第555話 竜人たる者、最後は竜人の里に至るもの

リューガ 「こっちに向かって来る…むむ?! 見ろ! 森が! 森が枯れていく……」


不気味な禍々しさを湛えた闇霧が、徐々に里に迫ってくる。里の周囲には広大な森が広がっていたのだが、闇霧に侵食され不毛の荒野が徐々に広がっていく。遠くに居たために分かりにくかったが、闇霧の範囲は思ったより大分拾いようだ。


リューガ 「おい、大丈夫なのか? あれもなんとかできるんだろうな?」


リュー 「さあ? 多分、大丈夫なんじゃないかな?」


リューガ 「多分てなんだ、無責任じゃないか! 百パーセントの安全を保証しろ」


リュー 「はぁ? なんで俺がお前らの安全を保証しなければならんのだ? 俺は別に、里が滅びてもどうでもいいし」


エライザ 「パパ、駄目! お願い、里を守って!」


リューに抱きついて上目遣いでお願いするエライザ。


リュー 「よぉし! パパに任せておけ! じゃぁ、ちょっくら行ってくる!」


エライザの頭をよしよしとひとしきり撫でた後、リューは竜翼を広げ、里の外へ飛び出した。向かうはもちろん、迫ってくる闇霧である。リューは闇霧へ向かってまっすぐ飛んでいき、そして……そのまま霧の中に飛び込んでしまった。そして、闇の霧が浄化され始める……。


そして数分。闇の霧はどんどん薄くなり、ついにはすべて消えてしまったのだった。


里長 「おお! 何万年も蓄積されてきた幽気の汚れが……怨念が……すべて浄化されてしまった……! これは、神の奇跡か! リューガの言うとおり、奴は神の使いかもしれんの……」


    ・

    ・

    ・


浄化を完全に終えて戻ってきたリュー。


すると、里の奥から数人の美しい女達が現れた。和風テイストな服装を着ている。


リュー 「なんだか…巫女さんみたいな服装だな…」


里長 「竜人の里の巫女達じゃ、なんで分かったんじゃ?」


リュー 「いや、まぁ、なんとなくな…」


女性達の中から、リーダー格と思しき女性が里長に声を掛けた。


女 「里長、そちらの方が…?」


里長 「うむ、こちらに御わすのがリュージーン殿じゃ。リュージーン殿、こちらはシャンティナビータ。竜人の巫女じゃ」


リュー 「儀式の準備ができたのか?」


シャンティナビータ 「はい、あ、いえ、もう少しかかります。ですが、もう必要ないのでは?」


里長 「うむ、リュージーンが闇を祓ってくれたからの。もし再び汚れた幽気が溜まって邪霊が生まれても、リュージーンさえ里に居てくれれば、全て解決じゃ」


すると、シャンティナビータと女達がリューの前に並んで跪いた。


リュー 「なんだ? 礼ならエライザに言え。エライザがやれって言うからやっただけだからな」


シャンティナビータ 「霊剣を作るための準備として、穢を落とす行をしておりました。まだ途中でしたが、霊格が高まってきたところで、神の啓示を受けました。今、里に神の浄化の力を持つ者が訪れると。それが、貴方様ですね」


リュー 「思い当たる節はあるな……浄化と言われるとピンと来ないが。【分解】の能力の事だよな」


里長 「とりあえず、当分の間は穢れが溢れてくる事はないじゃろう。それに、闇に囚われていた竜と竜人達の魂を救ってくれたのじゃ。感謝してもしきれない。どうか、このまま里に居て、次の長になってくださらんか? 儂はいい加減、引退する」


