第258話 ブリジット、領主に詰め寄る
領主の屋敷の門の前まで来たリューとヴェラ。
ブリジットは近衛騎士として領主の屋敷に宿泊していると言っていた。神眼を使ってみると屋敷の中にブリジットの魔力を感じる。
ブリジットは王命を受けて来た近衛騎士であり、また領主は男爵、ブリジットは子爵なので、爵位的にもブリジットのほうが立場が上となるので、男爵としては粗末に扱えず、とりあえず賓客用の離れに宿泊させていたのであった。
リューは門番にブリジットに面会を希望する旨を伝えた。
だが門番は、Fランク冒険者になどに近衛騎士様が会うわけがないだろうと取り合ってくれなかった。またいつもの展開である。
「お前の判断じゃなく、一応聞くだけ聞いてこい」と要求するリューであったが、言えば言うほど門番の態度も頑なになっていく。面倒なので力づくで押し通ってやろうとかと思い始めたところで、リューの見知った人物が何の騒ぎかと屋敷から出てきたのであった。
ガーメリア 「何か揉めているのか? ってリュージーンではないか。それとヴェラだったか? どうかしたのか?」
国の重職(宮廷魔道士)についているガーメリアもまた、街に入った後すぐ領主に挨拶に行き、そのまま領主の館に世話になっていたのである。
門番 「が、ガーメリア様のお知り合いでしたか?」
リュー 「領主の屋敷の中に近衛騎士のブリジットがいるはずだが、門番が通してくれないのだ」
ガーメリア 「確かにブリジットも離れに一緒に宿泊しているぞ。昨晩は一緒に食事をした。ブリジットに何か用か?」
リュー 「昨晩、警備兵に暗殺されそうになった。犯人を捕らえたので引き渡して裁いてもらおうと思ってな。犯人が警備隊の人間だったので、警備隊に渡すわけにも行かないだろう? ブリジットは街の治安を立て直すために来たんだろう? 昨日、警備隊の悪行をキッチリ裁くと約束してくれたんでな、それを実行してもらおうかと」
ガーメリア 「リューはブリジットと知り合いだったのか?」
リュー 「昨日、入場時に門番と揉めてな、その時に会ったんだ。」
ガーメリア 「そう言えば、私は昨日は貴族用の門を抜けてしまったんだったな。平民用のゲートで揉め事が起きているとは気づかなんだ。リュー達も貴族用の門から通してやればよかったな。しかし、門番と揉めたとは、何があったんだ?」
リュー 「金貨十枚の入城料を要求されたよ。さらにヴェラは警備兵から痴漢行為を受けた」
ガーメリア 「入城料に金貨十枚はさすがに高いな! それに痴漢行為とは、許されない恥ずべき行為だな! それが本当なら、街を守るべき立場の者達が何をやっているのか……」
リュー 「随分とこの街は風紀が乱れているようだ。この街の警備兵はいつもそんな事をしていたらしい」
ガーメリア 「…確かに、ブリジットはこの街の治安と風紀の乱れを調査し、必要であれば糺す権限を王命によって与えられていると言っていた。よし、中に入ってブリジットに話を聞いてみよう」
ガーメリアが招き入れてしまったので、門番も通すしかない。
門を潜り、玄関を入る。
すると、室内にはいかにも執事と言う装いの老人が立っていた。
執事 「ガーメリア様、どうかされましたかな?」
ガーメリア 「ああ、ラムダ執事長、ブリジットと話したいんだが、今どこに居る?」
執事長 「そうですか、ブリジット様はこれから領主様と面会の予定が入っておりますので、その後で~」
ブリジット 「構いません。賢者様も是非一緒に領主に話をしましょう」
その時ちょうど、ブリジットが姿を現し、声を掛けてきたのであった。
ガーメリア・執事長 「「賢者様?」」
リュー 「賢者じゃない、ただの冒険者だ」
ブリジット 「死んだ人間を生き返らせるただの冒険者などおりませぬ」
ガーメリア 「死んだ人間を生き返らせた?!」
ブリジット 「はい、この目で見ました。リュージーン殿は警備隊百五十名を一人で全滅させた後、すべて生き返らせてみせたのです。そんな事ができるお方が、賢者でなかったらなんと呼べば良いのでしょうか」
ガーメリア 「信じられん……蘇生魔法などドロテア様だって使えないのに……」
ガーメリア (まさか、ドロテア様が言ってたのは、本当なのか?
…この男が本当にSランクを超える存在だというのか?
いや、前から疑っていたが、集団幻覚を魅せる能力を持っているのではないのか? やはり悪名高きイド・デヴィンと関係があるのでは……)
ジト目でリューを見るガーメリアであったが、この場でこれ以上どうする事もできない。
とりあえず、ブリジットと領主の面会にリューとガーメリアも同行させてもらう事となった。
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領主の名はジョルジョ・バラス。この街ひとつだけが領地の男爵である。
ブリジットに街の警備兵の現状について指摘を受けたところ、バラスはすぐに非を認め謝罪し、綱紀粛正に務めると素直に約束した。
バラス男爵は警備兵の風紀の乱れについては「何も知らなかった」と言い訳をした。
なんでも、警備隊については息子のトツテにすべて任せていたと言う。早速、トツテを呼び状況をよく調べさせ、善処させると約束してくれた。
リューが収納に入れていた暗殺者二人も領主が厳しく罰するというので任せることになった。
正直、リューにはバラス男爵がそこまで信用できるとも思えなかったのだが、ブリジットがそうすると言うので、任せてみる事にした。
ブリジットには、もし言葉だけの言い逃れで何も変わらないようなら、リューとしても手加減はしないと警告はしたが。
ブリジット 「何をする気なのですか?」
リュー 「警備隊は全員殺すか? せっかく生き返らせてやったのに、無駄な事だったな」
ガーメリア 「警備隊を殺すだと?! 何を言ってるんだ?!」
リュー 「昨日、あれだけ警告し、生き返らせてまでやったのに、懲りずに俺を暗殺しようとしてきたのだ。それだけで全滅させてやってもいいと思うんだが? 自分を殺そうとしてきた相手に、なぜそこまで寛容にならなければならん?」
ブリジット 「待ってください、現在、警備隊の実情・罪状について独自に洗い出し中です。領主の調査結果と照らし合わせて齟齬があるなら私も断固とした態度で臨みます。結果が出るまでいま少しだけ、待って頂けませんか? 犯罪を犯した者は、必ず厳正な処分を受けさせます」
ガーメリア 「警備隊を全滅させるなど、お前一人で……
…できそうだな、お前なら。
だが、警備隊が居なくなってしまったら街の防衛はどうするんだ?
平民は考えなしに好き勝手言うが、上には上の考えがある、いろいろな
リュー 「…そういえば、盗賊の村で保護した奴隷の二人はどうした?」
ガーメリア 「ああ、昨日のうちに領主に引き渡し処理を頼んだ。私は王宮に帰らねばならなくなってな。だが領主には元の親の居場所を確認して送り届けるようしっかり頼んである。心配しなくていい」
リュー 「そうか。まぁ、そちらは任せよう」
ガーメリア 「ああ、任せておけ、色々とな。平民は政の心配などしないでよいのだよ」
リュー 「そうだといいんだがな……」
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次回予告
愚かな領主の息子
乞うご期待!
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