第593話 ゲートを抜ければそこは…
カルル 「実は、私の妻が病に臥せっておりまして…」
夫人の容態について詳細な話を聞いたヴェラ。
アレスコード婦人は、時折、気絶するほどの激しい腹痛に襲われるという事であった。
治癒魔法を掛けると腹痛は和らぎ、なんでもなくなる時もあるのだが、またしばらくすると、突然激痛に襲われるのだそうだ。
カルルは、妻をこの村に来させるので診てやってほしいと言った。治療師を同行させればこの村までの移動も可能だろうと言うのだ。
だが、その話を聞いたヴェラは、すぐにアレスコードの屋敷に向かうと言った。
診てみないとなんとも言えないが、ヴェラは日本に居た頃の知識から、おそらく、婦人は子宮や卵巣に関する婦人科系の病気であろうと推察した。
実は地球時代、ヴェラ(日本での名は愛美)も子宮内膜症を患った事があったのだ。激しい痛みに動けなくなり、結局、看護師として勤めていた病院に患者として入院し、手術してもらう羽目になったのだ。
本当は別の病院で治療を受けたかったのだが……。同僚の看護師はともかくとして、男性の上司(医者)に身体を診られ治療されるのは屈辱であった。だが、病院内で倒れてしまったため、有無を言わさずで、転院など言い出せなかったのだ。以前から腹痛はあったので、もっと早くに別の病院で診てもらえば良かったと思ったが後の祭りである。
しかも…愛美は入院患者なのに、人手が足りないと仕事を手伝わされたのだ!
さすがに体力の要る仕事はしなかったが、書類仕事など、座ってできる仕事もいくらでもあるもので。さすがに手術直後の一週間はなかったが、それ以外は術前も術後も、なし崩し的に手伝える事は手伝う事になってしまい、ゆっくり休む事もできなかった。
そういうところは病院勤めのツライところである。例えば、仮に風邪や体調不良で休むと言っても、職場が病院で上司が医者となると「診てやるから出てこい」となってしまい、休む事など許されないのだ……。
ヴェラ (入院患者に仕事させるとか…、ほんとに、ふざけんなって感じよね…)
カルル 「…ヴェラ殿?」
思わず嫌な記憶がフラッシュバックして、ヴェラは不機嫌な顔でフリーズしていたいたのだ。
ヴェラ 「は! ああ、いえ、スミマセン、なんでもないです…。夫人の事が心配ですから、いまからすぐに行きましょう!」
まぁ、過去世の話はともあれ、その時の経験から、アレスコード夫人の話を聞いたヴェラは、他人事と思えなかったのだ。
ランスロットに頼んで亜空間を通らせてもらう事にしたヴェラ。いつでも便利に使えるわけではないが、緊急時にはランスロットかリューに頼めば一瞬で移動が可能である。それであれば、離れた街の往診も一瞬である。
ヴェラ 「悪いけどランスロット、お願いできる?」
ランスロット 「喜んで。では皆様、こちらへお入り下さい。入ったら、そのまま数歩まっすぐ進んで頂ければ出口です。あ、出口ゲートを抜けるまで、周囲のものには一切目を向けないほうがよろしいですよ」
ランスロットが部屋の真ん中に亜空間への入り口を開いた。何を言っているのか分からないセルジュが、カルルに促されそのゲートを潜る。続いてカルルとヴェラ、ランスロットが抜ける。
数歩進み、もう一つのゲートを抜ければ、そこはカルルが見慣れた自身の屋敷の庭であった。
カルル 「これは…凄い! 神出鬼没の兵士達は、このようにして移動していたのですな。何度か見たことがありましたが、自分で体験する事ができるとは、貴重な体験ですな…」
実は、クーデター後に何度かあった国境防衛戦で、カルルはランスロットと共に戦った経験があったのだ。(戦ったのはスケルトン兵士で、カルルは案内役・報告役という立場であったが。)
そのため、もちろんカルルはランスロットがスケルトンである事も知っている。スケルトンが将軍になっている時点で、何があってもおかしくはないとカルルも麻痺して開き直っていたが、セルジュは横でパニックを起こしていた。
セルジュは、亜空間を抜ける際に、中に居る
セルジュ 「がっ、がっ、がっ、がっ、がいこつ~ん… すっすっすっすっすけるとおぉぉん~」
壊れてしまったのか、妙な抑揚をつけたセルジュのつぶやきは、まるで歌を歌っているようであった。
そんなセルジュを見てカルルは溜息をつき、そのまま無視してヴェラとランスロットを屋敷の中へ案内した。
余談であるが、セルジュはその後降格され、現執事の下で修行しなおす事となった。
親戚筋からセルジュの面倒を見るよう頼まれたカルルは、なんとかセルジュを一人前にしてやりたいと思っていたのだが…。
その後しばらくはアレスコード家の執事の元で大人しく雑用(修行)していたセルジュであったが、結局、見習いの立場に不満を抱き、自らアレスコード家を飛び出してしまったのであった。
セルジュは、自分は悪くない、自分を上手く使えなかったアレスコードが悪いのだと思い込み、どこかに自分を生かしてくれる主が居るはずとあちらこちらの貴族に仕官しようとした。
だが、辛抱の足りないセルジュはどこへ行っても見習い期間を修了する事ができず…。
その噂が徐々に広まり、どこの貴族家でも下働きとしてすら雇ってもらえなくなってしまう。
落ちぶれていったセルジュの行方はやがて分からなくなってしまったのであった…。
― ― ― ― ― ― ―
次回予告
主治医であるこの私を差し置いて流れ者の治療師に奥様を治療させるなど!
乞うご期待!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます