第255話 あなたはまさか、賢者様?!
リュー 「証人が必要なら…」
リューが指をパチンと鳴らすと、先程斬り飛ばされたナルダーの首が時間を巻き戻すように元に戻った。さらに、三人、コモイ、サモイ、セコも生き返った。
女騎士 「うお、何が起きている?! 治癒魔法、いや、蘇生魔法か?!」
リュー 「そんなようなもんだ」
ブリジット 「死んだ人間を生き返らせるなど、高位の神官でもできない……お前、いや……あなたは…
…もしかして【賢者】なのですか?」
リュー 「…ただのFランクの冒険者だ」
ブリジット 「いやいやいや、百人以上を簡単に蹴散らし、死んだ人間をも生き返らせる、それで普通の冒険者とか、ありえないでしょう」
リュー 「俺の事はどうでもいい、コイツラが元凶となった四人だ。何があったか証言してもらおうか」
青くなっている四人。
リュー 「法外な入城料を要求し、俺の家族の女に痴漢行為をした。そうだよな? どうした? なんとか言え、それとももう二~三回死んどくか?」
黙っている四人を見てリューはライトソードを再び起動した。剣が伸びる時のシュインという音、起動中のブーンという動作音までリクエスト通り、よくできている。
それを見て慌てて何度も頷く四人。
コモイ 「そ、そうです、その通りデス……」
リュー 「拒否したら、大勢仲間を呼んで、俺達を殺そうとした。そうだな?」
コクコクと頷く四人。
ブリジット 「その、賢者様、その四人だけでなく、できたら他の者達も生き返らせて貰う事は、できませんでしょうか? 他の者にも事情を訊きたいのですが」
リュー 「俺を殺そうとしてきた奴らを生き返らせてやる義理があるか?」
ブリジット 「それはそうなんですが、彼らはおそらく命令に従っただけなのだと思うので……。責任は、命令を下した者だけが取るべきではないでしょうか」
リュー 「俺は二度も警告したんだがな。コイツラは自分たちが悪い事をしていると知った上で襲ってきたのだ。どうやら常習犯らしい、他にも殺された者は何人もいるんじゃないのか?」
ブリジット 「いや、確かに風紀の乱れはありましたが、これまでの調査では、さすがに旅人を殺したりと言う事はないようです」
ナルダーもカクカクと頷く。
ナルダー 「本当だ! 確かに入城料で小金を稼いだり、女性に悪ふざけするような者も居たが、殺したりした事はない」
リュー 「どうだかな……」
ナルダー 「本当だ、今回のようなのは初めてだ……お前があまりに強かったのが悪いのだ」
リュー 「今までは泣き寝入りしてたって事だよな」
ブリジット 「賢者様。中には命令に従っただけの善良な兵も居たはずです。上官の暴走に巻き込まれただけなら気の毒です、彼らにも家族がいる、死ねば悲しむ者もいるはず。きちんと精査して、悪い事をした者だけが裁かれるべきではないでしょうか?」
そんな事を言われても、リューも困ってしまう。
リュー 「善良だろうと悪人だろうと知ったことか。俺は殺されそうになったから抵抗しただけ、降りかかる火の粉を払っただけだ。殺された者は運が悪かったのだ」
命令に従っただけであろうと、襲ってきたのは事実なのだから、知らんと突っぱねるリューであったが……
個々に見ていけば確かに、殺すのは可哀相な者も混ざっていた可能性があるだろうとはリューも思う。
いくらリューが自分の正当性を訴え警告したとしても、指揮官の命令を無視して “敵の虚言” に耳を貸してしまうようでは兵士は務まらないのだから。
リュー 「それと……仮に蘇生魔法が使えるとして、こんな大人数を蘇生させる事ができると本気で思ってるのか? どれだけの魔力が要ると思うんだ?」
ブリジット 「う……確かに。いかに賢者様とて、それは無理ですか……」
リュー 「…できるけどな」
ブリジット 「え?」
リュー 「試してみてもいいが……警備兵達の犯罪については、すべてキチンと調べあげて罪を償わせるんだろうな?」
ブリジット 「もちろん、犯罪行為については一人ひとり、すべて調べあげて罰します。そのために私は派遣されてきているのですから」
リュー 「…それだとせっかく生き返らせたのに、また処刑される者も多いのではないか?」
ブリジット 「それは仕方がありません。それで罪の無い有能な兵士を救いあげられるのならば……それに、きちんと罪状を認識させた上で償う事が大事でしょう」
リュー 「二度殺されるのも自業自得か。まぁいいだろう、さて、何人生き返るかな?」
リューが手を翳すと、倒れていた兵士達の時間が巻き戻され生き返っていく。
先程リューは、これだけの人数を生き返らせるには魔力が足りないなどと言ったが、リューに魔力切れの心配はない。
だが、死んでから時間が経ち、死体から幽体が抜けて次の世界に旅立ってしまったなら、もう肉体を巻き戻しても蘇生させる事はできない。
戦闘開始から少し時間が経ってしまっている。戦闘初期に斃した者が蘇生しない可能性があるので、リューはできるかどうか分からないと曖昧に言ったのであるが……
幸か不幸か結局、警備兵達は全員生き返る事ができたのであった。
ブリジット 「おおおおお凄い……こんな事ができるなんて。やはり、あなたは賢者様なのですね!」
リュー 「ちゃんと治療費払えよ?」
ブリジット 「え゛?」
リュー 「当然払ってくれるのだろう? 本来なら、蘇生魔法など、国家予算級の金額を請求するもんなんじゃないのか? 何人分だ? いくらになるかな?」
ブリジット 「そっ、それは……! そもそも殺したのはあなたじゃないですか……?」
リュー 「払えんというのなら中止だ。全員もう一度殺してやろう」
ブリジット 「そ…! お待ち下さい…! 確約はできませんが、掛け合ってみますので……もしダメな場合でも、私が自腹で、一生掛かってでもお支払いいたします」
リュー 「…ふん、冗談だよ。自分で殺して蘇生させて費用を請求するなんて、
それを聞いてブリジットはほっとした顔をした。
リュー 「だが、約束は守れよ?」
ブリジット 「約束?」
リュー 「おい、犯罪はキッチリ調べ上げて罰すると言ったろう?」
ブリジット 「は、はい、それはもう!」
同じ時。遠くダンジョンの底の研究所の千里眼モニターから見ていた不死王が呟いた。
不死王 「甘いのう、色々と…」
スケルトン 「色々突っ込みたくなりますな…」
実際、この甘い対応が後で少し面倒な事態に繋がるのであるが……
しかし反面、確かに殺すまでもなかった者が生き返った事で、良い事に繋がる面もなくはない。
不死王 「僅かな選択が、未来に大きな影響を与えていく事もある。が、まぁ、全体としてはどうでもよい些事でもある」
どのような影響があったにせよ、いくつもの種族の誕生から滅亡までを見てきた悠久の視点を持つ不死王からすれば、大した違いは無いとも言えるのであった。
スケルトン 「不死王様、お茶をどうぞ」
不死王 「うむ」
差し出されたお茶と茶菓子を受け取る不死王。
※不死王はアンデッドの王と言われているが、本人は別にアンデッドではないので、普通に食事したりできる。
スケルトン 「不死王様、私もはやく外で活動がしたいノデスガ」
不死王 「まぁ、待て。そのうち機会もあるじゃろう」
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次回予告
事情聴取
乞うご期待!
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