第615話 冒険者ギルドへようこそ!

エライザ 「ごめんてぇ。別に忘れてたわけじゃないんだよ?」


ヒドイヤヒドイヤとダダを捏ねるランスロットをなだめるエライザ。


エライザ 「だって、ランスロットはどうせ元気じゃん? 永遠に死ぬことないんだし? 後でゆっくり会えばいいかって…」


ランスロット 「…まぁ、それはそうなんですけどね」


リュー 「まぁウソ泣きだしな」


ランスロット 「はて? なんの事でしょう?」


リュー 「涙を流すスケルトンとか存在しないだろ」


ランスロット 「そんな事はありません、私達も涙も汗も流しますよ。確かに物理的な水分は流れませんが、心の涙、心の汗が流れるのです!」


エライザ 「え、でもさっき、確かに涙が見えたんだけど…迫真の演技で幻が見えた?」


ランスロット 「ああ、それは、目薬を使いましたので。仮面の裏に仕込んでありまして、こう、額の部分を押すと…」


エライザ 「心の涙じゃないんかーい」


ランスロット 「心の涙を表現するためですよ、心の涙も見えなければ分かりませんからね」


リュー 「漫才はいいから早く帰ろう、みんな待ってるぞ。……待ってはいないか、エライザが今日帰ってくるって知らんからな」


ランスロット 「いいえ、みんな待ってますよ。いつか必ずエライザは帰ってくるって信じて、みんなずっと待っていたのですから。さぁ帰りましょう、みんな喜びますよ」


エライザ 「…うん!」


そしてトナリ村の孤児院へ向かい、みんなと涙の再会を果たしたエライザであった。




  * * * * *




『いらっしゃいませ、冒険者ギルドへようこそ! 本日はどのようなご用件でしょうか?』


翌朝。


トナリ村のギルドで、受付嬢レベッカが定型文の挨拶をする。


エライザ 「冒険者登録をしたいんだけど」


レベッカ 「はい、ではこちらに記入……って、もしかして……エライザちゃん? エライザちゃんね?!」


エライザ 「お久しぶりです、レベッカさん」


リューに連れられてエライザはたまにトナリ村の冒険者ギルドに顔を出していたので、受付嬢とも顔見知りだったのだ。


レベッカ 「まぁまぁ、すっかり立派になって、まぁまぁ……」


レベッカは立派になったエライザを見て少し涙ぐんでいる。実はレベッカは、4年ほど前に子供を生み、今は子育ての真っ最中である。そのせいか、すっかり母親モードになっており、成長したエライザを見て感極まっててしまったようだ。


ちなみにレベッカの夫は冒険者のラデツキーである。


ラデツキーはかつて、魔境の森のその先を見てくると行って旅立ったまま行方不明になっていたAランク冒険者である。


竜人の里から戻ってきて、エライザもおらず暇を持て余していたリューは、冒険者ギルドの依頼をなんとなく適当に(笑)こなすようになったのだが、その頃、ラデツキーを探してきてやると魔境の森の奥深くへと進み、無事救出してきたのである。


(実はラデツキーは珍しい木の魔物に寄生されて、森の奥で半分木になりかかっていたのだが、それをリューが見つけて助け出し、巻き戻して人間に戻してやったので、村に戻れたのであった。)


レベッカ 「―――それじゃぁ、ここに名前を書いて…これに手を乗せて……これで手続きは完了よ。あとはじゃぁ、冒険者についての説明をするわね」


リュー 「必要ないだろ、俺が全部教えてある」


レベッカ 「いいえ、駄目よ。規則ですから。ちゃんと全部聞いてもらいます。ルールや制度を、分かってるつもりで勘違いしてる人も多いのよ。先輩冒険者に間違った事を教わって、それを信じて新人が問題を起こしてしまったり、ね。もちろん、リューはSランクだし大丈夫だとは思うけど。でも、誰でも、分かってるつもりで勘違いしている事があったりするものだから。きちんと冒険者のギルドの職員が説明する事になっているのよ」


エライザ 「はい! お願いします!」


レベッカ 「一応念のため、リューも聞いておいて下さいね。勘違いしてる事があるかも知れませんよ?」


新人冒険者の説明をレベッカが丁寧にする。エライザも素直に聞いている。一歩下がってそれをリューも見守っている。(ちなみにリューがルールについて勘違いしている事は特になかった。)


ところが、そこに数人の冒険者の男達がギルドに入ってきた。そして、新人説明を受けている少女を見て言ったのだ。


冒険者の男 「おやぁ、随分可愛らしい新人が入ってきたようだな? 俺のパーティに入れてやるよ、手取り足取り丁寧に冒険者のイロハを教えてやるぜぇ? へへへ」


冒険者ギルドに緊張感が走る。


この冒険者ギルドに古くから居る者は皆、リューの事をよく知っている。


だが、魔境の森が近いトナリ村には魔物を狩って稼ごうという流れ者の冒険者が頻繁に入ってくるのだ。声を掛けた男も最近トナリ村に来た冒険者だった。


リューの冒険者としての活動にはムラがある。連続/掛け持ちして依頼を受けたかと思ったら、何週間も来なかったりする。そのため、外から来た冒険者の場合、顔を合わせた事がないという者も多いのだ。ましてや、6年前まで村に居たエライザの事など知る由もない。


冒険者の男 「おい、聞いてるのか?! 新人への説明なんざ俺達がしてやるつってんだよ!」


男はエライザの腕を掴もうとした。


が、その手はエライザに到達する前に掴まれて動かなくなる。


リュー 「おまえ…殺すぞ?」


そして男は強力な握力に悲鳴をあげる。



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


エライザのお約束テンプレ初体験


乞うご期待!



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