第294話 抜き打ち検査に奴隷商焦る

翌朝、リュー達は全員揃って街に入った。


※リューの小屋は城門の脇、少し離れたところに出してある。


すぐ戻る予定なので、そのまま収納せずに出しっぱなしであるが、スケルトン兵に警備を頼んでおいたので問題ない。(スケルトンが居なくともリューが次元障壁で囲ってしまえば良いのだが、それをするとリューが居ないと誰も入れなくなってしまうし、そもそもそれなら収納してしまえばよいだけである。スケルトン警備なら許可した人間はリューが不在でも小屋に出入りできるわけである。)


リューもそろそろこの街から離れたいのであるが、王都からの応援部隊が到着するまでは、スケルトン軍団に街の警備業務をさせているため、出発できない。


軍団レギオンのスケルトン兵は高度な知能を持っているため、任せてしまっても運用に問題はないのだが……どうしても責任者が不在というわけには行かないのであった。


指揮官ならランスロットを置いておけばいいのだが、ランスロットは魔物である、特にこの街ではスケルトンの冒険者として登録しようとして、正体を晒してしまっている。いくら言葉が通じるとは言え、やはり魔物が責任者で人間が居ないのは人間達も不安になるらしい。ヴェラに頼んでもよいのだが、仕方ない事情で短期間というならまだしも、ヴェラに雑用を任せきりでリューだけ先にどんどん進むというのもパーティとして本末転倒である。


そもそも、ランスロット達も冒険者登録をしてパーティを組んでしまったのだ。彼らを置いてリューが一人で旅をするわけにもいかない。


結局、リューも王都からの援軍が到着してくれないと出発できないのであった。


リュー・ヴェラ・モリー・レスター・アネット、ドロテア・ガーメリア、それにランスロットの八人でゾロゾロと城門を通過する。


つい数日前には門番の警備兵とトラブルになったが、今は何の問題もなく顔パスである。入場税も無料である、なにせ、全身鎧の門番の中身はランスロットの部下のスケルトンなのだから。


そしてリュー達は奴隷商ベルトの店にやってきた。


ベルト 「え、ドロテア様? あの宮廷魔道士長の、英雄ドロテア様?! ドロテア様に来て頂けるとは、大変光栄でございます」


ガーメリア 「私もいるぞ」


ベルト 「おお、こちらは宮廷魔道士四天王と言われるガーメリア様ですな? お越し頂き光栄でございます」


リュー 「ふん、光栄だなどと言ってられるのか? 俺達は奴隷商の抜き打ち検査にやってきたのだぞ?」


ベルト 「えっ?!」


リュー 「お前が言ってたんだろう?


『法律が悪い』

『そんな法律にしているのは王が悪い』

『文句があるなら王に言え』


とな。


だから昨日、王に文句を言ってきた」


ベルト 「何を、お戯れをおっしゃいますなぁ。王都まで、ダヤンの街から馬車で五日ほど掛かるはずですが……いや、そうか、通信用魔道具を使ったのですね? お客様、リュージーン様も人が悪い……王様とコネがあるならそう言って下さいよ~」


リュー 「直接会ってきたんだが、まぁその辺はどうでもいい。王に話をしたところ、即決で法律を変えてくれたぞ? 今後は奴隷の売買時には違法奴隷でない事を鑑定で確認する事が義務付けられる事になった」


ベルト 「えええええマジですかぁ?」


地球ならば法律の変更は交付から実際に効力を発揮するまで一定の猶予期間が設けられるものだが、この世界では王の一声で法律は変更され、その場その瞬間から有効になるのである。


リュー 「そしてさらに。俺はこの国の公認鑑定士として認定された。奴隷商を監査し取り締まる権限付きでな」


ベルト 「そ、そんな……本当の話なんですか?」


リュー 「俺の言葉だけでは信用できんか。だが、ちょうど宮廷魔道士長のドロテアが居る、彼女が本当の話だと証言してくるだろう」


ドロテア 「ああ、すべて本当の事だ。国中で、違法奴隷の取締が強化される事になった。さすがに時間は掛かるだろうが、全国で随時、調査官が入って検査を行われる。ここはその栄え有る抜き打ち検査第一号というわけだ。もし違法奴隷が“商品”の中に居たなら重罪だぞ?」


ベルト 「ひっ、そんなぁ~法律が変わったのが昨日で今日抜き打ち監査なんて! 対応できるわけないじゃないですか!」


リュー 「この世界の法律がそうなっているのだから仕方ないな。お前が自分で言っただろう? 『法律が悪い。文句は王に言え』とな」


ガーメリア 「別に、違法奴隷を扱っていなければ何も問題ないだろうに……まさか?」


ベルト 「そ、意図的に違法奴隷を扱った覚えはありませんよ! ただ、これまで義務がなかったのですから、チェックしていませんから、中には違法奴隷が混ざっている可能性も……」


リュー 「もし居たら残念だが、お前も奴隷落ちだな」


ベルト 「そんなぁ……」


ヴェラ 「意地悪ね、脅かし過ぎじゃない?」


リュー 「昨日のこいつの言い分が随分だったのでな。まぁ、もういいか」


ベルト 「へ?」


リュー 「仮に今日の監査で違法奴隷が見つかったとしても罰せられる事はない。法律変更の通達を受けてから三日間は猶予期間をくれるとさ」


ポカンと口を開けてドロテアの顔を見るベルト。


ドロテア 「はは、いや、スマン。リューに黙っててくれと頼まれてな。その通りだ、三日の内にすべての違法奴隷を解放すれば罰せられる事はない。ただし!」


ベルト 「?」


ドロテア 「悪質なケースはその限りではない。知らずに扱っていたなら仕方ないが、故意に違法奴隷を知らないフリをして扱っていたような者は、その場で逮捕する」


ベルト 「そ、それって、どうやって……判断するんですかね? 知らなかったって言い張られたら逃げられるのでは?」


ガーメリア 「その辺は総合的に状況を判断する事になる。違法奴隷が大量に常習的に扱われていたような業者は、知りませんでしたでは済まんということだ」


ベルト 「たまたま、扱っていた奴隷に違法奴隷が多かったら……」


リュー 「アウトだな。さて、ここにはどれくらい違法奴隷が居るのかな……?」



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


モリー解放


乞うご期待!


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