追憶編

第514話 探偵辞めて何か別の仕事を…

今回の事件は、宿敵ドネル帝国からの攻撃と言う事で緊張感が一時走ったが、その後、特にドネル帝国からアクションはなかった。(実は、襲撃はドネル帝国の将軍ニビルと魔法大臣ジジの暇つぶしの遊びでしかなく、国としての作戦などではなかったので、特に動きがあるわけがなかったのだが。)


もっとも現在は、ランスロット達の軍団レギオンが国境線の防衛に協力している。もし、今、ドネル帝国軍が国境線に仕掛けてきても勝ち目はなかったであろう。


実はこれまで、ニビル一人にガレリア軍はかなりの打撃を受けていたのであるが、今はランスロットが居るのでニビルもそう好き勝手に暴れる事もできないだろう。


ドネル帝国の兵士はなかなか優秀だが、しかしスケルトン軍団にとっては大した相手ではない。


現在戦争が半休止状態であった事は、ドネル帝国にとっては幸いであったと言えるかもしれない。




  * * * * *




王都へ戻ったリューであったが、結局その後一ヶ月ほどは何かと忙しかった。


ユキーデス伯爵への報告、さらにエド王に呼ばれて直接の報告。(もちろんエド王にはしかるべき筋から報告が上がっており、直接リューから話を聞きたがったのはエド王の興味本位であったのだが。)


結局、リューは学園の事件、さらには学園都市内での事件をも解決し、貴族の子供達を治療し助けた事になるわけで。その報告と、功績に対し褒美を貰う事となったりもした。


エド王はこれまでの功績として爵位を与えても良いと言ったが、もちろんリューは断った。


エド王 「だが、リューの噂話が学園の生徒達から貴族達に伝わってしまった」


リュー 「ったのはランスロットだけどな」


エド王 「ランスロットは一応、今はこの国の将軍の役職にあるのだから、貴族達も簡単に手を出すことはできんが、リューが平民だという事は貴族達に知れ渡っている。それほど実力のある者が野に居るのであれば、囲い込もうとする貴族が挙ってやってくる事になりかねんぞ?」


リュー 「別に、自力で追い払うさ。しつこい場合は潰す……エド王が以前出した、アンタッチャブル指令は今でも有効なんだろう? 腐敗した貴族はどんどん潰してくれとか言ってたよな?」


エド王 「……ああ、だが、グリンガル侯爵派の貴族は一掃したのでな、今残っている貴族にはそれほど悪い者は残っておらんのだ。お手柔らかにしてもらえると助かるんだが」


リュー 「まともな貴族なら、おかしなちょっかいの出し方はせんだろう?」


エド王 「一応、これ・・を持って行って活用してくれるか?」 


渡されたのは王家の紋章が刻まれたカードサイズのプレートであった。


エド王 「その札を持つ者は、王家の最大限の保護を受ける者であり、その札を持つ者を蔑ろに扱う事は王家と国家への反逆である、という通達を全貴族に向けて発行してある」


リュー 「……印籠?」


エド王 「印籠…? というのが何か知らんが、身分証明書兼通行証のようなモノだと思ってくれ。もちろん、リューの魔力紋を登録してあるので、他の人間には使えない。リューが認めれば一時的に貸与する事は可能だがな」


リュー 「王家の保護なんて要らないんだが……」


エド王 「すまん、はっきり言えば、それはリューを保護するためではなく、リューから貴族達を保護する意味もあるのだよ。貴族本人はともかく、その家臣・部下達が馬鹿な事をする可能性は、ないとは言い切れないのでな」


リュー 「こんなのがあっても『そんなのは知らん』とか言い出す奴が出てくるのが目に浮かぶんだが?」


エド王 「一応、貴族家当主だけでなく、末端の使用人に至るまで徹底しておくように、という命令を添えて出してある…ので大丈夫だとは思うんだが……」


ジト目のリュー。


エド王 「…まぁ、その、お手柔らかに頼むよ……」


リュー 「別に、偉そうにするつもりはないからな。侮辱程度ならどうこうする気はないさ。だが、権力を使って無理やりどうこうしようとするなら、全力で潰させてもらう」


エド王 「ああ、そのような場合は遠慮なくやってくれてかまわん」


さらに、リューが爵位を拒否した代わりにユキーデス伯爵を侯爵に陞爵するとエド王は言っていた。リューはユキーデス伯爵に雇われていたのだから、リューの功績は雇い主の功績という事らしい。


もともとエド王はユキーデス伯爵をいずれは公爵家とするつもりで、陞爵する名目を探していたので利用させてほしいと言う事だった。


ただ、いきなり伯爵家が公爵家入りするとなると現公爵家が黙っていないだろうから、当分は侯爵家としておき、機を見て陞爵させるつもりである。


おそらくそのときには、ベアトリーチェが王族であると公開する時となるであろう。


リューはそっちは好きにしてくれと興味ないのであった。




  * * * * *




リュー 「さて……。また褒美に大金を貰ってしまったわけだが……あまり大金貰って使わずに全部溜め込んでると、経済に悪影響が出そうだよな…? 全部現金で貰ってしまったしな。まぁ国の経済を俺が考える必要はないんだけどな。しかし、せっかくだから、何か新しい事業でも始めるか?」


ランスロット 「リューサマ、探偵の仕事はどうされるので?」


リュー 「いや、探偵はもうやめたいなと思ってるんだ。……なんか思ってたのと違ったというか。俺には向いてない気がしてな…」


ランスロット 「そうですか、それも良いかもしれませんね」


リュー 「とは言え、魔法学園での一件以降、依頼もポツポツ来るようになってしまったので、いきなり閉めるってわけにもいかないんだよなぁ……あちこち宣伝しまくってしまったしな」


ランスロット 「探偵という仕事が認知されて、少しずつ需要が増えているようではありますが」


リュー 「探偵業も細々とは続けるか? 俺自身は手を引いて、後は誰か……ランスロットに任せるとか?」


ランスロット 「私ですか? それも面白いかとは思いますが、私はリューサマの側に居るのが仕事ですので」


リュー 「まぁランスロットでなくても構わんよ、適当にスケルトン兵士配置してやらせてみるってのは? できないか?」


ランスロット 「そうですね、そのような仕事が得意な骸骨もおりますので、やらせてみましょうか」


リュー 「まぁ、誰か後継者の “人間” を育てて任せてもいいけどな」


ランスロット 「で、探偵業は別の者にまかせるとして、新規事業と言ってましたが、何をされますか? 王に許可をもらって新たに大規模な再開発事業なんてどうですか?」


リュー 「そうだなぁ……。大規模な事業とかじゃなく、個人的に、色々な仕事を経験してみるのもいいかと思っているんだが。ただ……その前に、少し旅をしてくる必要があるかも知れない」


ランスロット 「……いよいよですか?」


リュー 「ああ、そろそろ準備ができたらしい」


その時、事務所の扉をノックする音がした。


探偵に仕事を依頼に来た客かと思ったのだが、リューが扉を開けて見ると、そこに立っていたのはマグダレイアであった。



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


リュー 「……レイア?」


レイア 「リーザと呼んで下さい」


乞うご期待!



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る