第10話 【嫌がらせ】素材の買取を禁止された

ゴジと“話し合い”を終え、冒険者ギルドに戻ってきたリュー。絡んできたゴジの仲間も相手にせずゴジに引き取らせると、リューは買取カウンターに向かった。


買取カウンターの中に居るのはロッシュ。リューの顔馴染みであり、リューに親切にしてくれたギルド職員の一人であった。


冒険者になったばかりのリューは、間違えて薬草と毒草を一緒に持ってきたりしたが、そんなリューにロッシュは薬草の見分け方を丁寧に教えてくれた。その後も薬草しか持ってこないリューを差別することなく、他の冒険者と同じ様に扱ってくれた。


ロッシュはカウンターにやってきたリューに対し、済まなそうな顔をして何か言いかけたが、リューは手を挙げてそれを制した。


リュー「分かってる、素材を買い取るなって言われてるんだろ?」


ロッシュ「ああ、すまない。マスターに抗議はしたんだがな。後でもう一度……」


リュー「何も言わないでいい。俺のせいでロッシュの立場を悪くする事はない。ただできたら…」


ロッシュ「?」


リュー「買い取らなくて良いから、査定だけしてくれるか? 相場が分からんのでな。できれば解体までしてくれると助かるが……もちろん解体の手数料は払う」


ロッシュ「リュー……話は聞いていたが、なんか感じ変わったな。いや、いいことだ! ああ、査定だけなら問題ない。禁止と言われたのは“買取”だけだからな(笑)  素材はどこだ?」


リュー「素材はデカイんでカウンターには出し切れないな」


ロッシュ「そうか?!じゃぁ裏の倉庫に来てくれ」


裏の倉庫に行ったリューは、亜空間に収納していた這竜クロウドラゴンの死体を一体、床に出した。


それを見たロッシュが驚きの声をあげた。


「うお? 収納の魔導具……? いや、“収納魔法” か?!」


驚いたロッシュだったが、出された素材に目が行って、ロッシュはそれどころではなくなった。


「これ……ドラゴンか?!?!?!」


ポカンと口を開けてフリーズしてしまうロッシュであった。。。


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その日、冒険者ギルドは大騒ぎであった。


リュージーンがダンジョンでドラゴンを倒したと主張していたという話は既にギルド内で話題になっていたが、ほとんどの職員がそんなのはホラ話だと思っていた。。


だが、現物を見てしまったら、信じるしかない。


直接見なかった職員は未だ信じない者も多かったが、査定と解体作業を手伝った職員も多かった。その者達がドラゴンが本物であったと証言しているのである。


つまり、リューがドラゴンを倒したというのは本当の事だったという事になる。


ドラゴンの素材が持ち込まれるなど、なかなか有る事ではない。この街の冒険者ギルドに至っては、開設以来持ち込まれた記録はない。


これが、どれだけの利益を生むか……本当であれば、是が非でもギルドで買い取りたい貴重な素材である。


ドラゴンとしては低級種ではある。(厳密に言うとクロウドラゴンは竜種ではなくトカゲ種なのだが。正式名称はミムルド大トカゲミムルドドラゴンという。)だが、例えドラゴンモドキであっても買取は数百G、全身無傷であれば数千~数万Gにもなる。もしオークションで競り合いになればその十倍~百倍にもなる可能性だってあるのだ。


(※1G=1万円)


だが、リューからの買取はできない。ギルドマスターの命令である。


査定額を確認し、解体した素材を亜空間にすべて収納してギルドを去って行くリューを見送るしかなかった。その日の夕刻になって、やっと職員の噂話を耳にしたギルドマスター・ダニエルが買取カウンターに飛んできた。


ダニエルは、なぜ帰らせたのかとロッシュを責めたが、ロッシュはマスターの指示に従っただけだと惚け、逆に、そもそも、なんであんな馬鹿な処分を下したのかと職員たちに逆に責められてしまうのであった。


ダニエルはリューを探し出して連れ戻せと言いだしたが―――


ロッシュ「じゃぁ処分は解除ってことだな?」


ダニエル「それは……できない」


ロッシュ「じゃぁリューを連れ戻しても意味ないじゃないか? どうしろって言うんだ?」


ダニエル「…俺のところに連れてこい」


ダニエルは、素材を買い取って貰えなかった事で、きっと今頃リューは後悔しているに違いない、謝りたいと思っているはずだと言うのである。


ダニエル「俺だって鬼じゃない、素直に謝るなら処分は解除してやろう。その代わり、ペナルティとして素材は安く買い叩かせてもらうがな」(笑)


それを聞いていたギルドの職員達もさすがにあきれてしまい、誰もリューを探しに行こうとはしないのであった。。。


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冒険者ギルドで解体してもらった素材を受け取ったリューは、その足で商業ギルドに向かっていた。素材の買取を商業ギルドに持ちかけるためだ。


