第292話 サビレタ村

リュー 「地図では、この辺りに村があるのはここだけだったのだがな」


※神眼で見ても生きている人間がいるのはこの付近ではこの村だけであったのだ。


リュー 「村が模様替えしたとか? とりあえず、村の者に聞いてみよう。その前に…」


ヴェラに通信用魔道具で連絡を入れ、レスターとアネットを両親の村に送り届ける途中である事を伝えた。


ヴェラはレスターとアネットに挨拶できずにお別れになってしまう事を残念がっていたが、二人共早く帰りたいだろうし、いつでも転移で会いにいけるとリューが言うと納得してくれたのだった。


その後、村に近づき門番に話かけてみる。


門番 「ようこそ、旅の人かい? ここは “トナリ村” だよ。え? サビレタ村を知らないかって? サビレタ村ならこの道の先、峠を越えたところにあった村だな。だが……、数ヶ月前に盗賊団に襲われてな、いまは誰も住んでないぞ?」


レスター 「そんな……」


アネット 「……レスにぃ、おとう、おかあにはもう会えないの?」


ドロテアが思わずレスターとアネットを抱き寄せた。ガーメリアが門番に詰め寄る。


ガーメリア 「おい、本当なのか、その話は?! 適当な事を言ってるなら承知しないぞ?」


門番 「おいおいなんだ? 別に俺も現地を確認したわけじゃないから知らんよ、聞いた話だ。疑うなら自分で見てきたらいい。歩いても二~三時間ほどで着くはずだ」


それを聞いたレスターが思わず走り出した。アネットもついて行く。慌てて追いかけるドロテア。


リューは転移で3人の前に移動して止めた。


リュー 「走っていくのは時間がかかる、転移で行こう」


そう言うと、リューは峠のある方向をしばらく眺め神眼で場所を確認すると、転移を発動した。


五人の周囲の景色が一瞬で変わる。


そして現れた景色は…


…廃墟となった村であった……


レスター 「そんな……おとう、おかあ……」


アネットが走り出した。村の門も塀も倒れてしまっているが、朽ちかけた門の脇の隙間を通り抜け、アネットが村の中に入っていった。レスターも後を追う。ドロテアとリュー、ガーメリアも続いて村に入ってみる。


トナリ村の門番は、サビレタ村は盗賊に襲われたと言っていたが、その際に火を放たれたのか、村のほとんどの家は焼け焦げ崩れ落ちていた。


アネットがある家の前で立ち止まった。おそらくレスターとアネットの家だったのだろうが、家は崩れて燃え尽き炭となった柱が何本か残っているだけであった。


レスターとアネットが攫われたのはその襲撃の時なのだろうか。





アネットが、家の前の汚れた布の前に膝をついて泣き始めた。


アネット 「これ、おかあだ……」


よく見ると、それは人間の死体であった。中身は白骨化しかけているが、服装から、アネットは自分の母である事が分かったのだ……


レスター 「こっちはおとうだ……」


もう1人、少し離れた場所で別の死体の前で座り込んだレスター。


二人の親は必死で取り返そうとしたのだろうが、抵抗虚しく殺されてしまったのだろう。


やがて二人は声を上げて泣き始めた。


ドロテアとガーメリアも口に手を当て嗚咽を漏らしている。ドロテアはアネットに駆け寄り抱きしめる。ドロテアの腕の中で泣き続けるアネット。ガーメリアもレスターの肩を抱いた。妹を守るためであろう、ずっと気丈であったレスターだが、声をあげて泣いている。ガーメリアも思わずレスターを抱きしめていた。


リューも、目の端に涙を溜めながら、どうしたら良いのか分からず、ただ見守るしかなかったのであった。


ひとしきり泣いた後、二人が落ち着いて来たところでガーメリアが言った。


ガーメリア 「ご両親のお墓を作ってあげないとな……」


頷く子供達二人。


リューは家のあった場所に土属性の魔法で人がすっぽり入る大きさの四角い穴をふたつ作ってやる。両親の遺体をそこに安置し土を掛け、近くの山の中から岩を墓石状に次元斬で切り出し、転移でその上に置いてやった。


墓石はただ置いただけでは倒れてしまうので、土台ごと一体で切り出してある。


二人に両親の名前を聞き、リューは次元斬で墓石に名を刻んでやった。


その墓石の前に、レスターとアネットが村の周囲に咲いていた花を摘んで墓の前に供える。


もう二人の子供は泣いていなかった。


アネット 「アネットが泣いてたら、おとうとおかあは心配で眠れないから……」


レスター 「おとう、おかあ……


…さよなら。


アネットは俺が立派に育ててみせるよ」


その後ろでドロテアとガーメリアが抱き合ってボロボロ泣いている。


リュー 「子供達が泣いてないのに、しっかりしろ……」


ドロテア 「だっで……かわいぞうで」


ガーメリア 「お前だって泣いてるじゃないか」


リュー 「この世界、みなしごになる子供なんて掃いて捨てるほど居る。強く生きて行くしかないさ。


…そうだろう、ガーメリア?」


ガーメリアは、ただ黙って頷いた。


自身が孤児であるガーメリアには、色々と言葉にならない思いもあるはずだろう。



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


ガーメリア 「私が二人を育てる!」


リュー 「大丈夫か???」


乞うご期待!


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