第257話 毒が嘘だと思うのなら、このお茶を飲んでみるがいい

リューは金貨を取り出すとテーブルの上に置いた。叩きつけられたコインがピシリと乾いた音を立てる。

 

リュー 「無礼な事を言うなよ、金ならほれ」

 

リューが金貨を指で弾き、店の女中のほうに滑らせた。テーブルから落ちる寸前、女中が金貨を受け取る。

 

料理長 「ま、まいどあり……」

 

リュー 「毒が嘘だと思うのなら、このお茶を飲んでみるがいい」

 

料理長 「え、いや、その……」

 

リュー 「その奥に居る料理人、ソイツはどうだ? ソイツがお茶を入れたんだろう?」

 

料理長 「なに?!」

 

奥にいる料理人を振り返った料理長。

 

料理長 「ソジオ、お前、まさか……?」

 

ソジオ 「何言ってんだ、そんな嘘を信じるのか?! ソイツは食い逃げしようとしてるんだ!」

 

リュー 「金はもう払った。嘘だと言うのなら飲んでみろよ」

 

お茶を料理長のほうに差し出すリュー。どうしたらいいのか困っている料理長、後退っていくソジオ。

 

リューは、カウンターの脇に置いてあった生簀に湯呑をひっくり返して中身を注いだ。すると中を泳いでいた魚が浮き上がってくる。

 

料理長 「ソジオ! お前、なんでそんな事!」

 

ソジオ 「う、うるせぇ! 警備隊を敵に回したソイツらが悪いんだよ!」

 

ソジオは厨房に置いてあった包丁を手に取り、店内に走り込んで来た。店の客達が悲鳴をあげて逃げていく。

 

ソジオ 「お前達を殺す!」

 

リュー 「やめておけ、お前では無理だ」

 

ソジオ 「うるせぇ! 覚悟しやがれ」

 

包丁を中腰に構えて突進してきたソジオだったが、どこから出てきたのか(亜空間収納から取り出したのだが)リューの手の中にあった剣がソジオの鳩尾みぞおちに突き刺さる。剣は鞘に納められたままだったので刺さりはしないが、ダメージでソジオは動けなくなった。

 

料理長 「お前……料理人が客に毒を出すなんて!」

 

ソジオ 「う……くそ……上手く行ったら警備隊に入れて貰える話になってたのに……」

 

料理長 「お前なら、立派な料理人なれると期待していたのに」

 

ソジオ 「何を今更! いつも俺にばっかり厳しく怒って、俺の事を嫌ってたんじゃないのかよっ」

 

料理長 「馬鹿野郎っ、お前に一番期待してたからこそ、一番厳しくしてたんだろうが! それをオメェ……」

 

ソジオ 「そんな、親方……俺……才能ないのかとばっかり」

 

料理長 「何言ってる、お前の料理のセンスが一番光るモノがあった! お前ならきっと俺の後を継げるって思ってたんだよ!」

 

ソジオ 「親方ぁ~!」

 

リュー 「ああ、なんかいい雰囲気の所悪いんだが、お前は殺人未遂だから。死刑だな」

 

親方・ソジオ 「え?」

 

リュー 「警備隊に突き出して……も無駄か。取り敢えず縛って明日ブリジットにでも引き渡すか」

 

料理長 「ま、待ってくれ! ソイツには料理の才能があるんだ! 俺の指導が悪かった、俺の責任だ! なんとか見逃してやっちゃぁもらえねぇか?」

 

リュー 「客に毒出した店ってのも、続けられないだろうなぁ? だが、元店員が勝手な事をやったって話なら、なんとか生き残れるかもしれないと思うが?」

 

料理長 「ソジオ! てめぇなんざ弟子でもなんでもねぇ! 最初っから怪しいと思ってたんだ! 出ていけ、二度とウチの店と関わるんじゃねぇぞ!」

 

ソジオ 「そんなぁ親方ぁぁぁぁぁ!」

 

あっさり親方に見捨てられ放心状態になったソジオをリューはロープでぐるぐる巻きにし亜空間に収納しておいた。(何もない無の空間に長いこと入れられると人間は気が狂ってしまう事もあるらしいが、明日の朝までくらいなら大丈夫だろう。)

 

料理長はこの事は黙っていてくれと、料理の代金の何倍もの金を渡してきたが、それを拒否し、リューは宿に帰り眠ることにしたのだが……

 

今度は夜中に襲撃を受けた。またしても警備兵である。街の治安を取り締まるはずの組織が、暗殺を平気で行う、もはやこの街は取り返しの付かない状態になっているのかも知れない。

 

暗殺者がリューの寝ているベッドに短剣を突き立てようとしたが、その手首を掴んで止めるリュー。リューの凄まじい握力・膂力に暗殺者はそのまま動けなくなる。

 

ベッドから起き上がったリューは暗殺者を強引に腕力で引き倒し殴って気絶させると、縛り上げて収納しておいた。

 

コイツも朝になったら昨日の料理人と一緒にブリジットに殺人未遂の犯人として引き渡すつもりである。

 

そして、夜が明けて翌日。

 

さっそくリューとヴェラは領主の館に向かった。ヴェラは街で待たせておこうかと思ったのだが、街の治安を守る警備隊員が暗殺しにくる街である、リューと一緒に居たほうが安全であろうという事で、結局一緒について来る事になった。(ヴェラもそれなりに実力はあるのだが、万が一と言う事もある。ヴェラも面倒事は全部弟に任せてしまえばいいという姿勢が基本なのであった。)

 

ブリジットは領主の館の離れに泊まっていると言っていた。ついでに領主に会って文句の一つも言ってやろうかと思うリューであったが……ここでもお約束の展開が待っているのであった。

 

 

― ― ― ― ― ― ―

 

次回予告

 

ブリジット領主を詰める

 

乞うご期待!

 

 

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