第101話 魔矢の射手 vs Sランク ~
バットの
とあるダンジョンの深層で発見されたレアイテムであるその弓は風の精霊を宿していると言われ、矢に風の魔力を纏わせる事で飛距離を飛躍的に伸ばし、数十キロでも矢を飛ばし続ける【
さらに、【誘導】スキルにより、障害物を避け曲線的に矢を飛ばし、標的まで導く事ができる。
さらに、【貫通】【防御無効】【隠密】という効果もある。
遠くはなれた場所から千里眼を使い捕捉した
以前、バットは、苦労してなんとかBランクまでは上ったものの、そこで伸び悩んでいた弓術士であった。
もともと弓術士というのは冒険者の中ではあまり評価は高くない。近接戦闘が苦手で、かと言って遠距離でもそれほど強力な破壊力を持たないためである。戦闘においては、どうしても補助的な立ち位置にならざるを得ず、高ランクになるほど必要性が薄れ、評価が低めになっていく傾向があるのは仕方のない事であった。
そんなある日、壁を破るためバットは意を決してとあるダンジョンに挑む。深層に伝説の弓が眠っているとエルフ達の間で言い伝えられていたダンジョンである。
それは単なる伝説ではない、バットはその存在を信じていた。
だが、そのアイテムを手に入れるには、ダンジョンの最下層まで辿り着き、ボスモンスターを倒さなければならない。
バットの実力では少し厳しい挑戦であったが、バットを信じる仲間達に背中を押され挑んだのであった。
一人では無理であろうが、信じあう仲間が居ればあるいは……
…だがやはりそれは過ぎた挑戦だった。
代償は大きかった。
かろうじて伝説の弓は手に入れた。
しかし、仲間達は全員倒れ、ダンジョンから生還できたのはバットだけであったのだ。
命を捨ててバットに弓を取らせてくれた仲間たち。その弓は、バットにとっては仲間たちの形見となった。仲間たちの恩に報い、彼らの夢であったSランク冒険者になる事がバットの目標となったのである。
伝説の弓を手に入れたバットは、その能力を使いこなし、Aランクに昇格することができた。そして、やがてバットの名が徐々に世間に知られるようになってきたある日、王都をドラゴンが襲ったのである。
ドラゴンは、強靭な皮膚を持っており、物理攻撃はほとんど通用しない。さらに、魔法に関する高い防御態勢をも持っている。
高い空を飛び、上空から強力なブレスで攻撃してくるドラゴンに、王都の騎士団や冒険者達は手も足も出なかった。
その時、王都に駆けつけ、見事ドラゴンを討伐してみせたのがバットであったのだ。
接近戦が得意な者は、空を飛ぶ魔物を相手にするのは苦手である。だがバットならMFBの力でたとえ遠く離れた空の上にいるドラゴンでも、頭を射抜いて倒してしまう事ができたのである。
その事件により、バットとその弓の力は国中に響き渡る事となった。そして、ドラゴンを討伐し、王都を守った功績が認められ、バットは悲願のSランクに昇格したのであった。
* * * *
バットはリューの転移を警戒し、数キロ離れた森の中に陣取った。
リューの転移魔法の射程距離がどれくらいなのかは分からないが、これだけ離れればさすがに大丈夫であろうと踏んだのである。(これほど離れた距離で有効な魔法を放つ事ができる人間をバットは未だ見た事がなかった。)
そして、リューが街を出てゴブリンと遭遇するという絶好の機を得て、攻撃開始を決意したのだ。
ゴブリンに気を取られているリューの後頭部に打撃を加え、一瞬で意識を刈り取ってしまう作戦である。
リューを殺しては依頼失敗となってしまうので、鏃は柔らかく重さのある鈍器に変えておいた。
人間は後頭部に重い衝撃を受けると一瞬で気を失う。柔らかく重さのある打撃は浸透力があるので鎧兜をかぶっていても効果がある。しかも、バットの弓なら貫通のスキルもあるし標的を外す事もない。
離れた場所から攻撃するバットの戦法では、目標を倒した後、自分がリューのいる場所まで行くのにやや時間がかかるのがネックではあるが、場合によってはリューの手足を射抜いて地面に縫い付けてしまえば良いとバットは考えていた。殺しさえしなければ、手足は傷つけても依頼は達成となるのだから。バットの弓ならば、正確に関節を射抜いて動けなくしてしまう事も可能だろう。
リューを捕らえれば、自分のSランクとしての名声もまた上がる。
これまで、Sランクはバット一人だけだったのだが、雷王達Aランク冒険者が台頭してきていた。特に雷王達「陽炎の烈傑」は成長著しく、パーティとしてはついにSランク認定された。
だが、その陽炎の烈傑もリュー達を捕らえる事に失敗した。そのリューを自分が捕らえる事ができれば、Sランクの力を示すのには十分過ぎる成果となるだろう。
そんな事を考えながら矢を放ったバット。
バットは、矢が直接リューに当たるコースでは撃たなかった。あえて大きくハズレるコースを狙い、
だが、絶対の自信があった矢は、アッサリとリューに躱されてしまった。
信じられない。
今まで外した事がない攻撃であった。
矢には隠密の効果も付与してあった。認識阻害効果で矢も見えなかったはずだし、風切音すらもターゲットには感じ取れなかったはずである。角度も、完全な死角からの攻撃であった。
それをリューはこともなげに躱してみせたのである。
いや、もしかしたら偶然、ラッキーで躱せただけかも知れない。
非常に悪運が強い人間というのが稀に居るのだ。リューがそのタイプなのかも知れない。
だが、ラッキーは連続しては起こらない。次の矢を躱す事はできないだろう。
だが、二射目も三射目もリューに躱されてしまった。先ほどとはまた違うコース、方向からの攻撃であった。信じられない事だが、どうやら完全にリューは攻撃を見切っている。まずい……この弓を手にして以来、攻撃を外したのは初めての事であった。
ドラゴンですら外さなかったのに……
落ち着けとバットは自分に言い聞かせた。リューにはこちらの居場所は分からないのだから、気配を消して、またじっくり隙を伺えばいい。念のため、場所も移動しておこう。じっと待てば、いずれまたチャンスが来る……
そう考え、移動しようとしたバットであったが、時既に遅し、背後にリューが立っていた。
― ― ― ― ― ― ― ―
次回予告
Sランクの弓術士もやっぱりリューには歯が立たない
乞うご期待!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます