第11話 依頼横取りの嫌がらせをしてみた

それからしばらくの間、リューの生活パターンはルーティーンワーク化した。


朝、遅めの時間に冒険者ギルドに行く。

依頼ボードをひとしきり眺めてから、今度は買取カウンターへ。

前日に解体と査定に持ち込んだ素材を受け取り、新たな素材を置いていく。

その後は商業ギルドに向かい、解体した素材を買い取ってもらう。

午後は森やダンジョンへ狩りに行く。


その繰り返しである。






冒険者ギルドのマスター・ダニエルは、最初、リューの持ち込む素材の“査定”と“解体”も禁止にしようと思ったのだが、そうなったらリューは商業ギルドに全て持って行くだけなので意味がない事に気づいた。


それよりは、査定と解体を冒険者ギルドで受けるようにしたほうが、リューがどのような素材を持っているかを知る事ができるので良いと考えた。


それも、リューが冒険者ギルドにわざわざ素材を持ち込んで来るから成立する話なのであるが……


その気になれば、リューはいつでも査定・解体も含む全てを商業ギルドに切り替える事ができるのである。


ただ、嫌がらせの意味で、リューもあえて冒険者ギルドにさせているだけなのである。


※ダニエルは、一応、商業ギルドに対してリューからの買取をやめろと要請してみたのだが、


『冒険者ギルドの内部事情など商業ギルドには関係ない』


と相手にされなかったのであった。


毎日大量に持ち込まれる素材を、査定と解体だけで買い取る事ができず、冒険者ギルドの買取部門の職員からも苦情があげられていたが、ダニエルはそれを全て無視していた。


そんな事をしていれば当然、職員からギルド本部に報告(密告)が行く事になるのは時間の問題なのであるが……意地になって視野が狭くなっているためか、そこまではダニエルは考えていないのであった。


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リューが冒険者ギルドに出入りしていると、時折、リューに絡んでくる冒険者も居る。


以前のリュージーンは冒険者ギルドの中では“最底辺”扱いであったため、もともと絡まれやすかったのである。


ランクアップ試験でのヨルマの惨状を知っている者であれば、今のリューに絡む事はないのだが、しばらく街を出ていて、最近の事情を知らなかった者などが、つい昔のようにリューをぞんざいに扱ってしまう事があるのだった。


もちろん、そういう輩は、転移でダンジョンに招待され、リューにキッチリと教育される事になるのだが。


特に、古株の冒険者で過去に新人や低ランク冒険者を捨て石にしていたような冒険者は、全員キッチリお仕置き再教育するつもりであった。


ただ、その“再教育”もあまり捗ってはいないのであったが。


依頼を受ける冒険者は早朝に街を出て何日も戻らない事が多いので、重役出勤で午前中は街で過ごし、午後は日帰りでダンジョンに行き、ギルドに依頼の達成報告をする義務もないリューとは、なかなか顔を合わせる事がないのであった。






商業ギルドでの素材の買取も昼過ぎには終わってしまうので、リューは昼食を食べた後、午後は森やダンジョンに行って魔物を狩る。


それでも夕刻には街に戻り夕食を食べ、家でゆっくり休む。


ダンジョンは街から徒歩で1~2日かかる距離なので、ダンジョンで狩り/討伐を行う冒険者は、通常は数日泊りがけとなる。


しかし、転移が使えるリューにとっては、ダンジョンと街の往復は一瞬の事なので、片手間に午後1~2時間ダンジョンに潜るという作業が可能なのであった。






ダンジョンの中で、もし、レイド組の冒険者を発見したらその場でシメてやるつもりだったリューだったが、案外、出会う事は少なかった。


実は、リューがレイドに参加した冒険者達に復讐して回っているという噂が既に流れており、ヨルマ達をリューが圧倒したのを知っている冒険者達は、リューに見つからないようコソコソ逃げ隠れしていたのである。


とはいえ、別に焦って行う必要もないので、リューも、徐々に、気が向いたら、タイミングが合えば、という感じで、冒険者たちの再教育はぼちぼちやっていくつもりであった。


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実は、リューは、冒険者達とギルドに対する新しい嫌がらせを始めていた。


