第293話 トナリ村の教会に住めばいいじゃない

リュー 「二人とも、強く生きていくんだぞ。おとうとおかあを心配させないようにな……」


頷くレスター、涙を堪えているアネット。


リュー 「さて、どうするか。まだ二人は小さいし、孤児院で引き取ってもらう事になるだろうか? トナリ村には孤児院があるか尋ねて見るか…」


非情なようだが、この世界では孤児になるなどよくある事。強くなってもらわなければならない。


ドロテア 「いや、私が王都に連れて行こう。そこできちんと二人に教育を受けさせる。ガーメリアを拾った後、私は王都の孤児院をずっと支援してきたんだ。この国には戦災孤児がたくさん居るからな。キチンと教育を受けさせる体制も作った。一般家庭より良い教育を受けて、国の仕事に就いている者も多いんだよ」


リュー 「なるほど……。しかし、子供達はできれば両親の墓に近い場所のほうが良いんじゃないか? 二人はどうしたい?」


レスター 「…僕たちはどこにもいきません。りょうしんがいるこの村から離れたくありません」


リュー 「だが、この廃村ではさすがに生活はできない。せめて、トナリ村で生活したらどうだ? それなら、いつでもここまで歩いて来られるから良いだろう?」


レスターは黙って頷いた。


リュー 「では、トナリ村で二人が生活できるように考えよう」


ドロテア 「もし孤児院がなかったら……幼い子供二人でトナリ村で生活するのは難しいんじゃないか?」


リュー 「俺がなんとかす……」


ガーメリア 「私が!」


ガーメリアが口を挟んできた。


ガーメリア 「子供達は私が引き取って育てる!」


ドロテア 「ガーメリア?」


ガーメリア 「二人がトナリ村に住みたいというのなら、私がトナリ村で二人を育てる」


ドロテア 「お前は宮廷魔道士としての職務があるだろう、トナリ村に住む事は許可できない」


ガーメリア 「宮廷魔道士は辞めます。私も捨て子だったから、この子達を見捨てられない」


ドロテア 「魔道士四天王としてお前は大きな戦力なのだ。今、エドワード王には大事な時期だ。王を、お前は見捨てるのか?」


ガーメリア 「それは……でも……」


私は物心つく前にお母様の子供になったから幸せだったけど、この子達は、これから親もない状態で生きて行かなければならないなんて、かわいそうで……」


ドロテア 「……だが、外に出て、子育てとかしてみるのも、良い経験になるかも知れないな……


お前の仕事の代わりは私が務めよう。仕方ない、これも親の責任だな!


本当は、私はお前達に仕事を任せて引退するつもりだったんだがなぁ……」


ガーメリア 「お母様!」


リュー 「いやちょっと待て。なんか勝手にガーメリアに親代わりをさせる話になってるけど、ガーメリアじゃイマイチ不安だろ、本人達も断るんじゃないか?」


ガーメリア 「な、何を言う。なぁ、レスター、アネット? お姉ちゃんと一緒に暮らしたいよな?」


アネットは話がよく分からないのだろうか、不思議そうな顔で首を傾げていたが、レスターは、不安げな複雑な表情をしている。


ドロテア 「……まずは、子供達の信頼を取り戻すところから始める必要があるようだな……」


ガーメリア 「そんな……」


がっくり項垂れるガーメリアだったが、その後、信頼を得られるよう頑張るとか呟いていたので、諦めてはいないようであった。



   **  *  **



一行は転移で再びトナリ村に戻ってきた。


門番 「よう、旅の御一行サン、見てきたんか」


ガーメリア 「先程は済まなかったな、確かに村は焼け落ちて廃村となっていた」


リュー 「ところで、サビレタ村の生き残りは1人も居なかったのか? 誰か、生き延びてこの村に移住してる者とか……」


門番 「いやぁ、聞かねぇなぁ。たまに、村に行商に行ってた商人は居るが、あの村に住んでたわけじゃねえしな……」


リュー 「そうか……。


ところで、この村には孤児院はあるか?」


門番 「孤児院? そんなもんはねぇなぁ」


ドロテア 「教会はないか? たいてい、教会が親を亡くした子供を預かっていたりするものだが」


門番 「教会はあるにはあるけどよ、今は誰も居ねぇよ? 以前は神父さんが居たんだども、高齢で亡くなっちまってなぁ、それ以来、空き家になってる」


とりあえず、空き家になっているという教会へ案内してもらった。そこに住んでもいいかと尋ねたら、一応教会なので、聖職者の人間が住むなら構わないらしい。そうでない者だけで住みつくのはやはり困るという。


