第241話 ドロテアの魔法をコピーする

リューは放心状態のドロテアの腕を掴み、無理やり立たせる。自分の実験に付き合えと言い、今度は自分に向かって各属性の攻撃魔法を撃って見ろと言うのであった。


言われるままに攻撃を放つドロテア。さすがに人間に向かっていきなり魔法攻撃は気が引けたので、手加減してごく小さめの火球であった。


それをリューは素手で弾いてみせる。


ドロテア 「?!」


正確に言うと、瞬時に生み出した膨大な魔力を腕に纏わせ、その腕で弾き飛ばしたのであるが。


もう一度、ドロテアは強めの火球を放つ。だがそれもリューの腕に跳ね除けられてしまう。


ドロテア 「馬鹿な……」


リュー 「どうした、どんどん続けてくれ。違う属性も頼む」


言われるままに、様々な属性の攻撃魔法を放つドロテア。威力もどんどん強くしていくが、そのすべてが弾き飛ばされてしまった。


さらにリューは、攻撃を逸らす/弾くだけでなく、攻撃魔法に真っ向から拳を打ち込んで打ち消すと言う事もやってみせた。(拳には魔力のナックルガードを纏わせている。)


ドロテアの魔法障壁と違って、リューの場合は純粋な魔力を高密度で身体に纏わせているため、言わば無属性であり、属性が何であろうとも関係なく対抗する事ができるのであった。


高度に組み上げられた術式によって属性を持たせる事で効果を高められた魔法を、純粋な魔力を放射して消し飛ばそうとすれば、膨大な魔力が必要となる。そんな使い方をしたら、普通の魔法使いではすぐに魔力が底をついてしまうだろうが、常時、“世界オリジン” から魔力を供給できるリューであれば可能であった。


リュー (やはり、魔力の燃費が悪いのは間違いないなぁ。魔力の消費量は俺には関係ないとはいえ、これなら魔力分解を使ったほうがスマートだな…)


さらに、リューは、先程言った通り、魔法障壁を試してみることにした。


実は、少し前までリューは、新しい魔法を覚えるのに四苦八苦していた。高度に組み上げられた魔法の術式は、魔道具にするのであれば魔法陣としてそれを刻み込めば良いのであるが、人間が魔法を発動するという場合、あたかも魔道具に魔法陣を刻むように、その術式を自分の中の “無意識” に刻み込んでやる必要がある。呪文詠唱などはその術式を引き出すトリガーなのである。より熟練してくると、歩くように無意識で発動できるようになり、やがて呪文の短縮や無詠唱が可能になるのであるが。


ただ、何もないところから高度な術式を組み上げ、それを自身の無意識に刻み込むのは非常に難しい。


ごく初歩的な魔法であれば、才能の在る人間ならばできるようになるが。そこから、何万回もそれを使い、熟練し、さらに効率を上げるよう努力し続け(そして才能があれば)、もう一段上に進化させられる事もある。


例えば、火球ファイアボール炎矢ファイアアローに自力で進化させる者は居る。


だが、そこまでである。それ以上の高位の魔法術式を編み出していくのは個人の努力では限界がある。まれに現れる天才が、一生をかけてやっとひとつ、新しい術式を生み出せれば良いというところであろう。


だが、古の天才魔術師が、その術式を残し、後世に伝える技術を発明した。それにより、先人の残した術式を身に付け、応用し、さらに高度な術式へと長い年月をかけて進化してきたのである。


そのような高度な魔法術式は、“伝授式” によって無意識に刻み込んで継承させる事ができる。あるいは伝授式の代わりに魔導書スクロールなどの魔道具によっても身につける事ができる。


ただし、向き不向きというものはやはりある。伝授されても、それを受け取る側に十分な器がなければ受け取れないのである。また、適性が合わず、受け取った術式を無意識下に定着できないケースもある。


魔法が使える者が、ある程度属性を限定されているのは、その術式にあった体質やスキルを持っているためである。逆に言えば、苦手な属性であっても、きちんと術式を自身の中に定着させる事ができれば使えるようになるはずなのである。新しい魔法を伝授されても、それを使いこなせるまでには長い時間の訓練が必要になるが。


オリジン変換による魔力生成が可能になったとはいえ、リューは成人してから術式を身に着けたため、英才教育を受け幼い頃から術式を受け入れてきた者に比べると、新しい術式を魂に刻もうとしても覚えが悪いようなのであった。


また、せっかく覚えた術式(魔法)も練度が圧倒的に不足しており、制御が苦手なのである。にも関わらず、瞬時に膨大な魔力を生成可能なのであるから、暴走気味になって手こずってしまうのである。


だが、最近になって、新しい魔法を簡単に覚える方法を発見した。それは、【神眼】を使う方法である。一度、誰かが使っている魔法を、神眼を使って詳細分析してしまえば、その術式がリューの中に取り込まれる事が分かったのだ。


それは、取り込んだというより、あたかも以前から自身の中にあったものが開放されていくような感覚であった。もちろん、そうして吸収した魔法も、即使いこなせるわけではない、やはり練習が必要なのであるが。


ドロテアの魔法障壁も、何度もリューは神眼によって分析を済ませており、当然使えるようになっていた。今度は、それを使って攻撃を防いでみることにしたのだ。


ただ、初めて使う魔法なので制御が拙い。あまり効率の良い使い方はできていない。それでなくとも膨大な魔力を必要とする魔法である、普通の人間であればあっという間に魔力が枯渇してしまうだろうが、燃費が悪くともリューならば問題ない。無限の魔力供給により、粗いながらも無理やり障壁を維持させることができたのであった。


だが、それを見たドロテアがまた驚き、攻撃が止まってしまった……


ドロテア 「それは……! 私の魔法障壁?! 多数の魔法障壁を組み合わせて私が独自に組み上げた魔法だぞ、どうしてお前がそれを使えるんだ?」


リュー 「一度 “見た” からな。真似してみたんだ」


ドロテア 「君は、君は見ただけで魔法が使えると言うのか……? そんな事ありえない……いや、現実にできているのだからそうなのかも知れんが……信じられない」


だが、ドロテアはリューの魔法障壁を見て、すぐに欠点に気づいたようだ。さすが、魔法障壁の達人というところか。


ドロテア 「だが、見たところ、かなり無理をしているようだな、そんな勢いで魔力を消費していたら、すぐに魔力が枯渇して倒れてしまうぞ? え? 大丈夫? 魔力は無限に供給できる? ちょっと何言ってるのかワカラナイ……」


ふと、リューは思い出したように鬼の仮面を取り出して装着してみた。全属性魔法対応の魔法仮面である。


その途端、魔法障壁の無駄がなくなり、スマートに制御できるようになったのであった。


ドロテア 「……鬼の仮面? 急に魔法制御が精密になったな、なんだそれは???」



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


ドロテアの弟子登場!

お前が先生より上なんて認めない!


乞うご期待!



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