第295話 これは酷い、悪質な事例だな?
ベルト 「そんな! 私は故意に違法奴隷を扱ったりはしていませんよ! 善良な商売を心がけてきました、信じて下さい!」
ドロテア 「慌てなくていい。単純に数だけで判断するわけではない。善良な商売をしていた事が分かれば、多少多めに違法奴隷が混ざっていたとしても許されるだろう。もちろん、ちゃんと違法奴隷を解放する必要はあるが」
リュー 「だが、急ぐ事だ…三日以内だぞ? キチンと判定できる鑑定士を呼んで判定しなければならない。もしいい加減な鑑定士を使って、後で違法奴隷が発覚した場合は重罪だぞ、問答無用で死刑もしくは犯罪奴隷落ちだ」
ベルト 「そっ、直ちに対応致します! もう今日は店は閉めますから、どうかお帰り下さいっ!」
リュー 「そうはいかんよ、抜き打ち検査だって言っただろう? それに、鑑定士はなんとか用意できても、奴隷を解放できる技術者がつかまらないんじゃないのか? 技術者を呼ぶのに何日か掛かるとか言ってたよな? 他の街の奴隷商も今頃慌てて奴隷の鑑定と解放に走ってるはずだからな、余計に手配が難しくなってるんじゃないか?」
ベルト 「あ……それは確かに、それじゃぁ間に合わない可能性がありますね……
…もし間に合わなければ!?」
リュー 「奴隷落ちだな」
ベルト 「そんな!」
リュー 「だが安心しろ、俺は公認鑑定士である。知っての通り、俺には奴隷を解放する能力がある。その権限も王に許可を貰ってある」
ベルト 「そっ、それでは、リュージーン様が鑑定して下さるので?」
リュー 「鑑定料金は貰うがな。相場がいくらか知らんので金額は任せるが……後で適正でない金額だと分かった時は、詐欺として訴えるからちゃんとしておけよ?」
ベルト 「それはもちろん! 色を着けてお支払い致しますので、是非、お願いします!」
リュー 「色はつけなくていい、賄賂みたいじゃないか」
本当は、抜き打ち検査ならば鑑定料は無料のはずなのだが。(その代わり鑑定を拒否できないが。)実はそもそも、まだ猶予期間中であるので、極度に悪質なケース以外は裁く事はできないのだ。つまり抜き打ち検査と言ったのはただの意地悪で、リューが奴隷商を
猶予期間を過ぎてから検査に踏み込めばよかったのだろうが、リューもそこまで暇ではないし、モリーの件を早く処理したかったのである。
それに、明らかに悪質な業者だと分かっていれば別だが、以前、リューは神眼で心を覗いたので、ベルトが小物だという事は分かっていた。殺されたほうがいいクズ……と言うほど悪質とは言えなかったのだ。(と言っても善良な人間とも言い難いが。)
法に従い、商売に精を出しているだけ、たまに貴族に厄介モノを押し付けられても断れない、ただの小物の商売人なのだ。違法奴隷を鑑定せずに取り引きしていたのも、法によって許されているからということで、それほど悪いことをしているという自覚はなかったようである。
リュー 「なぁ、ベルトさんよ?」
ベルト 「?」
リュー 「法律さえ犯さなければ、人生はそれで良いと思っているな?」
ベルト 「ええ、そりゃあそうでしょう、法律に反する事はしない、それが私の心情でして」
リュー 「だがな、人は法律以前に、守らなければいけないモノがあるんだよ。それは倫理・道徳上のルールというやつだ」
ベルト 「……」
リュー 「たとえ法律上はセーフでも、道徳的にアウトなら、それは人の道としてはアウトなんだ。分かるか……?」
ベルト 「……そのように考えたことはありませんでした。奴隷を扱うような商売ですから、どこか後ろ暗いところはありますので……どうも、そういう事は気にしないようにしていた、と思いますな……」
リュー 「後ろ指を刺されやすい商売だからこそ、道義に反する事はしないほうがいい、そうは思わないか?」
ベルト 「……」
リュー 「今後は法律だけでなく、道義上正しいかどうかも考えるようにするといい」
ベルト 「……分かりました。今後はそのように考えるようにしてみようと思います」
結局、通常の検査と同じ扱いとする事にしたリュー。鑑定士・技士を呼んでくる手間がはぶけるのだから、ある意味大サービスである。
リューは早速、在庫の奴隷達を見せてもらい、鑑定をしてみた。
奴隷が待機している部屋は特に鍵も掛けられていない。そもそも奴隷は隷属の首輪で行動を縛られているので、牢などに入れて置く必要はないのだそうだ。
では何故レスターとアネットは牢に居たかというと、隷属の魔法を使える技術者がすぐに手配できず、主人の仮登録ができなかったためらしい。またモリーが牢に入れられていたのは、部屋がいっぱいだっただけだという。通常の奴隷よりも犯罪奴隷のほうがより劣悪な環境に入られるのは仕方がないらしい。
そして鑑定の結果……三分の一ほどが違法奴隷である事が判明したのであった。
