第518話 異世界転生受付嬢

数ヶ月ほど前から、リューは妙な夢を見るようになっていた。


リューの目の前に、見覚えのある人物が居て、話しかけて来るのだ。


その相手が誰であったか、徐々に記憶が蘇ってくる。


それは、リューが転生する時にであった女神様……


…いや、それは女神ではなく、その代理の、いわば “受付嬢” である。(その事が不死王の解説でリューも今は少し理解できていた。)


まぁ神様を代理しているのだから神様と同じ、人間より上位の存在であるのは変わらないので、人から見ればそこはあまり重要ではないのだが。



― ― ― ― ― ― ―

※なぜ異世界転生時に出てくるのは女性の神様ばかりで、男性の神様が少ないのか? という問題―――まぁ、リューは日本ではあまりラノベなど読まなかったので、素直に受け入れて女性神である事にあまり疑問は抱かなかったのだが―――これは、死者の案内のための受付嬢であると考えると理解しやすい。


“受付” には若くてきれいな女性を配置するというのは企業などでも当然の配慮となっている。これは、女性差別というような話ではなく、受付とは組織や企業の “顔” なのだから、見栄えが良く、かつ柔和である(攻撃的ではない)ほうが好ましいという、適材適所というだけの事である。


力仕事を行う部署に男性が配置される事が多くなる。肉体的には男性のほうが女性より “力が強い” のは客観的事実であり、そういう意味でも女性のほうが “対外的な顔” としては “攻撃性” が低くフレンドリーに見えやすいというだけの事である。


もちろん、受付に男性が居ても問題はないが、美しく柔和という条件に当てはまる男性が少ないのは否めない。肉体労働をする部署に女性が居ても問題はないが、男性と同じレベルで力仕事ができる女性が少ないのは否めないのと同じである。


そのため、基本的には転生時には、(特に男性には)女性の受付嬢が対応する事になっている。そのほうが話が穏やかに進みやすいからである。(女性に対しては、男性が着くこともある。ただし、女性であっても女性の方が良い場合もあるので、そこは相手を見て判断するらしい。)そして相手は人間より霊格が上の存在なので、神のように感じられてしまうというわけである。


さらに言えば、神(及びその代理)に性別の概念はそもそも当てはまらないのだが。強いて言えば、人間の感覚でいう男性女性に近い区別をつける事は可能であるが、生殖行為のない死後の世界では、性別はあまり意味のない事なのである。


また、なぜ代理かというと、そもそも本物の神という存在はあまりに高次元過ぎて、人間の魂と直接コンタクトなどできないのである。そのため、その間をつなぐ、神よりも低級な、しかし人間よりは高次元の存在が間を結ぶのである。


リューの目の前に居る受付嬢も、その神に連なる系統の末端、人間と直接話をする担当者、というような立場という事になる。(つまり上に何人かさらに担当上司が居る。)

― ― ― ― ― ― ―



ただ、リューの夢の中で、目の前に居る受付嬢は何故か怒っている様子であった。


受付嬢 「…あなたねぇ、別の世界を勝手に作ってしまったでしょう? しかも作りっぱなしで管理もせずに放置して!」


リュー 「…ああ、あの時の……」


リューは一瞬何の事を言われているのか分からなかったが、しばらく考えて思い出した。ミムルが吸血鬼たちに襲われて絶滅した時、別の、ミムルが絶滅していない世界を作ってしまったのだった。


受付嬢 「あの時の、じゃないですよ。作りっぱなしで調整もせずに放置しているから、その世界、不安定な状態になっちゃってるんですよ?」


リュー 「調整? そんなの必要だったんだ、知らなかった…」


受付嬢 「まぁ、そもそも、一人間でしかないあなたに世界を管理・調整するなんて無理でしょうけどね」


リュー 「なんだ、じゃぁしょうがない」


受付嬢 「しょうがないじゃないでしょう! まぁしょうがないのはしょうがないんですけど……。


ただ、不安定な世界をそのまま放置してると、他の世界にも影響を与えてしまう可能性があるんです! そこで、上からの指示で、その世界は消してしまうという事になりましたので、そのお知らせです」


