第532話 「死ね!」「あまい!」(ペンッ!)

男A 「そっ…そうか、見間違いだったかも知れねぇな」


リュー 「ふん…猿だな」


男B 「ああ、そうそう、猿の魔物が居たんだよ…」


リュー 「…お前たちが猿だって言ったんだけどな」


男C 「そうそう、俺達が……ってなんだとぉっ!」


リュー 「くだらん猿芝居を見せられたんでな」


男B 「…てめぇ、殺されてぇようだな?」


リュー 「ああそのほうが話が早い。俺も暇じゃないんで直入に行かせてもらう。お前らが俺を尾行ツケてきてたのは分かってる。お前達、ギルドでヤッチマと一緒に居た連中だよな?」


男A 「ちっ、覚えてたか」


リュー 「俺に復讐しに来たってところか? 当のヤッチマはどこに居るんだ?」


男B 「さぁなぁ、どこに居るんだろうなぁ……?」


リュー 「奴はAランクらしいが、見たところお前らは違うだろう? まさか、お前等だけでSランクを殺れって言われて来たわけでもあるまい?」


図星を突かれて男達の目が少し泳いだ。


男A 「……俺達だけだと思うか?」


すると、リューの背後、峠道の少し先のほうで、森の中から十数人の男達がワラワラと出てきて、リューのほうに近づいてきた。もちろんリューはそれも竜覚ドラゴンセンスで察知していたが。


ちなみに、エリザベータは子犬を預かって近くの木の上に座って様子を見ていた。木の上部の枝は結構細かったが、エリザベータは竜翼を広げてうまくバランスを取っていた。


エリザベータも十二分に強いのだが、子犬を守らなければならないし、そもそもヤッチマが恨みを抱いている相手はリューだけだろうから、リューが一人で相手をする事にしたのだ。


後から出てきた男達がリューを取り囲む。男達は冒険者風の者も居たが、不揃いの鎧を着けている者達もいたりと、風体がバラバラで薄汚れていた。


リュー 「盗賊か……察するに、ヤッチマは盗賊と通じていたって事か。お前たちもグルなんだな、当然?」


男C 「し、知られたからには死んでもらうぜ!」


男A 「馬鹿、余計な事を言うな、少し黙ってろ!」


リューはチラッと周囲を見回してみたが、ヤッチマの姿が見えない。おかしい。おそらく、冒険者と盗賊達のリーダーはヤッチマのはずだ。


そういえば、リューがミムルで冒険者になった頃、ミムルの周辺で、冒険者や商人が盗賊に襲われる事例が増えた時期があった。街の騎士団と冒険者達で本格的に盗賊たちの討伐が計画されたが、実行される前に盗賊達は姿を消してしまったのだ。思い返せば、ヤッチマが街から姿を消したのもその頃であった。


盗賊 「なんだよ、女も居るって聞いたのに、男一人かよ。期待してたのに…」


男B 「見捨られて逃げられたのか、ざまぁだな」


男A 「男一人だ、さっさと殺って終わらせろ!」


男C 「やっちまえ!」


盗賊達が一斉にリューに飛びかかってくる。ヤッチマの仲間の冒険者達は高みの見物のようだ。


リューの姿が盗賊達に囲まれて見えなくなり、男Aは仕事は終わったと思った。


だが次の瞬間、獲物を取り囲んだはずの盗賊達が周囲に吹き飛ばされた。リューがドラゴンクロウを周囲360度に向けて放ったのである。


取り囲んだ盗賊達は見えない爪による斬撃で切り裂かれてバラバラと周囲に撒き散らされたのだった。


男A 「なっ……なんだ? 何が起きた?」


何人か、少し離れた場所に居た盗賊達が難を逃れていたが、その者たちに向かってもう一度リューが手を振る。すると、盗賊達の体は、防御しようとした剣や盾、鎧ごと両断され、飛び散った。


あっという間に全ての盗賊が始末され、動く者が居なくなった。残ったのはヤッチマの仲間の冒険者3人だけであった。リューと目があった男Aは驚愕の表情である。


だが、その瞬間とき、リューを背後から襲う者が居た。今までどこに居たのか、まったく姿を見せていなかったヤッチマである。


実は、ヤッチマのスキルは【隠形】であった。魔力を使って自身の姿を消す。気配も完全に消してしまう。この能力スキルこそが、ヤッチマの切り札だったのである。


ヤッチマはこのスキルに絶対の自信を持っていた。たとえSランクが相手であろうと、乱戦の中、このスキルを使って隙を突けば、確実に殺れる自信があったのである。


だが、リューの背後からそっと近づき、剣で刺そうとした瞬間、ペンという音とともにヤッチマは吹き飛ばされてしまう。ギルドの訓練場でサムを弾き飛ばした竜尾撃ドラゴンテイルである。


リューは盗賊達に囲まれた時、既に竜感覚ドラゴンセンスを展開していた。当然、背後から忍び寄ってきていたヤッチマの存在もリューは察知していたのである。


見えない巨大なドラゴンの尻尾の一閃を受け、吹き飛ばされたヤッチマは、街道の脇の木々を何本か薙ぎ倒した後、大きな岩に激突して止まった。


リューはヤッチマに近づいていく。


ヤッチマ 「グッ…リュージーン…」


リューを見て臨戦態勢を取ろうとするヤッチマだったが、打ちどころが悪かったか、呻き声を上げるだけで立ち上がる事ができなかった。


リューは呻いているヤッチマの顎をさらに蹴り上げてやった。



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


ヤッチマ 「くっころ」


リュー 「簡単には殺さん」


乞うご期待!





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