第516話 二人だけの旅

ランスロット 「リューサマ、せっかくですから、エリザベータ様と一緒に行かれてはいかがですか?」


リュー 「ええ? 一緒に? 旅をするってこと? 二人だけで?」


ランスロット 「ええ、丁度ヴェラさまの馬が余っておりますし。それに、お二人はお似合いだと思いますよ? というか、不死王様から連絡が入っております」


リュー 「え、師匠?」


すると、テーブルの上に30センチほどの魔法陣が浮かび、そこにミニチュアの不死王の姿が現れた。


エリザベータ 「こちらの方は?」


リュー 「ああ、色々教わっている、俺の師匠みたいなものだ。てか師匠、しばらく見ない内に、ずいぶん小さくなって…」


リューは出会って以来ずっと、色々な事を不死王から学んでおり、いつしか師匠と呼ぶようになっていた。


不死王 「だれがチビじゃ」


リュー 「チビとは言ってない」


不死王 「これはただの映像じゃよ」


リュー 「もちろん分かってて言ってる。立体映像で通信なんてSFみたいだ」


不死王 「ぎゃ~」


リューがテーブルの上のミニチュア不死王を掴むように手を出すと、不死王がおどけて逃げるような仕草をする。もちろん映像なので手はすり抜けてしまうのだが。


リュー 「…てか姿を見せるなら直接ここに来れば良いのに」


不死王 「儂が人間の都に行ったら大騒ぎになるじゃろ」


リュー 「師匠なら完全に正体を隠す事くらいできるだろ」


不死王 「まあな。というかリューよ、丁度よい。その娘と旅をするがよい」


リュー 「丁度よい?」


不死王 「その娘から、竜人の何たるかを襲われ、違った、教われという事じゃよ。リューは竜人でありながら、その能力をまったく活かしきれておらんだろう?」


リュー 「十分使いこなせてると思うんだけどなぁ」


不死王 「いやいやお主はただただ力押しでなんとかしとるだけじゃろうが。そのうち儂が教えてやるつもりだったのだが、儂も知識として知っているだけだからの。生竜人がおるなら、直接見本を見ながら教わったほうが早かろう」


リュー 「なるほど……」


ランスロット 「ついでに子供を作ってはいかがですかな? 相手の方もそう望んでいるようですし」


リュー 「ランスロット???」


ランスロット 「私は生前、子供を持ちませんでしたので……作っておいたらどうであっただろうか? と思う事も、なかったわけではないのですよ…」


リュー 「俺も、子供を欲しいとは思わんのだけどな」


ランスロット 「まあ何事も経験という事で。先程言ってたではないですか、色々な経験をしてみたいって」


リュー 「色々な仕事・・をしてみたいって言ったんだが」


ランスロット 「父親という仕事と考えてみれば。それに、お二人は、体の相性は良さそうに見えますが?」


体の相性などと言われてエリザベータがちょっと顔を赤らめているが…


そうなのである。何せ、初めて遭った時、気がついたら手を握りあっていたくらいである。(おそらく竜人同士としての共鳴作用のようなものなのだろうが。)今はリューが自分の意志で制御できているだけであるが。少なくとも、他種族の女性よりは、本能的・肉体的に強く惹かれるものがあるのは、リューも感じてはいるのである。


ランスロット 「別にリューサマもエリザベータ殿を嫌っているわけではないのでしょう? 出会いはあまり良い形ではなかったでしょうが、それは薬のせいだったわけですから。一旦すべて白紙に戻して、お互いを知るところから始めてみれば良いではないですか」


リュー 「ランスロットがそんな、おせっかいお見合いオバサンみたいな事を言い出すとは思わなかった」


ランスロット 「長く生きているからこその助言ですよ」


リュー 「…まぁ、子供が云々というのはともかくとして……師匠がそういうのなら。エリザベータ、色々と、教えてくれる気はあるか?」


エリザベータ 「もちろん! かまいませんわ。色々と、教えて差し上げますとも! ええ、色々と、ね。


それで、旅って、どこへ行くのですか?」


ランスロット 「リューサマの故郷、ミムルという街です」


リュー 「生まれ故郷ではないが、まぁ少し長く住んでいた、第二の故郷みたいな街なんだ……」




  * * * * *




翌朝。リューが二人分の朝食を用意し、それをエリザベータと二人で食べていると、ランスロットが現れリューに声を掛けてきた。


※結局エリザベータは宿を取らず、リューの探偵事務所に泊まった。屋敷と言うほどではないが、割りと大きめの一軒家なので、部屋はたくさんあるので客を何人か泊めるのは問題ない。


ランスロット 「リューサマ……いかがでしたか?」


リュー 「…どうかな? 何か変わったか?」


ランスロット 「あまり変わった感じはいたしませんね。ご自身の感じではどうなのです?」


リュー 「なんだか心許ない感じがするがね。まぁ、慣れないとな。困った時にはランスロット達に頼る事になるかも知れんが」


ランスロット 「もちろん、いつでもご用命下さい。私達はリューサマの従魔なのですから」


エリザベータ 「?」


ランスロット 「今日、早速出発されますか?」


リュー 「ああそうだな、食事が終わったら出発しようと思う」


ランスロット 「ええ、しかし、我々はいつでも側におりますから、一声掛けて頂ければいつでも参上いたしますので」


リュー 「トナリ村の警護は頼むぞ」


ランスロット 「そちらもご安心下さい。旅立つ事はヴェラ様には?」


リュー 「すべて伝えてある。ヴェラも行きたがったんだが、治療院が盛況でな、手が放せないらしい。まぁ俺もすぐに戻ってくるつもりだしな」


リューが空けている間の探偵事務所は、ランスロットの部下のショーティというスケルトンが担当してくれる事になった。(もちろん、ランスロットも手が空いていれば手伝う予定だが。)


ショーティには服を着せ仮面を被らせ人間に化けさせた。一応、客の前では仮面を着けた人間として振る舞うわけである。


やはり依頼の受付用に人間の従業員を雇ったほうがよさそうだが、その募集を出すところから人選まで全てショーティに任せる事にした。


ショーティは軍団レギオンの大隊長を任されるほどの優秀なスケルトンで、人間の街での活動の経験も豊富なので大丈夫との事であった。逐一ランスロットと相談しながらやるので問題はないだろう。


余談だが、ガレリアの将軍職を引き受けていたランスロットであったが、辞任してきたそうだ。後は人間の指揮官が指揮を取り、できるだけ人間の軍だけでなんとかする方針だそうだ。まだまだ軍団レギオンの手を借りなければならない事もあるだろうが、いつまでもアンデッド軍団に頼り切りでもまずいという王の英断であった。


リュー 「さて、いくかね」


リューは事務所の裏庭に置いてあった馬に乗り込む。エリザベータと馬で二人旅である。子供達が居ないので馬車は必要ない。以前ヴェラと旅していた時のように、馬二頭に乗って行くのだ。


馬は産休を終えたリューとヴェラの愛馬、アダムとマーガレッタである。(今回はヴェラはトナリ村に残っているので、エリザベータに貸してくれたのだ。)


※バトルホースのランドルフは、目立ちたくないという理由で今回は休んでいてもらう事となった。


それから一ヶ月。


リューとエリザベータはガリーザ王国の辺境の街、ミムルに到着するのであった。



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


ミムルの冒険者ギルドへ


乞うご期待!



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