リュー 「……そ、そうなんですか……」


受付嬢 「普通はお知らせなんてせずに黙って処理するのですよ? ただ、アナタの場合は、一部だけですが、世界を創造する神の力が与えられてしまっているので、扱いがやや特殊になっていまして。そもそも、神の力の一部にせよ直接分け与えられた人間なんて、例外的な存在ですからね」


神の力というのは、時空を操る力、そしてさらにはそれを扱う事を可能にするために与えられた、無から有を作り出す力=根源素オリジンから何かを生み出したり消したりしてしまう能力の事である。


受付嬢 「なので、一応まがりなりにも世界を作り出した実績のある、神に準じた存在なので、一応断りを入れておけ、という上からの指示でして。


まあ消滅は決定事項なんですけどね。所詮は人間に過ぎないあなたに、神の仕事(世界の管理)なんてする能力はありませんから。消すしかないわけです」


リューには言ってる意味が少し理解できてしまう。例えば神眼である。リューの精神の器では一人の人間の心の中を探るだけでも情報過多で手一杯なのである。神ともなると、その世界のすべての存在の情報を同時に瞬時に処理できる能力があるらしい。そんな事は、リューの能力ではとても不可能な話である。


リュー 「……そうか、あの世界はなくなってしまうのか……せっかく作ったのにな」


死んでしまったミムルの人達が、死なずに生き続けてる世界がどこかにあるといいなと思って作ってしまったわけで、なくなるというのも少し寂しい気もする。


リュー 「なぁ、消してしまうと、その世界の人々はどうなるんだ?」


受付嬢 「全員消滅、という事になります」


リュー 「死ぬのか?」


受付嬢 「どちらでも」


リュー 「どちらでも???」


受付嬢 「全員死んで、別の世界に転生させる事もできますし……」


リュー 「し?」


受付嬢 「最初から存在しなかった事にする事もできます」


リュー 「そんな事できるのか」


受付嬢 「世界を創造する能力のある神様の御業ですから」


リュー 「……」


受付嬢 「考えても仕方ないですよ、決定事項ですから」


リュー 「……なぁ、じゃぁ、その世界の人間、こちらの世界に転移とか、できないか?」


受付嬢 「……え? 転移、ですか?」


リュー 「ああ、あの時、こちらの世界では死んでしまった者達だけ、こちらの世界に~」


受付嬢 「それはできません。選べるのは、全て消滅(なかったことにする)か、全て転生、のどちらかにしてください。いちいち、一人ひとり吟味して、転移者を選別するなんて、大変な作業になりますから」


リュー 「……ならば、全員まとめて転移させてしまえば」


受付嬢 「それも不可能ですね。だって、そちらの世界で死んだ人だけじゃなく、生きている人もいるんですよ? あなたはそちらの世界を “複製” してしまったのですから。同一人物を一つの世界に二人押し込んでしまったら、パラドックスが発生して、それこそ世界が消滅しかねないんです」


リュー 「むむむ、そうなのか……神の力をもってしても、できないのか?」


受付嬢 「……私には無理ですが、神様であれば、できるかも知れませんが」


リュー 「ん? 神様ならできるって? いまそう言った? だったらちょっと、聞いてみてくれないか?」


受付嬢 「ええええ~? うーん……、そんなの、前例がないと思いますが……


とは言え、神様に確認しろと言われたのに、訊かずに勝手な判断するとそれも怒られますね…。


仕方ない、一応聞いては見ますが……くだらない事聞くなって怒られそうな気もするなぁ……ああ、なんて面倒な事を言い出……」


その日の夢はそこで終わり、リューは目を覚ましたのであった。



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


代償――究極の選択


乞うご期待!




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