第418話 人は、信じたい事を信じる

家に帰ったハンス。


(ハンスは娘婿としてデボラと子供達とともに代官の私邸に同居している。)


急に帰ってきたハンスにデボラは驚いた。


デボラ 「ハンス? どうしたの? 隣町に視察に行ったんじゃなかったの?」


ハンス 「ああ、いや…、ダンジョンにスタンピードの兆候があったと知らせを受けて、僕だけ戻ってきたんだ」


デボラ 「スタンピード?!」


ハンス 「いや、それはもう解決した、今はもう危険はない状態らしい」


デボラ 「そう……でも、それにしては浮かない顔ね?」


ハンス 「デボラ……話がある……」


デボラ 「なぁに? 食事は? してきたのならお酒でも飲みながら話す?」


ハンス 「……ミィに会った」


デボラ 「!」


ハンス 「スタンピードを解決してくれた冒険者のパーティが居てな。ミィもその仲間だったんだ」


デボラ 「…ミィと話したの?」


ハンス 「ああ、話した。ミィは……奴隷にされていたそうだな」


デボラ 「み、ミィに何を聞いたのか知らないけど、嘘よ! あなたに未練があって、ある事ない事並べているのよ!」


ハンス 「デボラ…、ミィは何も言ってないよ……。僕にも会わず、黙って街を出ていくつもりだったらしい」


デボラ 「え?」


ハンス 「俺はつい、ミィのワガママでパーティを全滅させた事を責めるような事を言ってしまったんだ。だけどミィは何も言わなかった」


デボラ (ミィは約束は守って何も言わなかったのね? でもだったらさっさと街を出ればいいのに! 相変わらずグズね!)


ハンス 「ただ、態度がおかしかったから、ミィと別れた後、一緒に居た冒険者に話を聞かせてもらったんだ…」


デボラ 「!!」


ハンス 「彼らは、デボラが、ミィ達を罠に嵌めて殺そうとしたんじゃないか? なんて言うんだよ」


デボラ 「そ…んなの、嘘よ…」


ハンス 「ああ、とても信じられない。そう言ったら、別に信じなくてもいい、信じたい事を信じればいいと言われた…」


デボラ 「そう! そうよ、信じる必要はないわ、そんな、無関係な冒険者の与太話。ミィは何も言ってなかったんでしょ? 直接、その場に居た当事者の私とミィが言ってる事が真実に決まってるじゃない!」


ハンス 「そうか、そうだよな……今日は疲れた、もう休むよ……」


ハンスは混乱していた。ミィの話は、これまでハンスが信じていた真実とは相容れない。正直、死んだと思ったミィが生きていた、それだけでも混乱している。ミィも混乱しているのだろう。


少し、気持ちを整理するのに時間が欲しいと思うハンスであった。


   ・

   ・

   ・


デボラ (ミィと一緒に居たあいつら? 余計な事を……こうなったら、ミィと一緒に始末してしまったほうがよさそうね)


デボラは、子飼いの冒険者パーティ、狩風のリーダーに連絡を取るのであった。




  * * * * *




翌日、リュー達は再び冒険者ギルドを訪れた。


買取を依頼していたマンドラゴラの代金をもらうためだ。


上位種は王都でオークションにかける必要があるが、それ以外のマンドラゴラはこの街のギルドでなんとか買い取れることになったらしい。


買取額は、マンドラゴラ一本につき、金貨六十枚。二十二本納品したので、合計で金貨千三百二十枚である。


今回はパーティとしての狩りだったので、メンバーで山分けする予定である。となると、メンバーはリュー・ヴェラ・ミィ、ランスロット・パーシヴァル・エヴァンスの六人なので、六で割って一人あたり金貨二百二十枚となる。


しかし、ランスロット達は金はいらないと言う。まぁ確かに、スケルトンが金を持っていても意味はないのかも知れないが…。


金は、あれば、何かしら使い途があるだろうとリューは思ったのだが、必要であれば彼らは亜空間に大量に “資産” を蓄積してあるのだそうで、それを売ればいくらでも金は作れるのだそうだ。


リュー 「資産? 宝石とか貴金属とか?」


ランスロット 「もちろん宝石や貴金属もありますし、世界各国の金貨や白貨などもありますよ。既に滅んでしまった文明の金貨などもね。今の文明では作れない古代遺物アーティファクトなども」


リュー 「へぇ、アーティファクト? どんなのがあるんだ?」


ランスロット 「例えば……こんなのとか」


ランスロットが亜空間から取り出して見せたのは、軸の先に二枚の翼がついていて、軸の反対側の下部には吸盤状のものがついている小さな道具であった。


リュー 「…竹とんぼ?」


ランスロット 「これは、ドラゴンフライヤーと言いまして、なんと! これを頭に付けると自由に空を飛び回れるようになるのです」


リュー 「…それって竹こ(以下略」


ランスロット 「これは名前の通り、ドラゴンの翼と同じ仕組みで飛びます。ドラゴンは、鳥とは違って、その体の大きさに比して小さい翼しか持っていないモノが多いですが、それでも自由自在に空を飛びますね。それは、翼が魔力を使って浮力を生み出しているからなのです。その原理を解明・応用し、この小さなサイズの翼で空を飛ぶ事を可能にしているのです。しかも、翼を羽ばたかせるのではなく回転させる事で魔力消費量を押さえる事に成功、魔力が少ない者でも使える優れモノです」


リュー 「へ、へぇ…スゴインダネ」


ランスロット 「ただ、コレが作られた文明の人間達にはまったく普及いたしませんでしたが」


リュー 「なんでだ?」


ランスロット 「はい、この、翼の部分が回転しながら飛ぶわけですが……装着した者は、翼の回転と逆方向に回転してしまうのです。つまり、回転しながら飛ぶ事になるわけですな。それだと、目を回してしまう “生物” には使いこなせなかったようでして」


リュー 「そ…りゃ、そうなるだろうな。でも、生物にはってことは……」


ランスロット 「はい、スケルトンであれば問題ありません」


ランスロットは頭にドラゴンフライヤーを付けると、クルクルと高速回転しながら空を飛んでみせたのだった。二~三回上空を旋回した後、リューの前に降りてきてホバリングしながら(クルクル回転しながら)ランスロットが言った。


ランスロット 「いカがデすカ? リューさマも飛ンでミまセんカー?」(回転しながらなので声がブレている)


リュー 「いや、遠慮しとく。見てるだけで目が回って気持ち悪くなってきた……」



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


「そそろ街を出るぞ」


『出さないよ?』


乞うご期待!



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