけよ? 俺は騎士団のほうをスタンバっておく」


そんな悪巧みが進んでいるとは知らず、リューとヴェラは冒険者ギルドに来ていたのであった。


別にガーメリアに言われたからというわけではないが、一応、街についたら冒険者ギルドを覗くのも恒例行事である、一応リューもヴェラも冒険者であるのだから。そして、初めて行く冒険者ギルドでは、お約束のイベントも起きるわけである。


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依頼票が貼ってある掲示板を眺めていたリューに声を掛ける男が居た。


男 「おい、おまえ、見かけねぇ顔だな。もしかしてリュージーンとか言う奴か?」


リュー 「ああそうだが、だとしたらなんだ?」


男 「ヤン様がお呼びだ、こっちに来い」


リュー 「……誰?」



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


街の元締め?登場


乞うご期待!



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