第515話 竜人姫来訪

リュー 「……レイア?!」


レイア 「リーザと呼んで下さい」


リュー 「いきなりなんだ???」


レイア 「私の本当の名前はエリザベータ・マグダレイアと言います。一般的にはレイアで通っていますけど、親しい人にはエリザベータ、あるいは愛称のリズ、またはリーザと呼んで頂きたいのです」


リュー 「別にそれほど親しくはないと思うんだが? それにベアトリーチェ達もレイアと呼んでたと思うが、それほど親しくはなかったのか」


レイア 「学校は公的な場なのでレイア呼びにしていただけですわ。プライベートな場所ではリーチェ、リーザと呼び合っていましたよ」


リュー 「そ、そうなんだ……まぁ、なんでもいいけどな」


とりあえず、知らない顔でもないのでリューはレイアあらためエリザベータを室内に招き入れた。


リュー 「で、そのエリザベータ・・・・・・さんは、なんでここに? ベアトリーチェの護衛の仕事はどうしたんだ?」


エリザベータ(やや不満げ) 「…護衛の仕事は辞めて来ました。リーチェも分かってくれて、応援してるって言ってくれました」


リュー 「応援…?」


エリザベータ 「その前に…。急に押し掛けてゴメンナサイ、もう一度、ちゃんと謝らせてください」


リュー 「ああ、暇だったから構わんよ。貴族じゃないからアポ無しでも怒ったりはしないさ」


エリザベータ 「いえ、その事ではなく、学園での事なんですが…」


リュー 「ああ。それももういいよ。お前も薬を飲まされてたんだろう? それもかなり危険な量を…」


実は、エリザベータも薬を盛られていたのである。アルバに出されたお茶と茶菓子に魔薬が混ぜられていたのだ。混ぜたのはもちろんアルバである。


その影響で、エリザベータは冷静な判断力を失い、感情的にリューを攻撃してしまったのだという。


アルバは以前から機を見てはエリザベータに薬を盛っていたようだ。しかも、かなり大量に。普通の人間だったら危険な量であったが、エリザベータが竜人であったために影響が少なく済んでいたのだ。


アルバとしては、敬愛するエリザベータのために、健康増進程度の軽い気持ちだったようだ。だが、危険性をアルバが認識していなかった事ではあったが、一歩間違えば死亡事故にもなりかねない事案である。ましてや、たとえ栄養剤であろうと騙して飲ませるというのは、さすがに赦される事ではない。(他の生徒達は、勧められたにせよ、自分で飲むことを選択したのであり、知らずに飲まされた者はいなかったのだ。)


だが、エリザベータは涙を流しながら謝罪するアルバを赦し、ベアトリーチェに減刑を願った。自分を慕ってくれていたアルバをエリザベータも心底は憎めなかったのである。


ユキーデス伯爵としても、被害者が赦すと言っている事、さらにはエリザベータは学園の生徒ではなく、護衛として雇われた者であった事もあり(簡単に騙されて薬を盛られるというのは、護衛としては迂闊であり、まったく責任がないとは言えない)、アルバは厳罰を免れたのであった。


(とは言え、従者として使う事はもうできないと言う事で、学園は退学、実家に帰され、その後はどこかの下級貴族に嫁がされる事になってしまったのだが。)


エリザベータ 「あの時の事で、リューが私にあまり良い印象を持っていないのは分かっているけど……あの時の私は普通ではなかったのです、それは、分かって頂ければ……」


リュー 「ああ、分かってるよ……なるべく」


エリザベータ 「ありがとうございます……なるべく?」


リュー 「なるべく、理解するように努力する。が、殺されそうになったからなぁ、かなり強烈な印象だった(笑) なかなか忘れられないかもなぁ…」


エリザベータ 「ううう……、仕方ないですね……。急に良い印象を持てと言われても……」


リュー 「なんてな、冗談だよ。ちょっと意地が悪かったか。で、わざわざ謝罪するために王都まで訪ねて来たのか?」


エリザベータ 「はい。まずは何より、私の悪い印象を払拭したいと思いまして。そして、もう少し深いお付きをして頂けたら、と……」


ランスロット 「それで、押しかけ女房をしに来たわけですな?」


エリザベータ 「あなたは確か、学園が襲われた時に戦ってくれた剣士の方ですね?」


ランスロット 「はい、ランスロットと申します。お茶どうぞ」


エリザベータ 「あら、ありがとう」


ランスロット 「リューサマ、お客様にはお茶くらい出さないといけませんなぁ」


だが、リューはランスロットには答えず機嫌の悪そうな顔をしていた。


リュー 「俺は押しかけて来て恋人顔とか、そういう押し付けがましいのは好きじゃないんだがなぁ」


エリザベータ 「あ、分かっています! 無理にとは思っていませんわ。ただ、あの時の私は普通じゃなかったので…あれを私だと思われたままなのはちょっと許せないので。


リューはまだ私の事を、本当の私を知らないでしょう? 側に居て、私の良さ、魅力を分かってもらう努力をさせてもらえませんか? 恋人とは言わない、友達くらいにはなってもらえないかしら?」


