第212話 牢屋に入れられるのもお約束?

リューとヴェラの旅は順調に進み、三日後には王都に到着した。城門で入場手続きをする。


身分証明書ギルドカードを確認、さらに犯罪履歴がないか、魔道具で調べられる。王都だけあって、なかなかセキュリティが厳重なのであった。


警備兵が用意した水晶玉に手を置くリュー。この水晶玉は、犯罪歴などがあれば光って知らせてくれるようになっているそうだ。何もなければ光らないはずなのだが……リューが手を置いたところ、水晶玉が淡く光ってしまった。


警備兵「これは! 指名手配されているぞ?!」


警備兵の間に緊張が走る。よもや、既に勇者の虚言を信じた国王がリューを使命手配したのであろうか? 強行突破が必要かとリューが僅かに殺気を放ったところで、慌てて警備兵の隊長が駆け寄ってきた。


隊長「ああ、いや、済まない、そう緊張しなくてもいい。この光り方は、要注意というだけだ。犯罪者であるというわけではないんだ。彼はまだ新人でね、よく分かっていないんだよ」


リュー「要注意?」


隊長「ああ、済まないが、事情を詳しく調べるので、ちょっとこちらに来てくれるか?」


リュー「……」


リューとヴェラは隊長に従い、警備隊詰め所の取調室のようなところに案内されたが、隊長は席をはずし、しばらくして戻ってきた。


隊長「お待たせしてすまない、君には王宮から出頭命令が出ているようだね?」


リュー「ああ、それでやってきたんだ」


隊長「そうか、ならばこのまま我々が王城まで案内しよう、ついて来てくれるか」


リュー「まだ滞在する宿も決まっていないんだが?」


隊長「ああ、それもこちらで用意する。悪いな、犯罪者とは違うが、出頭命令が出ている者の場合、無事王宮に出頭させるまでは見届ける必要があるんだ。逮捕とは違うが、あまり自由にさせておくわけにもいかないんだよ。悪く思わんでくれ」


結局リューとヴェラは前後左右を警備兵に囲まれるような形で王城まで“連行”される事になってしまった。


リュー「まぁ、王城まで案内してもらって、取り次いで貰えるんだから良しとするか。自分一人で王城に行っても下手すると取り次いですら貰えない構図が目に浮かぶしな。下手すればそのまま逮捕されて牢屋行きって事もありうる」


ヴェラ「そ、そうね…」


王城に到着し、衛兵達から王城の騎士にリューとヴェラの身柄が引き渡されたが、二人が案内されたのは、窓に鉄格子が嵌っている部屋であった。扉の鍵は外から閉められ、中からは開けられない仕様だ。(ヴェラとリューとは別々の部屋に入れられた。)


リュー「どういう事だ?」


王はお忙しいんだ、謁見の時が来るまで黙ってここで待て。


リュー「この国では王に謁見を求めたものは全員牢に入れて歓迎するシキタリなのか?」


騎士「黙れ、出頭命令って事はなんかやらかしたんだろ? 何をしたのか知らんが、これでも待遇は良いほうなんだ、地下牢に入れられなかっただけ有り難いと思え」


そう言うと、騎士は去っていってしまった。


出頭命令などという上から問答無用の指令を出してくるくらいである、丁重な扱いはされないだろう事は予想はしていたが、さて、どうするか。まずは情報収集か。そう思ったリューは神眼を発動して城の中の様子を探ってみる事にした。


すると、城内の一室にシンドラル伯爵を発見した。リュー達が話を聞いた時点では既に王都に向かっていたそうなので、先に着いているのは当然の事か。


室内には伯爵以外に二人の人物が居た。伯爵の向かいには深刻な顔で資料に目を落としている人物。国王……? いや、服装からしてそうではなさそうである。【鑑定】してみたところ、この国の宰相という事であった。

