第554話 邪気を祓う

リューの魔法障壁は攻撃を完璧に防ぎ切っている。そのうち、邪竜霊達はブレスの攻撃を一点に集中し始めたが、それでもリューの魔法障壁は揺るがない。


リューガ 「ううむ、たしかにすごい障壁だ……。だが、お前の使っているのは、人間の使う魔法だろう? 人間の魔法は燃費が悪く効果も低いはずだ。見栄を張って広範囲に強力な防壁を張って見せたのはいいが、すぐに魔力が枯渇してしまうんじゃないのか?」


リュー 「別に? なんならこのまま何年でも張り続けられますけど何か?」


当然である。魔力をオリジンから生成できるリューにとっては、魔力の供給源は世界そのものであるとも言えるのだから。


リューガ 「…効率の悪い魔法でも問題なく支えられるほどの莫大な魔力量を持っているというのか…ハッタリでなければよいのだがな。だが、仮にそうであったにしても竜魔法のほうが高率が良い事は変わらん。気に入らんな。貴様、竜人だろう? なぜ竜魔法を使わん?」


リュー 「俺は人間の世界で育ったから、竜人の能力も大人になってから覚えたくらいでな。竜言語魔法とやらは知らんのだよ」


リューガ 「竜人としては幼児並ということか。そんな奴に竜人の里が助けられるとはな…」


里長 「リューガよ、いい加減にせんか。里全体をカバーできるほどの障壁を張る事ができる者が里の中に居るというのか? 儂ですらそんな事はできん。今はリュージーンに頼るしかないじゃろう」


リューガ 「別に、里全体に障壁を張る必要はないでしょう、攻撃を受けている部分だけなら、我々だけで対応できます! 貴様、分かったら手を引け!」


リュー 「俺は別に手を引いても構わんが……本当に大丈夫か? いや、まぁ、この里が滅びようと、別に俺には関係ないけどな……」


その言葉にリューガがリューを睨む。


里長 「いや、リュージーンよ、どうか手を貸してほしい。


リューガよ、見てみよ。外の敵はますます増えてるおる……邪竜霊の攻撃に耐えられる障壁を張れる者は、リューガを含めても2~3人しかおらんであろう。敵の数が多すぎて、リューガ達だけでは防ぎきれんぞ」


見れば、里を取り囲む邪竜霊の数がますます増えている。


リューガ 「これほどの数……あり得ない、何が起きているのだ?」


里長 「見よ……どうやら、あれが原因のようじゃな」


リューガ 「あれはなんだ?」


見ると、邪竜霊達の背後に、巨大な黒いモヤのようなものが見える。その黒いモヤの中から次々と邪竜霊が生み出されているのだ。


里長 「あれは、これまで長きに渡って蓄積され続けた、低い幽気が濃縮され、そこに邪悪な人間の魂が取り付いた化け物じゃろう。同じようなモノを、千年ほど前に一度、見た事がある」


よく見れば、生み出されているのはもはや竜や竜人の魂がベースの “邪竜霊” ではなく、人間や獣人、魔族なども含む様々な種類の “邪霊” が生み出されていた。


リュー 「つまり、アレを処理すれば、邪竜霊とやらは生まれなくなるってことか?」


リューガ 「バカめ。邪竜霊を倒すのにも苦労するのに、あんな巨大な邪気の塊のような化け物、どうするというのだ……」


里長 「いや…、リュージーンの浄化能力ならば可能かもしれん……」


リュー 「そんな気はしてた。ちょっと試してみようか?」


そう言うと、リューは障壁に攻撃を続けている一体の邪竜霊に手を向けた。


次の瞬間、手の先に居た邪竜霊が分解・消滅してしまう。


リューガ 「!! 何をした?!」


リュー 「ああダメだ。これだとやっぱり魂ごと消滅してしまうな…


…そうか、クリーンで邪気が浄化できると言ってたな?


ならば、【クリーン】をイメージした【分解】? いや【分解】を意識した【クリーン】? ま、どっちでも同じか」


再び、別の邪竜霊に手を向けたリュー。


だが今度は、【魔力分解】を、【クリーン】として意識して作用させてみる。


すると、なんということでしょう!(日本でやっていたリフォーム番組のBGMで)


リューたくみの技によって、汚れた幽気が染み付き完全に混ざり合っていた邪竜霊の体から、汚れた幽気だけが分解して消えていくではないですか。


浄化された邪竜霊、いえ、元邪竜霊であった竜人の魂が昇天していきます。一瞬見えたその顔は穏やかです。


里長 「…汚れた幽気に捕らわれた竜人の魂が、浄化されて昇天していく……やはり、思った通りじゃ。これまで、邪竜霊となった魂は消滅させるしか手がなかった。じゃが、リュージーンならば魂を救ってやる事ができる!」


リューガ 「信じられん……なんなんだオマエは? まさか……竜神様の使いなのか?


…だが!」


一瞬呆然とした顔をしたリューガであったが、すぐに我に返って再び顔を顰めた。


リューガ 「これだけの数だ。一人二人救ったところで、焼け石に水なのは変わらなん。まぁ、一人でも二人でも、救える魂があるなら喜ばしい事ではあるが……その前に里が破壊されてしまう」


リュー 「問題ない」


リューがもう一度手を上げると、広範囲に【浄化】を作用させはじめた。リューの【分解】のスキルは、特に魔力等を消費する事なく作用させられる。広範囲を指定しても特に疲れるという事もない。


里を取り囲み攻撃をしていた邪竜霊達が、手前から浄化され昇天し始める。


いまだ遠くに存在している黒い霧から新たに生み出された邪霊達も里に近づいていくと次々に浄化されていく。


里長 「おおお凄い……」


それを見て焦ったのは、はるか奥に見えていた巨大な闇の霧の怪物である。様子がおかしい事に気づいたのか、黒い霧は咆哮おとを発した。


すると、それを聞いた邪霊達が進軍を停止。もと来た方向に引き返し始める。さらに、里の周囲に居てまだ浄化されていなかった邪竜霊達も引き返していく。


リュー 「退却を始めた?」


里長 「いや、違うようじゃな」


見ていると、闇霧の怪物の元に戻った邪竜霊・邪霊達は、そのまま闇霧に飲まれて消えていく。闇霧は邪霊達を吸収するたびに徐々に大きくなっているようであった。


やがて、全ての邪霊を回収しとてつもなく巨大化した闇霧が、里に向かって移動を開始したのであった。しかも、闇霧が通過した場所は、植物が見る見る枯れていく。後には土と岩しかない荒野が残るのみとなっていくのであった…。



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


竜人の里の巫女達がリューに跪く

だが、異を唱えるリューガ

「こんな奴が里長になるなんて認めねぇ!」


乞うご期待!


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