リュー 「友達、ねぇ……別に間に合ってるけどな…」


エリザベータ 「…っ、ただの知り合いから! もう既に知り合いだけど。そこから仕事とかで付き合いがあって、気が合えば、友達に近い関係に自然になる、それなら別に構わないでしょう? それとも、顔を合わしたくないほど嫌われてしまいましたか?」


リュー 「んー、まぁ、顔も見たくない! というほど嫌ってるわけでもないがな」


エリザベータ 「良かった! じゃぁ今日はこれで」


リュー 「もう帰るのか? もっとグイグイ来るのかと構えていたのだが」


エリザベータ 「しつこいと嫌われるでしょう?(笑) 今日、王都についたばかりなので、まずは宿を取って、それから住むところと仕事を探します。


と言っても、冒険者が一番手っ取り早く稼げるかなぁ? …そうだ、リューは探偵をしてるって聞きましたけど、私を雇ってくれませんか? どうせなら住み込みで! そうしたら一石二鳥、いや三鳥で助かるし」


リュー 「いや、悪いが探偵はしばらく休業する予定だ。どうしても客が来たときにはランスロットに対応してもらうつもりだ…」


ランスロット 「いいではないですか、雇ってみては? 私の部下に任せるにしても、当然依頼者は人間となるでしょうから、人間が居てくれれば役に立つこともあるかと」


リュー 「なるほど、たしかにな」


エリザベータ 「人間…って?」


リュー 「ああ、ランスロットは人間じゃない、スケルトンだからな」


ランスロットが骸骨の仮面を外して素顔・・をエリザベータに見せた。隠していた禍々しい気配も開放される。


エリザベータ 「…!! すける、とん……!」


一瞬身構えたエリザベータであったが、リューが手で制する。


リュー 「大丈夫だ、彼は俺の従魔として登録されている。従魔と言っても、見ての通り喋るし、自分で判断して行動できる。冒険者登録もしているしな。ランクは俺と同じ、Sだ」


エリザベータ 「そ、そうだったんですね……


でも、あの剣の腕……生前は、さぞや名のある剣士だったのでしょうね」


ランスロット 「滅んだ文明での名声など意味はありません」


エリザベータ 「滅んだ?」


リュー 「ああ、スケルトンになってからも何万年も剣の修行を続けてきたらしいからな。その間にランスロットの生まれた時代の文明は滅んでしまったらしい。まぁ、長い修行のおかげで、剣の腕ならば、おそらく世界最強じゃないか?」


ランスロット 「いや、まだまだでした、反省しております」


リュー 「アイツか…。だが勝負には勝ったじゃないか?」


ランスロット 「逃げられてしまいましたからね、次こそは逃しません、必ず止めトドメを刺してご覧にいれましょう」


リュー 「なんか色々と危なそうな奴だったからな、ぜひ頼むよ。俺では勝てんかもしれんからな」


ランスロット 「いやいや、リューサマが本気になれば瞬殺でしょう?」


リュー 「どうかな、正直、どうなるか・・・・・まだ分からん」


ランスロット 「そうでしたね。まずは不死王様のところへ?」


リュー 「いや、それは後でいいだろう。それよりまずはミムルに行ってみたい」


ランスロット 「いつ頃になりそうですか?」


リュー 「ああ、今夜辺りかな…」


エリザベータ 「あの……さっきからの話だと、リューは旅に出るみたいな話になってるようですけど……?」


リュー 「そうだが? エリザベータはここに住んで、探偵事務所の仕事を手伝っててくれればいい」


エリザベータ 「どれくらいで帰ってくるの?」


リュー 「さぁ、どれくらい掛かるかなぁ……それほど長く留守にする気はないけど……」


エリザベータ 「それならいいけど、私も王都を見て回ったりしたいし…」


リュー 「ああ、早ければ1~2ヶ月、遅いと何ヶ月か、何年か……」


エリザベータ 「ちょ待てよ! 思ったより長い! それじゃ私がリーチェの護衛を辞めてまで王都に来た意味がないんですけど…?」



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


ランスロット 「リューサマ、せっかくですからエリザベータ様と一緒に行かれれば良いではないですか?」


乞うご期待!



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