二人の横には直立不動で冷や汗を流している中年男性が居た。


宰相「いや、正直、ここまで酷いとは思わなかった。国王陛下も頭を抱えておられた…」


伯爵「やはり報告が上がっていなかったのだな?」


伯爵の言葉にジロリと横の中年を睨む宰相。睨まれたオッサンがビクリと怯える。


宰相「オルドに指摘されて大慌ててで調査したところ、報告は全てこのバシマのところで握り潰されておった事が判明した」


オッサンはバシマという名のようだ。


バシマ「わっ、私は良かれと思っ」


宰相「お主は黙っておれ! …このバシマは、勇者教の信者でな、勇者がそのような凶行を行うなど、虚偽報告に違いないと勝手に断じてすべて破棄しておったそうだ」


伯爵「当然ハロルド王もこの事は知らないわけだな。だがレオよ、これだけの問題をずっと放置していたとなると、ハロルドも責任を問われる事になるぞ? どうする?」


宰相「どうもこうもない、遅ればせながらではあるが、厳しく処断し、被害者には補償を出すしかなかろう。


すでに勇者一行は城内に軟禁状態にしてある。あとは王の予定を至急調整して、裁判を開く事となろう」


伯爵「問題は、勇者が大人しく罪を認めるかどうかだな。下手したら暴れだすかも知れん」


宰相「うむ、今までは王の庇護で支援を貰っていたから大人しくしておったが……、この報告書を読めば、開き直れば王にすら手を上げかねん性格のようじゃな。そして困ったことに、勇者が暴れだしたら王城の騎士ではおそらく止められんじゃろう。王はすぐに避難できる準備をしておくとして…


しかし、勇者の逃亡を許してしまい、敵対国家にでも逃げ込まれるの厄介じゃ」


伯爵「あの性格では、逃げ込まれたほうの国でも厄介者扱いになりそうだがな。


だが、幸いにも勇者を抑えられる者が現れた。私が紹介した冒険者が居れば大丈夫だろう。ギルドマスターのからの報告では、その者は既に二度勇者と対戦し二度とも勇者を圧倒しているとか。私も何度か会った事があるが、信頼できる者だ。もう王都についていてもおかしくない頃なのだが…?」


宰相「たしかリュージーンとか申したな、その冒険者は。国王陛下もその冒険者には是非会いたいと申されていた」


バシマ「り、リュージーん?!」


リュージーンの名前を聞いてバシマがしまったという顔を見せた。それにピクッと宰相が反応する。


宰相「なんじゃ、バシマ? お主にはバイマークの冒険者を王城に招聘するよう指示しておいたはずじゃがどうなっておる? まさかそれも握りつぶしたとは言わんじゃろうな?」


バシマ「い、いえ、もちろん手配済みです。リュージーンという冒険者には、その、出頭命令を出してあり……今朝、城門のところで捕らえたので連行してきているハズデス……」


バシマの声はどんどん小さくなって、最後のほうはよく聞き取れないほどであった。


宰相「出頭命令? 連行? 何を言っておるのじゃ???」


バシマをさらに問い詰めたところ、リュージーンについても宰相の指示を誤解・曲解して勝手な指示を出していたらしい。


冒険者が王宮に呼ばれるなど滅多に無い、おそらく何か重大な問題を起こした冒険者が事情聴取されるのだろうと解釈、気を利かせたつもりで、「招聘」と言われたのを「出頭命令」に書き換えて発令したのだ。


宰相「既に城内に居るという事か? どこに居るのじゃ?」


バシマ「はい、その……」


宰相「どうした! ハッキリ言わんか!」


バシマ「は、はい、あの、牢に入れておくように指示しておきましたので、そこに居ルノデハナイカト……」


宰相「バッカモ~ン!!」


リュージーンが王の大事な客人である事を知らされたバシマは、宰相の大激怒に真っ青になって震える事になった。


すぐにリュージーンを牢から出し丁重にもてなすように命じられたバシマは大慌てで牢に走ったが、空っぽの牢を見てさらに悲鳴をあげる事になったのだが。



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


「王様、大変だ! バイマークに魔王が出たんだ!」

「ナンダッテー?!」


という茶番劇……


乞うご期待!



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