リュー 「これは酷いな……悪質な事例と言えるんじゃないか?」
実はリューが予想していたのより少なかったのだが、リューは意地悪な事を言う。
ベルト 「そんな! 知らなかったんです! 本当です! 付き合いのある隣町の貴族に無理やり押し付けられた者もありましたし」
リュー 「冗談だ」
ベルト 「ほ」
ドロテア 「隣町の貴族の話については、じっくり聞かせてもらおうか?」
とりあえず、違法奴隷と判明した者はその場でリューが隷属の首輪を分解・破壊して解放してやった。
ベルト 「なんてこったぁ……購入、いや押し付けられたんですがね、本当ですよ! その時に結構高い金を払わせられたのに……これじゃぁ大損だ」
リュー 「自業自得だな。購入時にキチンと確認しなかったお前が悪い」
ベルト 「貴族様に押し付けられたら、違法奴隷かどうか確認させてくれなんて言えませんて……」
リュー 「どっちにしろ、鑑定する気はなかったくせに。『知らなかった』で済むって言ってたよな?」
ベルト 「う、それは……ほ、法律で決まっていた事ですから。今後も法律を守って……今後はきっちり鑑定して違法奴隷は扱いませんし、道徳的に外れていないかもちゃんと考えますから! どうかもう勘弁して下さいよ~
(解放された奴隷たちに向かって)さぁお前たちも! 解放されたならどこへなりと行くがいい!」
リュー 「おい、何を言ってる? 違法奴隷と判明した者達は、責任を持ってお前が元の家に送り届けるんだよ」
ベルト 「へ? 解放すればよいのではないんですか?」
ガーメリア 「いきなり放り出されて元奴隷はどうやって家に帰ればいいんだ?」
ベルト 「それは……
…国が面倒を見てくれるとか……?」
ドロテア 「何を言ってる、これは違法奴隷を扱っていた奴隷商の責任だ。本当なら逮捕され処罰されて当然なのだぞ? 奴隷商がキチンと最後まで面倒を見るのは当然の事だろう」
ベルト 「そ、そういう事になりますよねぇ~」
がっくり項垂れるベルト。
本当なら、法律の整備がいい加減だった国にも責任が有ると思うのだが。後で、ちゃんとサポートするように言っておく必要があるとリューは思ったが、今はとりあえず……
リュー 「言っとくが、解放された者達は、キチンと人間らしい処遇をしろよ? 彼らはもう奴隷じゃないんだ」
ドロテア 「解放奴隷にはちゃんと人間らしい処遇をする事。まともな服と食事と住処を与え、一刻も早く家に帰れるようにしてやれ。
帰る場所が既に
ベルト 「……はい……」
リュー 「あ、それから、違法に奴隷にされていた者達に損害賠償を支払えよ?」
ベルト 「え?!」
ドロテア 「うむ、当然だな。違法に奴隷にされて人生を台無しにされたのだ。奴隷にされていた期間によって金額は変わる。金額の表は後ほど国から配布されるから、それに従って賠償金を支払え。言っておくが、払わなければ今度は自分が犯罪奴隷に落ちる事になるからな?」
リュー 「特別に、俺が買い取って解放した奴隷三人については、俺が面倒を見てやる。サービスだ、優しいだろう?」
ベルト 「なんてことだ……」
膝を着きがっくり項垂れるベルト。
ドロテア 「違法である可能性があると分かっていながら、違法奴隷を流通させていたのだ、知らなかったと言い訳しても責任は重い。罰せられないだけ良かったと思うのだな」
リュー 「ああ、それともう一つ、今日来たのはこちらが本題なんだが……」
ベルト 「まだあるんですかぁぁぁぁぁ!? しかもそっちが本題って、一体何なんですか?」
リュー 「一昨日買い取った犯罪奴隷のモリーだが、冤罪なので解放したぞ」
ベルト 「へ? いや、犯罪奴隷は解放はできないはずでは……?」
リュー 「冤罪が確定して裁判の結果が覆ったのなら、当然解放されるに決まっているだろ。王の許可は既にもらっている。言っただろう? 俺の鑑定は国が公式に正しいと認める事となったのだ。違法な裁判の結果もひっくり返せるってわけだ。
お前にやってもらいたいのは、奴隷ギルドのデータベースに記録されているモリーの犯罪奴隷の記録を抹消してもらう事だ」
ベルトがドロテアの顔を見ると、ドロテアも頷いて見せた。それを見てベルトは素直に魔導端末に向かいデータ消去の手続きを行ったのであった。
ただ、これについては奴隷ギルド本部も報告する必要があるため、すぐにとは行かないが、数日中には反映されると言う事であった。
これで、晴れてモリーも犯罪者ではなくなったわけである。
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次回予告
ホネホネ団誕生
乞うご期待!
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