リュー 「1人、シスターに心当たりがある。彼女にここに住んで貰って、レスターとアネットの面倒を見てもらえば良いだろう。そうと決まったら一度ダヤンの街に戻るぞ。ドロテアとはここでお別れだな」


ドロテア 「……へ?」


リュー 「確かここの領主、アレスコード子爵に用があるとか言ってなかったか?」


ドロテア 「あ、ああ、そうだな。だが、ここからアレスコードの領都まではかなりの距離があるし、ああ、そう、ダヤンの街も見てみたいんだ」


実はアレスコード子爵領の視察は口実で(嘘というわけではないが)、ドロテアは王からリューの動きを監視するためにできれば同行するように命じられていた。


リュー 「護衛など、ドロテアとガーメリアなら要らんだろう?」


ドロテア 「まぁ、そうなんだがな。だが、ダヤンの街も問題が色々あったしな、見てみたい。一緒に連れて行ってくれないか?」


リュー 「ガーメリアも?」


ガーメリア 「わ、私だけ置いていく気か?!」


リュー 「冗談だよ。では」


と言ってる間に、もう周囲の景色は変わり、もう五人はダヤンの街に着いていたのであった。


ドロテア 「何度体験しても凄いな……リューの能力は。あまりにも神がかっている……世界が変わってしまうな」



  * * * * *



結局、朝、街を出たリューは、その日が終わらないうちにダヤンの街に戻ってきたのであった。レスター・アネットも一緒に戻ったので、ヴェラは再会を喜んでいた。


ドロテアとガーメリアもリューの小屋に泊まる事になり、夕食の時間。何故か、宴席にランスロットも参加していた。


スケルトンは飲食などできないのだが、どうやら会話だけでも参加したいらしい。本当にお喋りなスケルトンである。


ドロテアもお喋りなスケルトンに最初は驚いていたが、ここぞとばかりランスロットにリューについて根掘り葉掘り訊き始め、ペラペラとランスロットも喋ってしまうので、リューはあまり余計な事は言うなと釘を差さなければならなかった。


食事については、リューが亜空間に収納していた料理を振る舞っているわけだが、それもそろそろ在庫が少なくなってきた。今度、時間のある時にまた仕入れておかなければならないだろう。


小屋で使っている温泉の湯も、半分以下になっているようなので補充に行かなければならない。


そう言えば、報酬をくれると王は言っていたが、それも受け取っていない事を思い出す。後で集金に行く必要がある。しかし、明日は別の予定がある。リューもなかなか忙しい身となったものである。


ちなみに、レスターとアネットは、モリーに頼めないかとリューは考えていた。モリーは奴隷に落とされる前の職業はシスターだったのだ。シスターとしてトナリ村の教会に住んでもらえばいい。ガーメリアに任せるのではとても不安だが、モリーなら大丈夫だろう、子供達も懐いている。


もしガーメリアがどうしても子供達を育てるというのなら止めはしないが、モリーについていて貰えば安心である。


それにそもそも、ガーメリアは王宮での仕事もある、本当にレスター達の世話ができるのかもあやしい。仕事は辞めると言ってるが、そう簡単に行くものか……まぁよく話し合って決めてくれればいい。


もちろんリューはモリーの意志は尊重するつもりであるが。最悪の場合(もし断られたら)リューとヴェラがトナリ村に家を建てて住み込んでしまえばいいだろうと考えていた。


片田舎の村でのんびり過ごすのも意外と悪くないアイデアに思えた。


ただ、モリーに頼むにしても、まず、明日は奴隷商に行く必要がある。モリーは未だ犯罪奴隷のままなのである。



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


リュー 「抜き打ち検査だ。もし違法奴隷が “商品” の中に居たなら、お前も犯罪奴隷だぞ?」


奴隷商 「そんなぁ!」


乞うご期待!



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