それは、“依頼の横取り”である。


最近、ミムルの高ランク冒険者の間で、依頼に失敗する者が続発するようになったのだ。


魔物の目撃報告を受け、討伐依頼が出る。それを受けたパーティが目撃場所へ行く。ところが、目的の魔物は、既に何者かに殺されているという事が多くなったのだ。


殺された魔物の死体からは魔石も討伐証明部位も切り取られてしまっているため、討伐依頼が達成できないのである。


残った死体も切り刻まれていたり、大部分が焼かれて黒焦げになっていたりで、素材としての価値もなくなってしまっていた。






本来、冒険者が、他の冒険者が受けた依頼を横取りするのはタブーである。


仮に、他の冒険者が魔物と戦っている現場に遭遇しても、冒険者はむやみに手を出す事はない。


手を出せば、獲物を横取りしようとしたと思われて、冒険者同士で戦闘になってしまう可能性すらあるためである。


もちろん、依頼を受けた者より先に、討伐対象の魔物に他の冒険者が偶然出会ってしまい、身を守るためにその魔物を倒してしまうという事はたまにある。それは仕方がない事である。


しかし、行きずりの冒険者が偶々遭遇したにしては、数が多すぎた。また、討伐証明部位が持ち去られているのにも関わらず、それがギルドに持ち込まれる事もなかった。


狙われるのは、高ランクの冒険者しか受けられない難度の高い討伐依頼や指名依頼ばかりである。


(それは、リューとしても、低ランクの冒険者達の依頼を横取りするのは可哀想に思ったので、ランクの高い依頼だけを狙ったためであったが。)






当然、ダニエルは、リューの仕業を疑い始めた。


―――実際、リューの仕業なのであるが。ダニエルに呼び出されて事情を聞かれるが、何もしらないと惚けるリュー。惚けられてしまえば証拠もなく、それ以上追求することもできない。


そもそも、受注済みの依頼や指名依頼はボードから外され鍵の掛かる棚に保管しているので、他の冒険者には見る事ができない。


ダニエルが確認してみたところ、依頼書はすべてちゃんと鍵の掛かる書棚の中に保管されていた。


リューの様子も監視させていたが、リューはギルドの依頼ボードを毎日見てはいるものの、メモを取っている様子などもない。また、リューが査定と解体に持ち込む素材は、どれも依頼とは関係ないものばかりである。


そもそも、依頼は早いもの勝ちなので、早朝から奪い合いのようになっている。そこにリューは参加しているわけもない。


出されてすぐなくなってしまう依頼を、後から情報を掴み、依頼を受けた冒険者が出発した後に、その冒険者達を追い越して先に依頼を達成してしまうというのは、普通ならばできる事ではないのである。(ギルドの職員が裏切って情報を流しているのであれば可能かも知れないが、そのような兆候もないのであった。)


しかし


時空魔法を使うリューであれば、そのようなセキュリティはあって無きがごとしである。


鍵のかかった棚の中から直接“転移”で物体を取り出したり返したりできるのである。


そして、転移を使えば何日もかかる距離も一瞬である。後から街を出て先に目的地についてしまう事も可能なのである。






しかし、転移を含む時空魔法はこの世界では伝説の中だけで語られる幻の魔法である。ダニエルも、リューがそのような事ができるとは思いもよらない。


しかし、どうもおかしい。


何かがおかしい。


商業ギルドでドラゴンの素材が流通したのは事実と確認されている。売ったのは間違いなくリュージーンであったという報告も受けた。それも、最初にリューが倒したというクロウドラゴンモドキではなく、それよりさらに深い階層に居るはずの本物の竜、地竜アース・ドラゴンの素材まで売ったという。


ダニエルは、何らかのアクシデントでドラゴンが偶然死に、リューはタナボタで素材を手に入れたのだろうと予想していた。


しかし、もし、リューのドラゴン討伐が本当だったとしたら?


本当にリューがドラゴンを倒すほどの力を身につけたのだとしたら……?


しかもリューは、毎日のように魔物の素材を解体・査定に持ち込んでくる。つまり、魔物を毎日大量に狩っているという事になる。それも短時間でである。


あるいは、リューはどこかからその素材を仕入れて持ち込んでいるのかとも疑ったが、そんな経済力がリューにあるわけもなく。仮に金があったとしても、それだけの量の素材がそもそも市場に流通していないのであるから、不可能である。


色々と摩訶不思議な事もあるが、それを実現するような力をリューが身につけているとしたら?


何故、突然そんなに強くなった???


いくら唸りながら自問自答したところで、答えは分からないダニエルであった。。。



― ― ― ― ― ― ― ―


次回予告


リューの狩りは片手間で終わる


乞うご期待!



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