第181話 リューの小屋の初めてのお客様

ヴェラの顔が輝く。

 

ヴェラ 「いいんですか?! 良かった、お茶も出してくれる気配がないから、嫌われてしまったのかと」

 

リュー 「あ、いや、気が利かなくてすまんな。人を招いた事など一度もなかったものでな……どうぞ」

 

小屋の扉を開け、ヴェラを招き入れるリュー。

 

ヴェラ 「中は思ったより広いんですね……なんか小屋のサイズより広いような……空間拡張? やっぱり凄い」

 

リューはテーブルの上に、亜空間に収納しておいた料理を取り出して並べていく。

 

ガリーザ王国の王都を出発する前に、数日かけてめぼしい店の料理を収納しておいたのだ。急に大量の注文を入れたので店には迷惑を掛けてしまったが、前金で割増料金を払ったら喜んでやってくれた。

 

ヴェラ 「うわぁ、どれも美味しいですねぇ!」

 

最初、リューの収納魔法に驚いていたヴェラだったが、料理を食べ始めたらすぐに夢中になった。リューが自分で食べて美味いと思った料理を選んで仕入れてきているので、美味いのは当然である。

 

ヴェラ 「見た事ない料理ばかりです。これはどこの料理なんですか?」

 

リュー 「ほとんどガリーザ王国の王都の店だよ、一部はバイマークのもあるが」

 

ヴェラ 「リュージーンさんは、ガリーザ王国の出身なんですか?」

 

リュー 「出身……? 出身と言われると微妙なんだが、ガリーザ王国に居たのは確かだ」

 

ヴェラ 「微妙……?」

 

リュー 「まぁ色々事情があったんだよ、俺は子供の頃奴隷として売られたのでな」

 

ヴェラ 「あ……すみません、嫌な事を思い出させて」

 

リュー 「別に構わん。ただ、話すと長くなるのでな」

 

ヴェラ 「長くても構いませんよ~?」

 

とりとめもない話をしながら、リューが出した王都で仕入れた酒を飲み干し、やがてヴェラはテーブルに突っ伏してウトウトし始めてしまった。あまり酒には強くないのだろうか。

 

リューはヴェラを抱き上げ、客間のベッドに放り込むと、自分は風呂に入る事にした。

 

湯船には温泉のお湯を張る。壁面に刻んである魔法陣に指で触れると、魔法陣の中央からお湯が流れ始め、湯船にお湯が溜まっていく。

 

実は、山間部にある源泉まで行き大量に温泉を亜空間に収納してあるのだ。収納の中は時間が停止しているので温度も熱いまま保持されている。その収納の出口を浴室の壁面に魔法陣で固定化してあるのだ。

 

リューだけであれば固定化する必要はないのだが、パーティを組んでクエストなどをする事を想定して、リューがいなくとも使える設備にしてあるのだ。(パーティを組んでいない客人を招き入れる想定まではしていなかったのだが)

 

お湯は数週間出しっぱなしの掛け流しにしても大丈夫なほどの量が保存されている。排水口も魔法陣になっており、亜空間に繋がっているので、小屋の外に流れ出る事はない。

 

収納してあるお湯が減ってきたらまた温泉地に行って補給すればいい。どんな遠くの温泉地でも、リューは転移で一瞬で移動できるのだから。

 

実は、最初は、転移魔法を使って直接源泉をリアルタイムに引いてしまう事を考えていたのだが、源泉の状況が変わる可能性もあるのでその案はやめたのだった。

 

地震や土砂崩れなどで源泉に汚れが混ざるかも知れないし、人間に発見され開発されたり、人間や動物の排泄物等で汚される可能性だってある。現地で状況を確認して、安全な?温泉を収納したほうが安心である。

 

同様に、排水も転移魔法陣で川か海、あるいはどこかの山奥にでも流してしまおうかと思ったのだが、石鹸等を使う事もあるし、風呂だけでなくトイレの排水等もあるので、環境を汚染してしまう可能性を考慮して、亜空間にためておく事にしたのだった。

 

収納の容量に制限はないので、排水や生活ゴミもそのまま貯めておいても構わないのだが、機を見てどこか、周囲に影響がない場所を見つけて捨てるつもりである。あるいは、ダンジョンの中に捨てたほうが良いかも知れない。

 

リューの亜空間は、種類ごとに別々の空間を作製して保存しているので、収納物が混ざると言う事はありえないのだが、やはり排泄物をずっと持ち歩いているのもあまり気分が良いものでもないと思うリューであった。

 

温泉に浸かってのんびりしたリュー。風呂からあがり脱衣場で着替えていると、扉の外に人の気配があった。扉を開けるとそこにはヴェラが居た。(小屋の周囲にはいつも次元障壁で囲っているので誰も入ってこれないので、居るとすればヴェラ以外ない。)

 

リュー 「起きたのか」

 

ヴェラ 「あ、すみません! 硫黄の懐かしい臭いがしたので……」

 

リュー 「入るなら入っていいぞ、温泉だ」

 

ヴェラ 「温泉があるんですか?!」

 

リュー 「山奥の源泉からお湯を大量に収納してあるんだ」

 

ヴェラと一緒に浴室に入り、設備の使い方を説明してやるリュー。

 

ヴェラ 「凄い…

 

…実は、私の生まれ故郷の村は温泉があったんです。懐かしいです。」

 

リュー 「じゃ、ごゆっくり。覗いたりしないから安心してくれ」

 

ヴェラ 「何でしたら一緒に入りますか?」

 

ヴェラがそう言ったが、少し悪戯な表情をしている、もちろん冗談であろう。

 

リュー 「俺はさっき入ったからな。これ以上入るとのぼせてしまうよ。もう遅いから寝る。ヴェラもあがったら客間に泊まっていくといい」

 

ヴェラはリューの言葉に甘えさせてもらい、温泉を堪能したあと、ベッドでゆっくり眠らせてもらったのだった。

 

 

― ― ― ― ― ― ―

 

次回予告

 

いよいよ不死王城へ

 

乞うご期待!

 

 

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