第180話 飯食ってくか?

チェリー 「え? いや、ちょっ、待て」

 

リュー 「どうした? 訓練場へ行かないのか?」

 

チェリー 「いや、お前は知らんだろうがな、剣の腕はアンデッド相手にはあまり関係ないんだよ。レイスに物理攻撃が効かないのはお前だって経験済みだろ?」

 

Fランクごとき、Dランクの自分が負けるわけはないと高を括っていたチェリーだったが、リューの自信有り気な態度を見て、危険を察知し方針を変えたのだった。危機回避の勘の良さはさすが経験を積んだ冒険者だけあるのだろう。

 

リュー 「スケルトンには物理攻撃が効くんじゃないのか? 全部が全部物理攻撃が効かないわけじゃないんだろう?」

 

チェリー 「そ、それも安直だ。確かにスケルトンには物理攻撃が効くには効くが、そう簡単な話じゃないんだよっ」

 

その時、カウンターの奥から出てきた男が声を掛けた。ギルドマスターのカールである。

 

カール 「チェリー、何を勝手な事を言っている。お前いつからそんな権限持ったんだ?」

 

チェリー 「お前の代わりに仕事してやってるだけだよ」

 

ヴェラ 「カール! お久しぶりです!」

 

カール 「おお、ヴェラじゃないか、久しぶりだな、お屋敷はクビになったのか?」

 

ヴェラ 「いえ、そういうわけではないんですが……こちらはリュージーン、領主様の病気を治すためにバイマークの街から来てくださったのですよ」

 

カール 「なんだって? そうか、残念だったな、まぁ気を落とすな。近隣の腕利きの治癒術士が集められてもダメだったんだ、仕方ないさ。え? 違う? 治せなかったんじゃないのか?」

 

ヴェラ 「いえ、治りました! お嬢様はすっかり良くなられたんですよ!」

 

カール 「なんだって、本当か、それは凄い……

 

…なるほど、只者ではないと言う事か。だが、まさか、ダンジョン攻略して不死王を倒すとか言い出すわけじゃないだろうな?」

 

ヴェラ 「もちろんそのつもりです」

リュー 「いや、そんなつもりはない」

 

思わず顔を見合わせるヴェラとリュー。

 

ヴェラ 「不死王に会ってみたいって言ったじゃないですかぁ……?」

 

リュー 「討伐するとは言ってない。ちょっと様子を見たいと言っただけだ。まずはダンジョンの浅い階層でな」

 

チェリー 「だが、こいつはFランクで、しかもスケルトンと戦った事もないんだとよ!」

 

カール 「そうか、なるほど、チェリーの心配も分かった。領主様の恩人と言う事ならなおさら死なれても困るしな」

 

チェリー 「だろう? だから言ったじゃねぇか、お前の仕事を代わりにやってやってるだけだってよ」

 

カール 「よし、チェリー、お前、リュージーンと一緒にダンジョンに潜ってやれ」

 

チェリー 「へっ、なんで俺が?!」

 

カール 「俺の仕事を代わりにやってたんだろう? やり始めたなら最後までやれよ」

 

チェリー 「……くそ、仕方ねぇな。新人の面倒見るのも先輩の仕事ってか」

 

カール 「そういう事だ。しっかりやれよ、お前が面倒見てもらう事にならんようにな」

 

チェリー 「何だとぉ?」

 

結局、ダンジョンへはチェリーとヴェラが案内してくれる事になった。

 

とりあえず、ダンジョンへは翌朝から向かう事にし、一旦解散となった。

 

 

   *  *  *  *

 

  

ヴェラ 「では、リュージーンさん、一旦屋敷に戻りましょう」

 

リュー 「屋敷に?」

 

ヴェラ 「リュージーンさんはお嬢様の恩人ですから、お屋敷に泊まって歓待しろと」

 

リュー 「お嬢様にそう言われたのか?」

 

ヴェラ 「いえ、言われていませんが、当然言われるに決まっていますから」

 

リュー 「そうか、だが遠慮しよう。貴族の屋敷とか肩が凝るからな。いつもの家が寛げる」

 

ヴェラ 「いつもの家?」

 

リュー 「ああ、どこか、キャンプできるような空き地に案内してくれないか? なければ街の外で適当に探すが」

 

ヴェラ 「……分かりました。ご案内します」

 

リュー 「アッサリしてるな、もっと食い下がられるかと思ったんだが」

 

ヴェラ 「気持ちは分かります、私も平民の冒険者だったので。……後でお嬢様には怒られてしまうでしょうが」

 

そう言うと、ヴェラは微笑みながら舌を出した。


     ・

     ・

     ・

 

ヴェラは街のはずれにある空き地にリューを案内した。リューは、そこにいつも泊まっている小屋を出す。

 

ヴェラ 「今朝、一度見ていますが、やっぱり凄いです…

 

魔法が使えないって言ってましたが、収納魔法だけで十分、凄すぎますよ」

 

興奮気味の様子のヴェラ。

 

ヴェラ 「いつも“これ”に泊まっているのですか?」

 

リュー 「ああ、そうだ。慣れた場所が一番寛げるからな。じゃぁこれで……一人で家まで帰れるか? 送っていこうか?」

 

普通、家まで来たなら、社交辞令でもお茶でも出そうかと言うものだが、送っていく事に気は配れても、歓待する方向に気が回らないリューであった。

 

ヴェラ 「あ、あの……食事はどうされるおつもりですか? どこかお店に案内しましょうか?」

 

リュー 「いや、必要ない。自分で用意できる」

 

なんとなく、辛気臭い街なので、あまり店にも期待できないとリューは思っていたのだった。

 

ヴェラ 「……そうですか…正直、この街の食堂の料理は、それほどお薦めできるようなものでもないですしね……」

 

リューの予想通りであった。

 

だが、何故かなかなか帰らないヴェラ。

 

リュー 「なんなら一緒に食べていくか?」

 

 

― ― ― ― ― ― ―


次回予告

 

ヴェラ、リューの小屋にお泊り


乞うご期待!

 

 

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