第520話 ミムルの人々

そういえば、リューはふと、ダグラスについて聞いてみた。キャサリンの前にこの街の冒険者ギルドのマスターをしていたダグラスである。リューをずっと酷く扱ってきて、その件でリューと敵対し、最終的に借金奴隷に落ちたわけだが……そのダグラスも一緒に生き返ったのか気になったのだ。


キャサリン 「ダグラスも元気よ、バリバリ働いてもらわないと困るから、病気や怪我をしてもすぐに治療しているわ。まぁ、寝る時と食事の時以外はひたすら働くだけの奴隷人生だけどね。それでも借金の返済がなかなか進まないので、本部からは鉱山送りにでもしたらどうだって言われてるけど、本人がそれだけは勘弁してくれと懇願してるから…まぁ、鉱山に売っても途中で死なれたら借金完済にはならないしね。このままギルドの便利な奴隷として働いてもらうつもり。借金返済は…あと20年くらいかしら?」


リュー 「そうか……まぁ自業自得だな」


キャサリン 「そうね。ところで……」


キャサリンがエリザベータを横目に見ながらリューに小声で言う。


キャサリン 「この美女は誰よ? ん? Sランクになったからモテてるってわけぇ?」


キャサリンは多少声のトーンを落としはしたが、エリザベータに丸聞こえである。


キャサリン 「さては、女とっかえひっかえして楽しんでるってわけか? このこのこの! この世の春かよっ」


リュー 「う、うざいな…」


エリザベータ 「エリザベータと申します、今、リューと一緒に旅をしています。どうぞよろしく」


キャサリン 「これはご丁寧に。私はミムルの冒険者ギルドのマスターをしているキャサリンよ。リューとパーティを組んでいるの? 美女とパーティとか、さすがぁこのS男!」


リュー 「S男…誤解を招きそうな言い方だな」


エリザベータ 「パーティ登録はしていません。が、まぁ、似たようなものでしょうか」


キャサリン 「この~女たらし! すっかり悪い男になっちゃってもう! あ~なんで私は幸せになれないのかしら?! もういっそ、リューの愛人でもいいわね、どう? 尽くすわよ?」


そういえばキャサリンは、一見まともな人物に見えるのだが、何かとリューを利用しようとする、微妙に面倒な人物であったのをリューは思い出した。


いいかげんウザくなってきたので、リューは話を切り上げる事にした。別に、特に冒険者ギルドに用があるわけでもないのだ。ただ、どんな感じに世界が改変されたのかを確認したかっただけなのである。


冒険者ギルドを出たリュー。


今度はスラム街の入口近くにある教会へと向かう。そう、シスター・アンが居る孤児院である。


    ・

    ・

    ・


『……だれぇ?』

『誰か来たよ……?』


教会に到着し、裏手の孤児院に回ると、知らない子供達が出迎えてくれた。リューが街を離れている間に加わった新しい孤児達だろう。子供達が呼んでくれて、すぐに奥からシスター・アンが出てきた。


アン 「あら、リューちゃん? リューちゃんじゃない! 久しぶりねぇ、元気だった? 活躍の噂は聞いているわよ。まぁ、奥さんを紹介しに来てくれたのね?!」


リュー 「ええ?! いや、そういうわけでは……」


アン 「ふふふ、冗談よ。ごめんね、いきなり奥さん呼ばわりしちゃって。はじめまして、私はシスター・アンです。リューちゃんがお世話になっているようで…」


エリザベータ 「初めまして、エリザベータと言います。リューの奥さんになれたらいいなぁと思ってくっついてきました!」


開き直って笑うエリザベータ。


アン 「あらあらまぁまぁ! エリザベータさん、とりあえず中へ…奥でお茶でもどうぞ」


お茶を飲みながらシスター・アンに近況を尋ねてみると、至って平穏順調との事であった。


リューが収納魔法を掛けて預けていったお金のお陰で、子供達も飢える事なく健やかに育っているという。追加の寄付金を預けようかと提案したが断られた。まだまだ金は残っているし、働いてお金を入れてくれる元孤児達も増えている。最近は領主も支援してくれていて、特に困るような状況はないのだそうだ。


