第595話 これは呪いです

セリヌが休んでいる寝室へ行き、もう一度腹部を診察(鑑定)してみたヴェラ。幸いにも子宮内膜症は再発してはいなかった。だが、何やら邪悪な魔力が腹部に満ちているのを発見する事になる。


すぐにクリーンで邪気を浄化すると、症状は目に見えて改善した。だが、もし邪気に曝されたまま放置していたら、子宮癌や卵巣癌が発生していたかも知れない。もし以前からこのような邪気が注入されていたのだとしたら、子宮内膜症もそれが原因で発生したのかも知れない。


その事実をヴェラはアレスコード辺境伯に伝えた。


カルル 「腹部に邪気…邪悪な魔力か…。その邪気は一体どこから来たのだ…?」


モレム 「邪気など、儂が診察した時にはありませんでしたぞ? まさか、嘘を付いているのではあるまいな?」


もう腹部の邪気はヴェラが浄化してしまったため、それがあった事を証明する事ができない。一度モレム医師に診てもらってから浄化するべきだったと後悔するが後の祭りである。


カルル 「モレム、ヴェラ殿が嘘をついているとは思えん…」


モレム 「…カルル様。何度も言いますが、儂以外の治療師に奥様を診させるのは止めて頂けませんか? 儂が力不足である事は忸怩たる思いではありますが、複数の治療師に治療をさせ競わせるような事をしても、良い結果になるとは限りませんぞ?」


カルル 「競わせるようなつもりはなかったのだが…」


ヴェラ 「…アレスコード様、モレム医師のおっしゃる事ももっともだと思います。二人の医者が同時に異なる治療をするのは、良い事とは言えません。治療に当たる医師は一人に絞ったほうがよろしいかと思います。主治医がいらっしゃるなら、その方にお任せしたほうがよろしいのではないかと…」


モレム 「ほう? 少しは分かっているようじゃな…。


このアレスコード家は代々、我がカーディアス家の者が医師として守ってきたのです。どこの馬の骨とも分からぬ……失礼、外部の治療師など入れず、信じて頂きたかったですな…」


カルル 「…確かに。モレムには子供の頃から世話になってきた。信頼もしている」


その言葉を聞いて顔を明るくするモレム。


カルル 「だが」


モレム 「?」


カルル 「モレムに任せておいた結果、妻のセリヌの病気は良くならず、悪化していく一方であったではないか…。モレムには悪いとは思ったが、妻が苦しむ姿を見ていられなかったのだよ…」


モレム 「それは…。奥様の病気は難しく、時間が掛かるのです。私の治療でも、徐々に良くなっている徴候があったはず。それを、知らぬうちに別の治療師を何人も連れてきて治療させたりしていたそうではないですか。そのせいで悪化したという可能性もあるのではないですか?」


カルル 「……そういう、ものか…?」


ヴェラ 「ありえるとは思います。異なる治療を同時に行っても、それが相乗効果でより良く作用するとは限りませんから。むしろ相反する作用となって、かえって悪化する事もありえるかと。


複数の医者が並行して治療を行って良い結果が出る場合もありますが、それは、それぞれの医師が協力しあえば、ですね」


モレム 「協力というのは、お互いの信頼関係があってこそできる事。突然、知らぬ治療師を連れてこられてどんな治療をしたのかも分からない状態では、信頼関係など…」


アレスコード 「それもそうか…」


『信用できないと言われるなら、我々は退席しましょう』


浮き出るように顕れたのは、神出鬼没のランスロットである。


カルル 「いや、信用できないと言っているわけでは…」


モレム 「! 何者だ!?」


カルル 「ああ、いいんだモレム。この人は私の知り合いだ」


モレム 「どこから入ってきたのだ…?」


カルル 「神出鬼没のランスロット将軍だ、聞いたことがあるだろう?」


モレム 「どこかで聞いたような……将軍? まさか……」


カルル 「そうだ、グリンガル侯爵のクーデターを鎮圧した、ランスロット将軍だよ」


モレム 「……そうですか……」


モレム (コイツが…!)


何故かランスロットを苦々しげに睨みつけるモレム。


そんなモレムをじっと見つめた後、ランスロットが何かをヴェラに耳打ちした。


ヴェラ 「…そう。


…アレスコード辺境伯。邪気がどこから来たのかという話ですが……おそらく奥様に呪いを掛けている者が居るのではないかと思います。思い当たる節はありませんか?」


カルル 「うーむ、領主などしておるからな。恨みを買う事は多々あるだろうからな…」


領内ではそれなりに善政を布いているアレスコードであるが、政というのはどうしても、全ての人に百パーセント満足してもらえるというのは難しいものである。不満を持つ者はどうしても出るし、出世争いによる恨み・妬みも貴族の間では避けられないものなのだ。


カルル 「それに、最近は、急に出世してしまった事もあって、妬みなども多くあるだろう…


それに、呪いを受けているのは妻だ。だが、妻が恨みを買うなど、あまり想像できないのだが…」


ヴェラ 「分かりません。奥様が個人的に恨みを買っているという可能性もありますが……ただ、呪いを掛けるような者は何を考えているか分かりませんから。あえて本人ではなく身内を狙うという事もありえるかと」


アレスコード 「本人ではなく家族を狙うというのは、それはそれで恨みが深そうな話だな…」


モレム 「隣領のヒムクラート子爵ではないですか? カルル様が出世して、かなり悔しがっていたと聞きますからな」



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


ヴェラ 「なんてこと! また邪気が… 私が帰った後、誰か、奥様と接触した者は居ませんか?」


乞うご期待!


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