第556話 なんて野蛮な種族だ

リューガ 「おい……? 子供は離れていろよ?」


防壁を降り、対峙したリューとリューガだったが、リューの腰にエライザが抱きついたままだったのだ。


リュー 「別にこの子が一緒でも俺は構わんがな」


リューガ 「とことん舐めやがって……いいから子供は離せ、負けたのを子供のせいにされても困るんでな」


リュー 「仕方ないな、エライザ、下がっていなさい。大丈夫、すぐに終わる」


エライザが頷いて下がる。


再び、こんどは一対一で対峙するリューとリューガ。


そして……


…リューガが膝をついた。


リューガの体から力が抜けていき、立っていられなくなったのだ。


リュー 「終わりだ。お前の中の竜闘気を分解した」


リューガ 「こっ…これは……」


リュー 「言ったろう? 竜気とか闘気とか幽気とか魔力とか、色々言い方はあるらしいが、俺はそれを分解する能力があるんだよ」


リューガ 「こっ、こんなの、卑怯だろうが! そんなおかしな力を使わず、正々堂々と戦え!」


リュー 「やれやれ、納得できないか。そんな奴ばっかりだよな、この世界って。まぁいいだろう、お前の得意なジャンルで戦ってやろう。何でもいいぞ? 何が得意だ? 腕力か? 竜闘気か? 魔法か? 剣術でも、いいぞ?」


リューが魔力分解(竜気分解)を解除した。それにより、リューガが周囲の竜気を吸収して回復していく。


回復力はなかなかのものであるが、里の中には良質な竜気が充満しているためである。里の中央には巨大な樹が立っており、そこから竜気が湧き出し溢れているのだ。里長が長生きなのも、里の竜樹の竜気を特殊な技で吸収しているからなのである。


リューガ 「くそっ、随分強気だな。だがいいのか? 俺はこの里随一の戦士だ。その、おかしな能力さえなければ、何をとってもお前が勝てる要素などないぞ?」


リュー 「そうかい? まぁ試してみようや。まずは力比べといくか?」


リューが手を開いて差し出すとそれをリューガが掴んだ。そして


リュー 「ほい、俺の勝ち」


リューガ 「うがぁぁぁぁってててて! バカなぁぁぁっ!」


リューが本気で力を入れるとあっというにリューガが力負けしてねじ伏せられてしまう。


リューガは、鍛え抜かれた里でナンバーワンの戦士である。その “竜人レベル” は既に30を超えている。


竜人レベルは1段階で人間のレベルの50~100に匹敵すると言われている。仮に50で換算すると、竜人の里の平均レベルは5~15というところなので、人間で言えば250~750。人類最強と言われるレベルでも300くらいなのだから、竜人達が人間種を見下すのも分からないではない。


ましてや、里の中でもリューガは頭抜けているのだ。竜人レベル30は人間のレベル換算で1500。怪物である。増長するのも当然であろう。


まともに比べたら、リューが敵うはずがないのであるが……


リューがあっさり勝てたのは、瞬間的にレベル上昇を使ったからである。


リューガ 「貴様、一体、レベルはいくつなのだ……


…バカな! “1” だとぉぉぉっ?!?!?!」


リュー 「ほう、【鑑定】が使えるのか」


リューガ 「ありえないだろうが! 俺はレベル30を超えているのだぞ!」


だが、それが、レベル1のリューに力負けしている。


リューガ 「一体何が起きているのかサッパリわからん……」


だが、それを見破っていた者が居た。里長である。


里長 「リューガよ、鑑定結果に騙されるでない。リュージーンはレベルを隠しておる。一瞬じゃが儂の鑑定には数値が見えた。おそらく、本当のレベルは200程度か…?」


確かに、リューは瞬間的に竜人レベルを200前後(人間換算だと1万程)まで上げて、すぐに戻したのである。


リュー 「実はな、俺はレベルを可変できるんだよ。ちなみに上限は特にない。内緒だぞ?」


リューガ 「…そんな能力、聞いたこともないぞ」


里長 「儂もない」


リュー 「どうする、負けを認めるか?」


リューガ 「ふ、ふん! 馬鹿力はあるようだがな、それだけが強さではない!」


リュー 「次はどうする? 魔法か? 剣術か?」


リューガ 「け、剣だ!」


リュー 「ほいよ」


リューが収納からいつもの模擬剣を取り出す。特殊合金製の重量が百キロある剣である。しかも取り出したのは二本である。その一本をリューガに渡すが、特に重そうにする様子もないのはさすがである。


リュー 「お前なら十分扱えるだろう?」


リューガ 「当たり前だ」


リュー 「ではやろうか」


二人は構える。


そして打ち合う。


そして……


気が付けば、リューが見下ろし、リューガは膝をつく構図となっている。


リューガ 「ありえねぇだろうが……俺は里では最強の剣士だったんだぞ」


リュー 「いや、拙いなぁ……剣術に関しては、人間の世界のほうが技術は上のようだな」


リューガ 「なぜだ! たかだが100年も生きられない人間の技術が、なぜ1万年も生きる我々より優れているのだ!」


リュー 「それは……、人間ほど、同じ種族同士で争う事が多い種族も居ないから、かもな。


いつも啀み合っている人間達は醜い。だが、人間同士で争う機会が多い分、争いのための技術が発達したのだろう。


…アンデッドになってまで、何十万年も技を磨いてきた者すらも居るしな……」


リューガ 「なんて野蛮な種族だ。アンデッドになってまで腕を磨き続け戦いを求めるだと?」


リュー 「俺に剣の稽古をつけてくれた一人はアンデッドだった」


リューガ 「なるほどな…。俺の卑怯な手※さえも、すべて読まれていたようだったが、それすらも稚拙だというわけか。


…人間てのはどんだけ卑劣な戦い方をするんだ?」


※リューガはリューと剣を交えた際、リューに圧倒され、窮して思わずドラゴンクロウを放ってしまったのだ。リューガ的には、それは卑怯な事だったという自覚であったのである。


だが、剣の技術のみで戦うと約束したわけでもないので、リューはなんとも思っていなかったのだが。


ランスロットは、長く生きている間に経験した様々な不意打ちや卑怯な戦法も、リューにたくさん教えてくれていた。剣で斬り合いながら暗器や魔法で攻撃するなど、普通に対応できなければ、人間の世界の剣術では生き残れないのだから。



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


「悔しいが、俺の負けだな…」


「は? ナニ言ってんの?」


乞うご期待!


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