第618話 冒険者になった

というわけで、冒険者になったエライザ。登録したばかりなのでエライザはまだFランクである。


エライザは伝説の竜人、それも純血種である。その能力は人間とは比較にならない。


それを知っているトナリ村のギルドマスターのルイーザからは、すぐに試験を受けさせて、いっきに飛び級をさせようという提案もあった。


だが、それはリューとエライザが拒否。


いくら能力が高いとは言え、幼い頃は村の中でリューに手厚く保護されていた箱入り娘である。竜人の里に行ってからも、里以外の外の世界を知らないまま育ったのだ。人間の世界の常識、そして冒険者としての知識に乏しい事は否めないのだ。


これから人間の世界で生きていくならば、人間として、冒険者としての知識・常識をしっかり学ぶ必要があるだろうとリューは考えた。エライザ自身もまた、普通に冒険者として経験を積んでいきたいと考えていた。


実は、エライザには、異世界で冒険者生活というのに憧れがあった。実は、エライザは転生者である。


とは言っても、リューやヴェラのように前世の記憶を持っているわけではない。記憶が無いのであれば、この世界に白紙で生まれ育ったこの世界の住人であることには変わりない。


この世界には、自覚がないが、前世は異世界人であったという者は時々居るのである。リューの前世の地球でも、本人は知らないが、実は異世界から転生したという人間が居たかも知れない。


前世のエライザは、日本ではないとある国で生まれ育った。ただ、その国は親日国で、前世のエライザは日本のヲタク文化が好きな腐女子で、ついには日本に移住してしまったのであった。日本語も完璧にマスターし、ラノベ、特に異世界転生モノも大好物であった。その影響なのか、記憶がないはずなのに、冒険者というものに対する憧れが強くあったのだ。


エライザは、明確に前世の記憶が蘇るという事はなかった。ただ、よく日本の生活を寝ている間に夢で見ていた。幼い頃からリューとヴェラから日本の話を聞いていた影響である。


普通なら、異世界の話を聞き、それを夢に見たとしても、それは単なる想像で、実際の異世界とはまったくかけ離れたもののはずである。しかし、エライザはリューの話が呼び水となり、夢の中だけではあるが、実際の日本での生活が蘇っていたのであった。


もちろん、エライザ自身は自分が転生者であるとは自覚していない。夢に見る妙にリアルな世界は、単に自分の想像・妄想の世界だと思っている。幼い頃からそのような状況であったため、まったく無自覚のまま、異世界の記憶と現在のエライザの人格は、自然に馴染んでいたのであった。


奇しくも転生者であるリューとヴェラとエライザの三人が揃ったわけであるが、エライザが転生者である事にリューとヴェラが気づくことはないのであるが。


何はともあれ、エライザはついに憧れの冒険者になったのである。


    ・

    ・

    ・


冒険者ギルドの依頼が貼ってある掲示場の前で、依頼を物色しているエライザとリュー。


エライザ 「Fランクだと、受けられる依頼がほとんどないのねぇ……薬草取りくらい?」


リュー 「このムラは魔境の森が近いからな。出没する魔物の危険度も他の街より高いから、低ランクの冒険者向けの依頼はあまり多くないんだよ…」


もちろん、他の街と同様、常設依頼として薬草採りとゴブリンや魔兎系などの低ランクの魔物の討伐はあるが、少し森の奥に踏み込めば、すぐに出現する魔物のランクが上がっていくので、低ランクの魔物だけを狩ってくるというのも少し難しいのである。


リュー 「薬草採りだって危険な魔物に出会う可能性もあるからな。あまり初心者向けの場所じゃないって事だ。まぁ、エライザなら大丈夫だろうが…


…というか、別に依頼を受けなくても、魔物狩ってくれば素材の買い取りはしてもらえるぞ? なんならマンドラゴラならウチの畑で採れるしな」


エライザ 「だから、それじゃ冒険者のランクが上がらないじゃない。それに、冒険者としての基礎的な知識の勉強にもならないでしょ。“冒険者のイロハ” を教えてくれるんでしょ、センパイが?」


エライザがリューの腕に抱きつき胸を押し付けてくる。


リュー 「依頼を受けなくても、魔物狩ってるだけでもランクアップはさせてもらえると思うが…」


エライザ 「普通に依頼を受けてランクをあげていきたいの」


リュー 「じゃぁ……別の街に移動するか!」




  * * * * *




リューは、自分が知っている、今まで旅してきた街を思い浮かべながら、どこがエライザの依頼クエストデビューに相応しいかと考えてみた。そして選んだのは……


いままで行ったことがない、新しい街へ行くことであった。


世界をもっと見て回りたい。リューはまだ旅の途中なのだ。今度は、エライザと一緒に二人で世界を見て回ろう。


新しい冒険の始まりである。


メンバーは、リューとエライザ、そしてフェンリルとなったワンコのエディ、ドラ子とランスロット。


もちろんアンデッド軍団は常に一緒であるが、ランスロット以外は亜空間である。ランスロットだけは、なぜか人間の世界にやたら居たがるのだが…。


意外だったのは、ヴェラである。トナリ村に残ると言うのだ。今は仕事が楽しいらしい。腕利きの治癒士として名が広まりつつあり、治療のためにトナリ村を訪れる者も多くなった。前世で看護師としての仕事を全うできなかった事に若干悔いが残っていた事もあり、医療の仕事を思う存分やってみたいらしい。


まぁ、リューとしても “帰る場所” としてトナリ村をヴェラが守ってくれているのは悪くないと思うのであった。



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


エライザの冒険者テンプレ体験(その2?)


乞うご期待!



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る