第151話 二本で足りないなら三本使ったらいいじゃない?

リューは、イライラとの模擬戦に負けても良いと思っていた。

 

わざと負けるのはイライラに見抜かれてしまうかも知れないが、手を抜かず全力を出して負けたのであれば文句はないだろう。

 

だが、イライラの予想以上の剣技にリューは興味を抱いてしまう。このままあっさり模擬戦を終わらせるのはもったいない、もっと楽しみたいと思ってしまったのだ。

 

封印していた時空魔法を開放したリュー、既に最高潮の集中状態である。


―――時が止まる―――

 

斜め上から頭に振り下ろされてくる太刀を、上半身を倒して躱していたリュー。しかし、リューの動きを追尾するようにイライラの小刀による突きが既に繰り出されて来ていた。小刀は既にリューの喉に当たる寸前まで来ている。


振り下ろす大刀と小刀の突きがこの速度域で連続して繰り出されてくるというのは、リューから見ればやや無理のある理不尽な動きに思えるのだが、無理のない動きしか出来ない者を仕留めるためには効果がある。負担のある不自然な動きを厳しい修練によって平然と行えるのが強者なのである。

 

リューは小刀の軌道を逸らし、再び時が動きだす。 

 

イライラ 「!?」

 

イライラは非常に驚いた顔をした。自分の木剣がリューを確実に捉えたと確信していた、完璧なタイミングであった。にも関わらず、手応えがなかったのだ。

 

だが、即座に反撃を警戒して一旦距離をとる、その反応はさすがである。

 

イライラ 「……なるほど。妙なスキルを持っているようだな……」

 

具体的に何が置きたのかまではイライラも理解できてはいなかった。だが、確実に当たるはずの攻撃であった、それは確信があった。それが回避されたと言う事は、何らかの超常的なスキルを使ったと推測したのである。

 

リュー 「ちょっタイム。俺ももう一本剣を使っていいか?」

 

二刀流は ―――両手と同じように片手で剣を扱えるなら―― 一刀流より強い。なるほど。

 

そしてリューの握力・腕力は非常に強い。ならば、自分も二刀を使えば手数で負ける事はなくなるとリューは考えたのである。

 

イライラ 「ふん、構わんが、二刀を使ったことがあるのか?」

 

リュー 「いや、初めてだ」

 

イライラ 「舐められたものだな。二刀を使いこなすには長い修練が必要だ、思いつきでどうにかなるものではないぞ?」

 

リュー 「そりゃそうだろうな」

 

そう言いながらも、リューは練習用の木剣をもう一本持ってきて構えるのだった。

 

イライラ 「ふん、一本だけにしておけば良かったと後悔する事になるぞ!」

 

経験もないのに安易に二刀を持ったリューに苛ついたのであろう、イライラは、自分から攻撃を開始した。

 

だが、イライラの攻撃はリューの両手の剣によって悉く受け止められ、受け流されていく。しかも、最初は辿々しかったリューの動きが徐々に洗練されていく。

 

自重を止めて能力をフルに使っているリューを、いかに達人であろうと捉える事はできない。加速アクセルによって(リューから見れば)時間の流れがスローになる。時には停止する。なおかつ神眼によって相手の心を読み、次の攻撃を読んでもいる。


だが、落ち着いて観察してみるほどに、イライラの攻撃は見事なほどに洗練されていた。普通であれば回避不可能な距離とタイミングの攻撃のオンパレードなのである。


イライラの攻撃は実に多彩、かつ巧妙であった。右上を打つと見せかけて、左下から。右下から来ると思えば左上から。もっとも目線の遠い対角線側から攻撃を繰り出してくる。接近するほどにその攻撃は見えにくい。

 

上から、下から、水平、突き。フェイント、二刀同時攻撃。さらには一刀をもう一刀でアシストするような使い方さえもあった。

 

しかも、攻撃の “間” の取り方が絶妙である。予知+読心を併用していてさえ、回避不能な絶妙のタイミングの攻撃が時々来る。

 

時折、時間を停めて対処しなければとても捌けない、見事な技術であった。

 

だが、何十合も打ち合えば、イライラもいい加減、引き出しがなくなってくる。相手を観察しながら戦っていたリューも当然それに気づき、反撃を試み始める。

 

だがそれは、防御からの返し技カウンターというイライラの攻撃の選択肢オプションを増やす結果になってしまった。

 

防御と同時に反撃のカウンターが飛んでくる、二刀を生かした防御と攻撃が一体となった技術、これがイライラの真骨頂であるようだ。

 

だが、それは対一刀の技術であった。今はリューも今度は両手に剣を持っている。それぞれの剣同士を対応させれば手数が足りなくなる事はない。

 

そしてどうやら膂力でもリューのほうが上回っているようである。より少ない動きでもイライラの強烈な剣撃を受け止める事ができていた。

 

もちろんこの世界にも双剣使いは居る。そのための対策もイライラも当然用意していたる。が、双剣流と二刀流は似て非なるモノである。自分と同じ、完全な二刀流と対する経験は、イライラと言えども決して多くはなかったのである。


対二刀流の技の引き出しはイライラと言えどもそれほど多くはなく、攻防は徐々に膠着状態に陥ってきてしまった。

 

リューの方も、初めて使う二刀流である、技の引き出しなどそもそもない。攻撃が手詰まりである。二刀対二刀、手数は同じ。

 

……では、二本で足りないなら三本目を出せば……?

 

だが、相手も考える事は同じであった。リューが左右の剣を受け止めて、がら空きの胴体に蹴りでも入れてしまおうかと考えていたら、イライラの足が先に出てきたのである。

 

ちょうど足を上げかけていたリューの膝を蹴ってしまう形になったイライラは、後方に弾き飛ばされてしまった。

 

リューは戦闘中、重力魔法を使って体重を増やすのが癖になっている。同じ力でぶつかりあったら、体重の軽いほうが飛ばされるのは道理である。

 

 

― ― ― ― ― ― ―

 

次回予告

 

イライラ 「貴様、何者なんだ? 本当に腹が立つな!」

 

乞うご期待!

 

 

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