リューガ 「なんだと?! そんなの認めねぇ! 次の長は俺じゃなかったのか?」


里長 「確かにお前も候補の一人ではあったが、別に決まっていたわけではない」


リューガ 「だが、今里に居る戦士では俺が一番強い! 他にいないだろうが」


里長 「今はリュージーンがおる」


リュー 「いや、別に俺は長にはなる気はないぞ?」


リューガ 「ならば、俺がコイツを倒す! そうすれば俺が長だな?」


里長 「リューガ。できぬ事は言わぬほうがよいぞ?」


リュー 「あのー。聞いてます? 俺はこの里に留まる気などないんですけどー?」


里長 「まぁまぁ、リュージーン殿。竜人たる者、必ず最後は竜人の里に至るものです。現にリュージーン殿も里にたどり着いた。このまま里に留まっていただけるなら、色々とメリットも提示できますぞ? まぁ詳しくは後ほどゆっくりと…」


リュー 「いや、俺はエライザを連れて出ていくつもりだから。エライザが残るっていうのなら別だが。俺はどっちにしても、人間の世界で生きていく。こんな里に引きこもる気はないよ」


里長 「長になれば、シャンティナビータを、それだけじゃない、美しい竜人の巫女達をすべて、自由にできるのですぞ?」


リュー 「…ってあんた、巫女達を自由にしてるのか?」


里長 「そっ、そんな事はない。もしリュージーン殿が長になるなら、という話じゃ」


リュー 「…悪いが間に合ってるよ。俺にはエライザが居るからな」


リューガ 「…貴様、シャンティが気にいらんと言うのか?! けしからん! だいたい、竜人でありながら、里で暮らさないとはどういう事だ?! 裏切るのか?」


リュー 「裏切る以前に、仲間になった憶えがないんだが。だいたいオマエ、俺を追い出したいんじゃなかったのかよ…」


リューガ 「お、オマエを里長にするなど認められんと言っているだけだ。竜人なら、里のために働くのは当然だろうが」


リュー 「俺にそんな義理はない。俺は人間の街で生まれ育ったし、家族も人間の街に居る。俺はこの里とは無関係だ」


リューガ 「…っ、だが、その娘を連れて行かせるわけにいかない。その娘はエリザベータとリュータの子だと聞いた。ならば里の子だ。お前のほうこそ関係ないだろう」


リュー 「生まれた時から俺が育ててきたんだ。血の繋がりはなくとも俺はエライザの父親だ」


その言葉を聞いたエライザが嬉しそうにリューの腰に抱きついてきた。


里長 「里に残れば、その子とも一緒に暮らせるぞ?」


リュー 「別に、俺にはこの里に思い入れはないしな。それはエライザだって一緒だろう? トナリ村でみんなが待ってるぞ?」


リューガ 「まぁお前の考えなどどうでもいい。要は、俺がコイツを倒せばすべて解決だろう? 俺が里長になり、コイツは里に監禁して、邪気が溜まってきたら浄化させればいい。


というわけで、お前! 俺と戦え! 竜人ならば正々堂々と戦いで決めようじゃないか! それが竜人の矜持! 竜人の流儀だろ! な?!」


リュー 「知らんがな…」


里長も何か言いかけたが、結局何も言わずに口を閉じた。


里長は、リューガがリュージーンに勝てるとは思っていなかった。だが、リューガも現在里ではナンバーワンの実力者であるのだ。もしリューガが勝ってくれれば、リューガの言う通り、リュージーンを里に軟禁して、すべて丸く収まる……かもしれない。


リュー 「俺が乗る・・理由がないんだがな…俺がお前の挑戦を受けるメリットは何だ?」


リューガ 「あるだろう、お前が勝ったら里を出ていっていい、その子とエリザベータを連れてな」


エリザベータ 「ちょっと、勝手な事言わないでよ!」


リュー 「エリザベータはもうどうでもいいけどな」


エリザベータ 「ちょ、どうでもいいってどういう事よ?」


リューガ 「安心しろ、負けはせん」


リュー 「やれやれ、じゃぁとっとと片付けようか、時間がもったいない。里に来てから、まだエライザとまともに話もできてないんだぞ俺は…」



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


リュー 「ほい、俺の勝ち」


リューガ 「うがぁぁぁぁバカなぁぁってててて!」


乞うご期待!



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