第150話 VSイライラ

剣を振りかぶり、打ち気満々で一歩前に出たリュー。

 

だが、次の瞬間、リューは攻撃を中止し、慌ててステップバックした。

 

あまり深く考えず不用意に踏み出した一歩であったが、リューの危険予知能力が発動、そのまま攻撃するとリューが返り討ちになる事を察知したのである。

 

(神眼は使わないようにしているリューであったが、危険予知能力は常時パッシブで発動するものなので、咄嗟に反応してしまうのは仕方がない。)

 

予知能力が見せた未来では…

 

…リューが打ち込んだ剣をイライラの小刀が逸らした時には稲妻のような速さの大刀がリューの頭に打ち込まれていた。

 

このような事態はレイナードの時以来二度目である。イライラの実力はレイナードにも匹敵するという事なのか?

 

もちろん打ち込まれたところで次元障壁の鎧を纏っているリューにはダメージはないと思われるが、打ち込まれてしまえば模擬戦は負けとなってしまうのでそうもいかない。

 

リューは色々な方向から打ち気を見せ様子を見るが、全て、瞬時に躱されて大刀を打ち込まれている未来しか見えない。イライラの二刀は左右が見事に連携して多彩な防御と攻撃が確立されている、かなり完成度の高い二刀流であった。

 

 

 

 

そもそも考えてみれば、二本対一本なのだ、一本が数的に不利なのは当然である。

 

日本の剣道でも本当は二刀流のほうが一刀流より強いという話を格闘技ヲタクの友人が語っていたのをリューは思い出した。

 

日本の近代剣道で二刀流の選手がほとんど居ないのは、勝たせてもらえないルールにされてしまったためなのだと、たしか言っていた。

 

― ― ― ― ― ― ―

※昔、二刀流が剣道界に流行り、二刀の選手ばかりが勝ってしまう時代があったという。

 

しかし、それはおかしいと考えた剣道界のお偉方が、ルールを変更して二刀流が勝てないようにしたのだとか。

 

具体的には、二刀流の打突を有効だと認めない事にしたのだそうだ。

 

日本の剣道では単に竹刀が当たればポイントになるのではなく、有効打と認められるためには「気剣体の一致」が必要とされた。「気合」「姿勢」「打突部位」「刃の位置」「刃筋」「残心」などの条件がすべて揃っていなければ有効だとして取ってもらえないのである。そして「二刀流の片手での打突」は、よほど素晴らしい打突でない限り気剣体一致と認められず、有効打としてカウントされないのだとか。

― ― ― ― ― ― ―

 

だが、単純な「当てっこ」、触れたら勝ちのルールであれば、二本対一本なら二本のほうが強いのは当たり前である。

 

例えばボクシングで、片手しか使えない選手と両手を使える選手が戦ったら、両手の選手のほうが圧倒的に強いだろう。

 

剣道も、ただ当たれば良いというルールであれば、片方の剣で防御している間にもう片方の剣で打つことができる二刀流のほうが強いのは当たり前なのである。

 

ただ、実際には真剣を使う前提の剣道である。重量の重い真剣を片手で自在に振るのは難しいというのも一理ある。剣道界のお偉方が決めた事も間違いではないのだ。


重い真剣を片手で扱えば、どうしても、両手で扱うほど小回りが効かなくなるのは確かであろう。また、攻撃力も、片手で全力で振った剣と、両手持ちで全力で振った剣では、破壊力がまったく違う事になるのも確かである。


二刀流と言えば宮本武蔵が有名であるが、その武蔵も真剣を使った実戦で二刀流を使うことはほとんどなかったというのは有名な話である。

 

だが、異世界では地球の常識は通用しない部分がある。この世界の人間は、魔力を使って腕力を強化し、地球人とは比べ物にならない膂力を発揮できるのだ。(あるいは武器に重量軽減の魔法が掛けられている場合もある。)


そうなると話が違ってしまう。ごく軽量のナイフを使った戦闘で、相手は両手で二本、こちらは一本だとしたら、ナイフを二本持っている方が圧倒的有利となってしまうだろう。

 

 

 

 

リューはどう攻めようか色々と打ち気を見せながら探っていた。だが一刀でどう打ち込もうにも、片手でそれを防がれると同時にもう片方の剣で打たれてしまう、そんな未来しか見えなかった。

 

“そのため”の技術を磨き抜いた達人相手に、リューがいくら上達したとは言え、一刀で叶うわけがないのである。

 

しかし、例えば【剣聖】レイナードならどうであろうか? レイナードは両手剣の一刀流であるが、【剣聖】ならばイライラの二刀流とどう戦うだろうか……?

 

レイナードとイライラを会わせてみたら面白いかも知れない。二人が戦ったらどちらが強いだろうか・・・? レイナードも剣術馬鹿なので対戦できたら喜ぶだろうな……

 

などと、一瞬、回想・妄想モードに入り込みつつあったリューであったが、そんな場合ではなかった。

 

ずっと「待ち」の姿勢だったイライラが、手が止まったリューを見てすかさず攻撃に転じる。

 

イライラの踏み込み、そして振り下ろされる大刀がの速さは稲妻のごとし。

 

そして、ステップバックで間合いを外すのはもう間に合わない、前に出て攻撃を潰すのも既に間に合わない、完璧な距離とタイミングの絶技である。

 

受け止める? いや、間に合わない。振り下ろされる大刀の到達のほうが、遅れて防御に回した剣より僅かに速い。

 

…僅かに身を捻って、紙一重で剣撃を躱す事ならかろうじて可能

 

だが、大刀による攻撃を躱しても、ほぼ同時に繰り出されて来る小刀による神速の突きが躱せない。

 

結局、リューは小刀の突きを食らう事になる……

 

…刹那の予知で見えてしまったそんな未来。

 

大刀・小刀それぞれ単体でも躱すのが困難な攻撃である。それが同時に襲ってくる。予知能力で攻撃を察知していながらも、なお回避方法が見いだせない。これは見事としか言えない。

 

やはり、この人物は【剣聖】に匹敵する、いや凌駕するかも知れない実力の持ち主であるとリューは確信した。

 

これほどの実力を身につけるまでに、一体どれだけの修練を積んだのであろうか……

 

それは、仮に【剣士】やその上位クラスである【剣聖】のクラスを持っていたとしても、なお、地獄のような修練を積まなければ到達できない領域であろう。

 

 

 

 

このままでは、負けは確定である。

 

いつもであれば【加速】を使ってスローになった世界で落ちついて作戦を練る事が可能であった。

 

だが、今はリューは時空魔法は自主規制中、加速アクセルを使っていない。

 

予知した攻撃は、今、まさに始まろうとしている。リューには刹那の時間しか残されていない。その間にどうするか判断しなければならない。

 

リューが思わず取った選択は……?

 

―――イライラの攻撃が始まる。


交錯する二人

 

リューは自重していた時空魔法をあっさり解禁、加速アクセルを発動した。

 

 

― ― ― ― ― ― ―

 

次回予告

 

自重をやめたリュー、二刀を手にする

 

乞うご期待!

 

 

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