第291話 障らぬ神に祟りなし。余計な事はするなよ?

リュー 「ところで、この子達の故郷の村は、サビレタ村というところらしいのだが、それがどこにあるか知らないか?」


宰相 「たしか、アレスコード子爵領の山奥にそのような村があったと記憶しております」


ドロテア 「確かアレスコード子爵領は、グリンガル侯爵領の隣だったな」


王 「グリンガル侯爵か……」


リュー 「その侯爵が、どうかしたのか?」


ドロテア 「グリンガル侯爵は反王派、戦争推進派の旗手と目される人物なのだ。アレスコード子爵はエド王に協力的な子爵だが、そのせいでグリンガル侯爵に嫌がらせを受け苦しい状況に追い込まれていると聞いている」


王 「宰相、リューに地図を見せてサビレタ村の場所を教えてやれ」


宰相 「では、こちらに……」


部屋を移動し、ガレリア魔法王国の地図を見せてもらったリューは、神眼を発動して村の位置を確認したので、さっそく子供達を故郷の村に転移で送り届ける事にした。親も心配しているだろうし、子供達も早く親の元に帰りたいだろうという配慮である。


その旨を王達に伝えたリューはそのまま移動しようとしたが、ドロテアが慌ててそれを呼び止め、一緒に連れて行って欲しいと言い出した。アレスコード子爵領の視察がしたいと言う。


ガーメリア 「わ、私も!」


リュー 「え~~~ガーメリアぁ~?」


ガーメリア 「私も責任があります、ちゃんと子供達を親元に届けるまで見届けたいのです」


リュー 「まるで俺が信用できないみたいな言い草だな?」


ガーメリア 「そういうわけでは……」


ドロテア 「そうだな、ガーメリアは外の世界を見る必要があるかも知れないな。リューさえ良ければ同行させてもらえないか?」


リュー 「俺はガーメリアは信用していないんだが」


ドロテア 「そう言わないでくれ、根は悪い奴じゃないのだ。何か問題があったら遠慮なく絞めてくれていい。目に余るようなら殺しても構わない」


ガーメリア 「お母様!」


ドロテア 「公の場ではそう呼ぶなと言っただろう?」


ガーメリア 「す、申し訳有りません、ドロテア先生」


リュー 「娘だったのか」


ガーメリア 「…義理の母だ、血の繋がりはない、私は本当の娘では…ないんだ……」


ドロテア 「赤ん坊の頃、捨てられていたこの子を引き取って育てたのだ。素晴らしい魔法の才能があったのだが……我儘なのは、私が甘やかしてしまったからだろう、申し訳ないと思っている」


王 「いや、ガーメリアは普段はとても優秀だ、仕事も早いし確実だ。だが、ドロテアが関わる事になると、急にポンコツになるのだよ。私は……逆だろうと見ている」


ドロテア 「? 逆とは?」


王 「ガーメリアは、自分が捨て子だったから、ドロテアに愛されていないのではないかと不安になって、わざと失敗して気を引こうとしてしまう、そんな風に見えてな……」


ガーメリア 「お、王様、そんなわけ……」


王 「おそらく、ガーメリアは母の愛に飢えているのだよ。私も赤子の時から見ているが――――ああ、私とドロテアは昔一緒に冒険者をしていたのだがね――――ドロテアは、娘だからと言って甘やかさないように人一倍厳しくしていた。それは理解できるのだが、それが逆効果だったのではないかと思ってな」


ドロテア 「ガーメリア……」


ガーメリア 「お母様……」


リュー 「ああ、家庭の事情は色々あるだろうが、早く子供達を送ってやりたいんで、俺達だけで行くぞ?」


ドロテア 「ああ、スマン、待ってくれ! 一緒に連れて行ってくれ!」


王 「スマン、送ってもらうための報酬は払おう、頼めるか? 魔力は足りるか?」


リュー 「別に、俺には魔力は全く問題にならないがな」


ガーメリアについてはリューもまだ渋々といった態度ではあったが、殺してもいいとまで言われて断れず、結局二人共連れて行く事になった。転移を発動し、ドロテア・ガーメリアと子供達と共に消えて行く。


足元に魔法陣が浮かび、そのまま姿が薄くなって消えてしまう様子を見送った王と宰相はしばらく絶句していた。


宰相 「……ほ、本当に、転移なのか……? 信じられん、個人で転移魔法を扱うなど、できるわけが……」


実は王城の中に転移装置があるのだが、巨大な装置であり、また膨大な魔力を必要とするため、魔道士を何百人も集めて、何ヶ月も魔力を貯めなければ発動できないような代物なのだ。もちろん、エド王になってから使ったことはない。


王 「話には聞いていたが……本当に天災級だな。敵に回す事だけはしたくないな」


宰相 「本当に大丈夫なのでしょうか? あのような者を自由にさせて……


…私は反対です!」


王 「だが、現実問題として、どうにかできる相手でもないだろう? 転移で自由に移動するような者だぞ? 捕らえておくことなどできはしない。ドロテアの絶対障壁もあっさり破られたという話だ。おそらく、軍を当てても勝てる相手ではなかろう」


宰相 「そんな者がもし反旗を翻したら……」


王 「 “天災” を制御する事などできないさ。ドロテアは|神祟級かもしれないと言っていたが、確かにそうかもしれん。


だが幸いにも、あの者は権力を求める志向はないし、民の味方だと言っている、無法者というわけではなさそうだ。まぁ信じるしか……いや、祈るしかあるまい?」


宰相 「……上手く利用してやろうというわけですな。その間に、気付かれないように監視して、弱点を探らせるようにしましょう」


王 「いや、利用しようなどと思うのは危険だぞ。余計な事は考えるな。『障らぬ神に祟りなし』がおそらく正しい対応だよ……」


宰相 「……監視は必要かと」


王としても、リューの動向・情報は知っておきたい。完全に見失ってしまうのは危険過ぎる存在であるのは否めない。だからこそドロテア達を一緒に行かせたのであった。


王 「……報告は随時あげさせよ。保護目的だ、余計な事はするなよ?」



  ***  *  ***



一瞬にして周囲の景色が変わる体験にドロテアは感動していた。


ドロテア 「おお、これが転移か……体験したのは初めてだが、凄いものだな。 リュー、私にも転移魔法を教えてくれないか? 教われば私にも使えるようになるか?」


リュー 「やめておけ。時空魔法にはとんでもなく膨大な魔力が必要になる。無理に使おうとすると魔力が一瞬で枯渇して死に至るケースもあるらしいぞ?」


ドロテア 「やはりそうか……。だが、リューはなぜ大丈夫なんだ?」


リュー 「それは秘密だ」


ドロテア 「そ、そうか…そりゃそうだな、そんな重要な秘密を簡単に教えてくれるわけがないよな……」


ガーメリア 「あそこに村が見える、あれが子供達の村じゃないか?」


リュー 「どうだ? レスター、アネット?」


アネット 「…あのお山、見覚えがあるよ!」


レスター 「見覚えはあるけど……あれは僕たちが居た村じゃないよ……」



― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―


次回予告


サビレタ村


乞うご期待!


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