第617話 恋人? 間に合ってます

結局、エライザのドラゴンテイル一発でルーザー達は模擬戦続行不可能で終了であった。


ダメージで呻いているルーザー達にギャラリーの冒険者達から非難のヤジが飛んでいた。これで少しはルーザー達も大人しくなるだろう。


    ・

    ・

    ・


レベッカ 「エライザちゃん、さすが、Sランク冒険者に鍛えられただけあるわね」


リュー 「俺は何も教えてない。エライザは自分で努力して強くなったんだ」


エライザ 「そうよ、私は自力で努力して強くなったの。リューと並んで歩んでいけるように、ね」


竜人の里に残ったエライザであったが、実は最初から、十五歳になったら竜人の里を出てリューの元に戻るつもりだったのだ。


それまで、リューと共に歩むため、リューと並び立てるように、竜人の里で必死で能力を磨いたのである。


正直、リューは過保護であった。リューの側に居たら甘えてしまう。そして、いつまでも守られたままになってしまう。そこで、リューから離れ、自分を鍛える道をエライザは選んだのだ。


そして、里で竜人の能力を完璧に使いこなせるようになったエライザは、成人と同時に里を出て、リューの元に戻ってきたのである。


レベッカ 「そ、そうなんだ……。それで、じゃぁ、二人はパーティを組むって事ね?」


リュー 「ああ、そうだな」


レベッカ 「では、登録手続きをしてしまいましょう。パーティの名前は?」


リュー 「それは…」


『それは決まってます』


いつの間にか現れてエライザの戦いを見守っていたランスロットである。


ランスロット 「ホネホネ団です!」


リュー 「やれやれ……。それでいいか、エライザ?」


エライザ 「もちろん! そのつもりだったわ!」


ランスロットと拳を付き合わせるエライザであった。


その時、エライザの背後に、動けるようになったルーザー達、パーティ “激辛のふふふ” のメンバーがやってきた。


エライザ 「あんた達、なんの真似?」


ルーザー達は一列に並んで土下座したのだ。


ルーザー 「あ、姉御! 参りました!」


エライザ 「姉御?! 私まだ十五歳なんですけど? あんた達のほうが歳上でしょ???」


ルーザー 「いや完敗、感服いたしました。姉御、どうか俺達を舎弟にしてやってください!」


エライザ 「舎弟? そんなモノ要らないわよ!」


ルーザー 「舎弟がダメなら恋人でも! 惚れました! 姉御!!」


リュー 「なんで舎弟がダメなのに恋人に昇格してるんだよ」


エライザ 「恋人? それも間に合ってます~! 私にはリューが居るから!」


リューの腕に抱きつくエライザ。


ルーザー 「え、お二人は……?」


エライザ 「私たちは~


レベッカ 「二人は親子よ」


エライザ 「ガクッ…」


ルーザー 「親子! だったら、まだ恋人の座は…!」


エライザ 「リューと私は親子じゃありません! 血の繋がりはないんですから!」


親子じゃないと言われてショックを受けるリュー。もちろん、エライザは血の繋がりはないから、親子じゃなくて恋人になれると言っているのだが……リューにはその意識はないため、親子じゃないと言われたところが気になってしまうのであった。


エライザは、母親に騙されて竜人の里に連れて行かれた。(やはりエライザはリューの元から離れるのは不本意であったのだ。)そして、そこでリューが本当の父親ではないと告げられ、本当の父親(リュータ)が現れた。


だが、いきなりそんな事を言われても、急にそうですかと納得できるわけがない。リューとエライザは本当に仲の良い親子だったのだ。


だが、最終的に、救出に来たリューを断り、エライザは竜人の里に残る事を選択した。それは……


エライザ 「もう、リュー! 約束したでしょ! パパのお嫁さんになるって!」


リュー 「ええ? ああ、だってそれは、幼い頃の…」


エライザ 「本当の親子じゃないんだから、問題ないじゃない?」


リュー 「ええええ、普通、そういうのは、成長したら変わるものだろう? 思春期になったら娘は『お父さん嫌い!』とか『気持ち悪い!』とか言い出してショックを受けるというお約束が~」


エライザ 「私はそんな事言わない! そんな薄情な女だと思ったの?」


エライザは、パパであるリューが大好きだった。大きくなったらパパのお嫁さんになるとよく言っていた。だが、父と娘は結婚はできないと大人気なくリューに言われてよく泣いていた。


だが、リューと血の繋がりがなく、父親は別に居ると知らされた時、ショックを受けるより、実は嬉しかった。リューと親子じゃない=リューと結婚できる。当時まだ九歳。幼い娘の父への憧れの気持ちの延長であったが…。


しかし、その気持ちが、竜人の里に残る決断につながった要因の一つでもあった。


エライザは、このまま親子として生活を続けたら、リューは自分を娘としてしか見れないだろうと考えたのだ。その、親子の関係をリセットする時間としても、一時距離を取るのが良いと思ったのである。


幼い娘が父親のお嫁さんになるなどという約束は、思春期になる頃にはなくなるのが普通なのだが……だがちょうどその間、離れ離れであったがため、エライザは父親を嫌う娘の気持ちにはならなかった。そして、思春期になり、エライザの気持ちは女性として男性に恋する気持ちへと昇華されていったのだ。


ちなみに、本当の父親であるリュータは普通に『お父さん気持ち悪い』と言われていた。年頃の娘が実の父親を嫌うようになるのは近親相姦を避ける本能だという説があるが、そういう意味では血の繋がりのないリューとエライザにはそういう本能も発動しにくいのかも知れない。リュータはもともと子供っぽい人物で、リューと悪い意味で比較対象になってしまったという事もあるかも知れない。


そして、成人し、エライザはリューと再会したが、リューは幼い日と変わらないままの姿であった。そもそも、寿命の長い竜人である。リューは数年程度では外見もまったく変わらず若いままなのである。エライザにとっては、憧れ敬愛する世界最強のSランク冒険のままなのだ。


正直、エライザはトナリ村に戻ってから、父娘として家族に戻るべきか迷いも残っていたのだが、リューと再会し、その姿を見たとき、あらためて恋に落ち、家族ではなく恋人を目指すと決意を固めたのであった。


エライザは女として立派グラマーに成長していた。リューもそれは褒めてくれている。リューはまだ娘としてしか自分を見ていないかも知れないが、いずれ、立派なパートナーになって見せる、そう決めたのだ。


とは言え、竜人の人生は長い。焦る必要はない。まずは、冒険者として、娘ではなくパートナーとして認められなければならない。エライザはまずは冒険者として頑張るつもりであった。



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


冒険者生活始まる…?


乞うご期待!



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る