第510話 撃退するも……
悶絶しているジジをレイアに任せ、ランスロット達が戦っている校庭に急ぎ戻ったリュー。
そこでは、二人の戦いはまだ続いていた。
だが、どうやら心配は無用であったようだ。ランスロットがニビルを圧し、優勢に戦いを進めていた。さすがランスロット、有言実行である。
このままいけばランスロットが勝つだろう。そう思われたが……
ニビル 「ふん、今日のところはこのくらいで勘弁しといてやらあ!」
捨て台詞を残し、ニビルの姿が消えてしまった。
リュー 「転移か……」
無駄だろうと思いながらも一応リューは神眼で周囲を一通り探知してみたが、やはり近くには居ないようであった。
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リューは後で聞かされたのだが、警備隊に身柄を引き渡したジジも、結局転移で逃げてしまったらしい。魔法を封じる手枷を嵌めていたらしいのだが、魔法を封じていても転移の魔道具を使われたのでは意味がない。そもそもボディチェックをちゃんとしていなかったのかという事になるが、スージルに逃げられた前例があったため、そこはキッチリ行ったと警備隊は言うのだが、現に逃げられているのだから言い訳にしかならない。相手は伝説の魔女である、もしかしたら魔法を封じる手枷の能力を上回る魔力を持っていた可能性があると警備隊は主張した。
しかし、警備隊の騎士達は知らないが、転移は並の魔法使いでは実現不可能なほどの大量の魔力を必要とするのである。いくらジジであっても魔封じの手枷をしたままそれを実行できる可能性は低い。
真相は…ジジが手枷の魔力を自力で上回り魔法を行使したのだが、使った魔法は転移ではなく収納魔法であった。収納してあった転移の魔道具を、一瞬、収納空間を開いて取り出せれば事足りるのである。
恐るべきは、ジフダラードで発明された転移を実現する魔道具なのだが、幸いにも使い捨ての魔道具であり、非常に製造が難しく、大量生産できないのが周辺国にとっては幸いであった。
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結局、敵襲を受け、それを撃退しながらも、その敵をすべて取り逃がしてしまったわけだ。この国の警備体制は大丈夫か? と不安になるが、リューも眼の前でカザームを取り逃がしているのであまり大きな事は言えないのであった。
ただ、リューとランスロット、そしてマグダレイアの活躍のお陰で被害は極小で済んだ。いや、建物の被害はかなりあったのだが、人的被害はゼロで済んだのである。
ニビルに殺された生徒達も、魂が他界する
(※リューが来る前に行方不明になった生徒達は別であるが。彼らは時間が経ちすぎており、魂は別の世界に旅立ってしまっているため、時間を巻き戻しても生き返らせる事はできないのであった。)
襲撃してきたニビルとジジは、生徒を皆殺しにするつもりだと言っていた。二人はどちらがより多く殺せるかを競っているような事も言っていたが、結果はゼロで終わったわけである。
二人の目的は、カザームの心を読んだ時に判明した内容であっているだろう。カザームとニビル・ジジ達は、やはりドネル帝国の刺客であったのは間違いない。
ニビルはドネル帝国軍の司令官だと名乗っていた。つまり、国軍のトップが刺客として自ら乗り込んできた事になるのだが、軍のトップが飾りではなく、軍の中で最も実力があるのならば、もっとも効率が良い作戦であると言える。
おそらく、今回の作戦は、ガレリアの未来を担う貴族の子女を減らす事で、将来的なガレリアの国力を削ぐ事が狙いであったのだろう。
今、ガレリアとドネルの戦争は小康状態であり、表面上は戦闘は起きていない。これは、ドネル帝国の戦争のやり方の特徴でもある。
ドネル帝国は、ある程度力を溜めてはそれを一気に爆発させるように侵攻を開始する。そして、ある程度溜め込んだ力を放出してしまうと、そこで侵攻を中断し、再び力を貯める時期に入る。これを数年~数十年で繰り返すのだ。
現在は、力を使い切ったドネル帝国が力を貯める時期に入っているので、数年~数十年は戦争は起きないだろうと言われている。
だが、当然、お互いに諜報活動は続けている。工作員による裏の駆け引きや工作は続いているのだ。
この国の未来の貴族を間引くというのは、随分気の長い作戦だとは思うが、力を蓄積し次の戦争を始める頃にちょうど影響があると考えれば納得できる。
今回の襲撃は、戦争休止中にしてはかなり強引・直接的な攻撃であった。たまたまリューが居たが故に失敗したが、もし居なかったら、圧倒的な強さのニビルとジジが、未だ若く未熟な貴族の子女を蹂躙して、証拠も残さずに去っていく事に成功していただろう。
世界最強(最凶)の剣士と魔女の攻撃だったのだ。ドネル帝国もよもや失敗するとは思わなかったであろう。
※実は……、今回の襲撃はそれほどしっかりと練られた作戦だったわけではなく、ニビルとジジの思いつきによる衝動的な作戦であったのが真相なのだが。
二人が酔っ払って、多く殺せたほうが酒を奢るというくだらない話だったのである。それで大量虐殺を競うというのは狂った話であるが、そこが狂剣士と言われる所以であろうか。
とは言え、子供達を狙ったという極悪非道な攻撃である。国として公式に抗議をしなければならないが、外交のない戦争中の国同士の事である、非難声明を出したところであまり意味がないで終わるだろう。
それに、もし子供達に被害が出ていたら貴族たちも黙っていない、報復のための攻撃をという話にもなったかも知れないが、被害が建物だけに済んでいるため、報復の戦争を仕掛けるというほどの盛り上がりにはならなかったのであった。
ただし、そこは表向きの話。武闘派で知られるガレリア貴族達である。遺憾の意を示して終わりで済ませるほど大人しい国ではない。裏側では、如何に報復をするかで武闘派の貴族達は盛り上がっており、実際に実行されたらしいのである。
実際にどのような報復が行われたかはリューの感知するところではないが。
リューに協力の打診がチラとあったりもしたが、そのような復讐合戦には加担する気はないリューであった。
良いところまで追い詰めておきながら、結局ニビルを仕留め損なったランスロットに、ドネル帝国まで決着をつけにいこうか? とリューは尋ねてみた。
だが、ランスロットはさらに実力を磨いてから再戦したいと言う。今行っても勝てない事はないだろうが、己の未熟を思い知ったのだそうだ。それはニビルも同じであろう。
なんだかランスロットが生き生きしているようにリューには見えた。さらに腕を磨いて再戦のする日を楽しみにしているようだ。
やはり、ライバルが居るというのは刺激になるのだろうと思うリューであった。
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次回予告
任務完了~後日談
公爵令嬢レイカ 「べ、別に、ジャカールの事なんて好きでもなんでもないんだからね!」
乞うご期待!
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