リューが素材を収納してある亜空間の内部は時間が停止しているため、素材はいつまで入れておいても傷まない。つまり、焦って売らなくてもよいのだが、冒険者ギルドのマスターへの当てつけである。


何も、素材は必ず冒険者ギルドに売らなければならないわけではないのだ。


素材の買取は商業ギルドでもやっているし、個人的に商人や貴族などと取引する事も可能なのである。むしろ、商人達のほうが冒険者ギルドよりずっと高値で買い取ってくれるのである。


それでも冒険者が冒険者ギルドに素材を売るのは、素材の買取が冒険者の評価ポイントに反映されランクアップに繋がるようになっているためである。


だが、ランクアップにも興味をなくしたリューが、もはやそれに従う理由もない。


ダニエルは、買取してもらえなければリューは稼げずに干上がるはずだと思い込んでいるが、素材は他にいくらでも買いたいという者は居るのである。だが、特権的立場にドップリ染まり、視野が狭くなっているダニエルはその事には気付いていないのであった。


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商業ギルド受付嬢「いらっしゃいませ、本日はどのようなご用ですか?」


リュー「素材の買取を頼みたいんだが、できるか?」


受付嬢「はい!あちらの買取カウンターで受け付けております」


商業ギルドで活動するためには、商業ギルドに会員登録する必要があるが、素材を売るだけならば登録は不要である。


買取カウンター係「いらっしゃいませ、素材の買取ですか?」


リュー「少し量が多いのだが、どこか広い場所はあるか?」


買取カウンター係「でしたら裏の倉庫で可能です。荷物は外ですか?」


リュー「いや、俺は収納魔法が使えるんだ」


買取カウンター係「ほう!それはそれは。ではこちらへどうぞ」


案内されて裏の倉庫にへ行った。


買取係「収納魔法が使える方を初めて見ました。まぁ、マジックバッグを作れる錬金術師が存在しているのですから、収納魔法を使える人が居るのは当然なのですが……」


倉庫に着き、リューはクロウドラゴンの素材を出す。


素材を見た瞬間、買取係の目の色が変わった。


買取係「し、少々お待ちください!!」


買取係はどこかに走っていったが、すぐに戻ってきた。どうやら応援を呼んできたようだ。


「はじめまして、私はこの商業ギルドのマスター、エイルと申します、どうぞよろしくおねがいします」


買取係が連れてきたのは商業ギルドのマスターだった。


エイル「リュージーン様、早速査定させて頂きますので、応接室でしばらくお待ち下さいますか」

職員にリューを応接室に案内するよう指示した後、エイルと買取係は手分けして素材をチェックしていく。


エイル「うーん、間違いない、ドラゴンの素材だ!素晴らしい!!」


エイルが応接室に入ってきて言った。


エイル「お客様、大変失礼ですが、これをどこで……?」


リュー「東のダンジョンの15階層だ」


エイル「お、お客様が倒されたのですか?!」


リュー「そうだが?」


買取係「さすがでございます。収納魔法を使うような方ですから、これくらいは当然ですね!」


エイル「しかし、なぜこれをこちらにお持ちに…? 大変ありがたい事なのですが、通常、冒険者の方は素材は冒険者ギルドで買い取ってもらう方が多いものですが……?」


リュー「ちょっと冒険者ギルドのマスターに睨まれてしまってな。無期限買取禁止の処分を受けたんだ」


エイル「なんと……!」


リュー「冒険者ギルドで禁止になると、こっちでも買取できないか?」


エイルの反応に少し心配になってリューは訊ねた。


エイル「あ、いえ、そんな事はございません。ただ、ダニエルは馬鹿な事をしたものだと思っただけで。もちろん買取は可能です、いえ、是非買い取らせて下さい!冒険者ギルドより高く買い取らせて頂きますよ!!」


商業ギルドと冒険者ギルドはあまり仲が良くない事が多い。商売上、競合する部分が多いので、どの街もそのような傾向になる事が多いのだが、この街の場合は特に仲が悪いのである。


実はリューはそれを知っていて、商業ギルドに素材を持ち込んだのだが。


リューの狙いは的中した。


事情を聞いたエイルは、対抗意識剥き出しで協力してくれることになったのである。


結局、素材は冒険者ギルドの5倍もの高額査定で買い取ってくれる事になった。(それでも商業ギルド的には十分ボロ儲けできる計算なのであったが。)

そして、商業ギルドがドラゴンの素材を買い取ったという噂はすぐに知れ渡った。それを聞いたダニエルは悔しさのあまり、さらにリューに対して意固地になっていくのであった。



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次回予告


依頼に失敗する冒険者が増えたのは何故か?!


乞うご期待!



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