なるほど、いい感じ・・・・に、バイオレンスもなく、穏やかに時間が流れてた事になっているようだ……。


スラム街の奥の様子までは見に行く気はないが、シスターに尋ねてみると、ゾーンはキチンと裏社会をまとめ上げているらしい。最近は無茶はせず、極力まっとうな仕事で稼ぐようにしているようだ。お陰で、仕事にあぶれスラム落ちしたような者達の受け皿になっているとか。最近はゾーンは領主と交渉し、スラムの者にできるような仕事を斡旋してもらっているらしい。


リュー (ゾーンもいい感じ・・・・に頑張っているようだな。)


    ・

    ・

    ・


アン 「じゃぁ、頑張ってね。たまには顔を出すのよ?」


リュー 「ああ、シスターもお元気で。何か困った事があったらいつでも呼んでくれ」


教会を出たリューとエリザベータだったが、歩いていると声を掛けてくる者が居た。見れば、リューの見知った顔であった。商業ギルドのマスター、エイルである。


リュー 「久しぶりだな、どうだい景気は?」


エイル 「ぼちぼちでんなぁ」


と商人的な挨拶を交わしてみるが、そのエイルが、また何か魔物の素材を持っていないかと言ってきた。


そういえば冒険者ギルドと険悪だった時、商業ギルドに素材を買い取ってもらっていた事を思い出した。ある意味、エイルには恩があるので、リューは二つ返事でOKを出した。魔物の素材はたくさん持っているのだ。


商業ギルドにつくとそのまま裏の倉庫に案内され、さぁ出してくれとエイルに言われる。


リュー 「そう言われても、何を出せばいいんだ?」


もうずっと、溜め込む一方であまり処分していないので、魔物の素材は色々とある。具体的に何がほしいか言ってくれと言うリュー。エイルの欲しいものを挙げてもらい、あれば出すし、なければないと答えるということにした


エイル 「欲しい物ですか? そうですねぇ、最近は、不景気というわけではないのですが、あまりパッとする話題もないので、何か話題になりそうなもの、例えば以前売って頂いたドラゴンなどの素材はありますか?」


リュー 「ん~~~、すまん、ドラゴンはないようだ」


収納されているモノを確認しながらリューが言った。(以前のような収納魔法は使えなくなってしまったが、代わりに不死王が容量無限の収納の魔道具をくれたので、素材の収納・運搬については特に問題はないのであった。)


リュー 「変わったモノでレアな素材と言うと……コカトリスなんてのはどうだ?」


エイル 「コカトリス! それはいい、ぜひ売って下さい!」


リュー 「あと、マンドラゴラもあるぞ?」


エイル 「おお! さすがSランク冒険者になられたリュージーン様、相変わらず、色々とレア素材をもっておられますな」


リュー 「Sランクになった事、知ってたのか?」


エイル 「もちろんです。情報は商人の命ですから。ご活躍のようですね」


情報伝達の遅いこの世界で、他国の冒険者の情報が既に流れているというのも若干違和感をリューは感じたが、まぁ冒険者ギルドでは各国の支部と通信網が確立しているのだから、商業ギルドもおそらくそうなのだろうということで納得する事にした。


ついでに、旅の途中でエリザベータが狩った獲物もすべて商業ギルドで買い取ってもらう事にした。


ただ、例によって、すぐに査定金額が出せないので翌日まで待ってくれと言われ、リューはミムルの宿屋に一泊する事になったのだが。


以前は転移魔法で気軽にトナリ村に帰って寝ていたが、今はもう以前のように気軽に遠距離通勤はできないのだ。



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


ランスロット 「ランスロットをお忘れなく! リューサマは未だ、世界最強です」


乞うご期待!



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