第519話 究極の選択?!

その後リューは、しばらくの間は、そのような夢を見る事はなかった。


やっぱりアレはただの夢だったのだろうとリューも忘れてしまったのだが……


二ヶ月後、再び、夢の中にあの女性が現れたのであった。


受付嬢 「……上司に問い合わせして、やっと返事が返ってきました。大変だったんですよ」


リュー 「随分時間がかかったな?」


受付嬢 「仕方ないじゃないですか! たくさんの上司を経由して、上位の神様まで話が届いて、返事が降りてくるのにもまた時間が掛かるんです。だいたい、一番上の神様まで話を上げようとしたら、いくつ次元上司を超える必要があると思ってるんですか?」


リュー 「な、なるほど……」


受付嬢 「で、新しい世界の人間を古いほうの世界に転移させる、という要望について、結論なんですが。できるかできないかで言えば……


…可能だそうです!


もともと2つの世界は一つとその複製だったわけで、差異が少ないので、それを一つに戻すという形で、統合させる事は可能と」


リュー 「同じ人物が二人になるケースも? 問題なし?」


受付嬢 「ええ、その場合は、魂を一つに再統合するような形で、戻してしまうそうです」


リュー 「あの時点で死んでいた、つまり俺が生き返らせた人間は……?」


受付嬢 「死ななかった事になります。その場合、当然、元の世界側の記憶や歴史、世界の有り様に不整合が生じる事になるわけですが……


…そこは、神様が “いい感じ” にうまく調整してくれるみたいです」


リュー 「へぇ! さすが神様…」


受付嬢 「ただし……条件がありまして……」


リュー 「タダではやってくれないのか……甘くはないんだな。で、その条件とは?」


受付嬢 「……あなたに与えられた神の力を返してもらう事になるそうです。また勝手に世界を創造されても困りますしね」


リュー 「……え?」


受付嬢 「現在あなたには、あなたが転生時に求めた条件『世界を相手に一人で戦っても勝てる力』が与えられています。その条件を満たすために、これまでではありえなかった特例中の特例なのですが、神の力の一端が与えられる事になりました。


具体的には、時間と空間を操る能力ですね。それを実現するために、ほぼ無限の魔力を生み出すオリジン変換能力と、神の眼の能力、さらにそれに耐えうる肉体(竜人の身体)が与えられました。


特に時間を操る能力は神の能力の中でも最上位に位置する能力です。普通は転生者であっても人間に与えられる事はありません。ただ、今回は、廃棄予定の世界であると言う事で、実験的な意味もあったようで、特別に許可が降りたようですね」


リュー 「廃棄予定?!」


受付嬢 「ああ、いえ、今は廃棄予定はなくなりました。もう少し様子を見るという決定になったようですよ? おそらく、あなたを転生させた事の影響を、経過観察しているようです」


リュー 「そうなんだ……ええっと……


…じゃあ、世界を統合してもらったとした場合……、俺の無敵の能力は全部なくなっちゃうの? あんなバイオレンスな世界で? 俺、死んじゃわない?」


受付嬢 「全部ではありません。今更種族変更できないので、竜人の肉体は残ります。つまり竜人の能力はすべて残ります。竜人としてのレベルアップ能力も残るようです。これは本来は竜人が持っていない、あなた専用に誂えられた特別仕様なのですが、神の力ではないので残るようです」


リュー 「それから?」


受付嬢 「それだけですが?」


リュー 「……なるほど……。つまり、転移は使えなくなるわけだな?」


受付嬢 「そうなりますね」


リュー 「時間を止めたり、巻き戻したりも?」


受付嬢 「当然できなくなります」


リュー 「次元斬も、次元障壁も?」


受付嬢 「…? …ああ、空間魔法を防御と攻撃に応用したのですね? それももちろん使えなくなります」


リュー 「相手の心を読んだりも?」


受付嬢 「できなくなりますね。神眼の能力も転移のために必要だったから付与されただけですし」


リュー 「あ! 収納魔法も?」


受付嬢 「それも時空属性のスキルでしたから、なくなるでしょうね」


リュー 「それはちょっと痛いかも……


…魔法は? 魔力変換能力も?」


受付嬢 「時空属性スキルを使うために与えられた能力ですから、当然なくなるんじゃないかと思いますが」


リュー 「じゃぁ魔法は? 俺、魔力ほとんどないんだけど?」


受付嬢 「ああ、オリジン―魔力変換能力を組み込むために、魔力ゼロ設定になっているんでしたね。それはあんまりなので、魔力に関してはもうちょっと人並みにならないか、もう一度訊いてみますが……最悪は、ゼロのままって事になるかも知れませんね」


リュー 「…それって、まだ決定じゃないんだよね? 転移・統合させる事を選択せずに、消滅させる事を選択すれば、能力は全てもとのまま?」


受付嬢 「そうなりますね」


リュー 「うわ、つまり、ミムルの街の人々を復活させるか、俺の能力を残すか、究極の選択って事かよ」


受付嬢 「すぐに答えを出す必要はありませんよ、まだこちらも諸々の処理に何ヶ月か掛かりますので、その間によく考えてみて下さい」


そして、リューが選んだ結論は……




  * * * * *




キャサリン 「リュー、久しぶりね。聞いてるわよ、Sランクになったらしいわね? 見違えたわ」


ギルマスの部屋に招き入れられたリューは、自分がミムルを出て王都へ向かった後の事を尋ねてみたのだが、特に事もなく、平穏に今まで続いていたららしい。


ヴァンパイアについて尋ねてみると、隣の街、国境の街ヴァレードに魔族の侵攻があったが、すぐに引き上げていったとの事であった。


キャサリン 「聞いてるわよ、あなたが活躍したそうじゃない?」


どうやらヴァレードの街で、リューがヴァンパイア達を退けたという事になっているらしい。


その後、リューの訴えでヴァレードの街に潜伏していた、ヴァンパイアの子供を攫った冒険者達は逮捕され、犯罪奴隷に落とされたそうだ。


リューが子供達を魔族に返しに行き、ヴァンパイアロードに感謝され、ガリーザ王国と魔族の間で国交が始まったのだそうだ。


その後、リューは国を出た事になっているらしい。


リュー (なるほどね、辻褄が合うように調整してくれてるわけね……)


― ― ― ― ― ― ―


次回予告


ミムルの人々と再会するリュー


乞うご期待!



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