第460話 反乱貴族家の末路

エド王は、自分に反感を持っている “反エド王派” の貴族は、全体の七割程度にも上るだろうと予想していた。だが、実際には明確な反対派は二割程度であったようだ。


エド王を完全に敵視していた貴族が二割、消極的反対派が二割、中立が三割、親エド王派の貴族が残り三割弱といった状況であった。つまり、中立派と賛成派を合わせれば過半数を保てていたわけである。おかげでかろうじてバランスが取れていたのだ。


実際、クーデターが成功していれば、中立派の三割は侯爵の新王朝に賛同する可能性が高いので、親エド王派の貴族を排斥しても、国内の七割の貴族はついていっただろう。


だが、クーデターは失敗した。そして何より、侯爵派の反乱軍を一瞬で鎮圧してみせたエド王の力に、力を重んじる者が多いガレリアの貴族たちは一目を置く事になったのである。


クーデターを鎮圧せしめた力が何であったのかまでは、貴族達も掴みきれていなかったのだが、王に力を貸した者の正体が不明である事が、却って荒唐無稽な憶測をも呼び、王の威光が強まる結果となった。それにより、どっち付かずだった中立派の貴族達も異を唱える事なく、黙って王に従ったのだ。


おかげで、国が揺らぐ騒動に発展するかと思いきや、意外にも再編はスムーズに進んだのであった。


何を投げうってもリュージーンを味方につけるべきという判断を下したエド王の直感は正しかったと言える。まさにそれが、正しい道を見極める王族のスキルの為せるわざだったのだろう。






反乱に参加した貴族たちの処分であるが…


まず、クーデターの首謀者であったグリンガル侯爵家は取り潰し。


その他、反乱に加担した貴族家は、爵位の降格、領地の縮小・転地、さらに莫大な罰金を科された。


もちろん、反王派だった貴族家の人間は全員、国の要職からは外された。役職を残されたとしても、反対派の貴族家にはほとんど人材が残っていなかったのだが。


クーデターの主体となった貴族家は当主や嫡男達、そして主力の生え抜きの騎士達を王都襲撃に投入していた。それだけ家運を賭けた本気の反乱であったのだろう。王を討ち、国を乗っ取るなどと言う計画を本気で実行しようとしたのだから当然か。


だが、クーデターはまさかの失敗。参加した貴族や騎士達はすべて戦死してしまったのである。各家に残された者達に有能な人間は少なく、家を維持する事も難しい状況となってしまったのだ。


残された者達は、地方の小さな領地に転地となり、新たに家を継いだ当主も爵位を降格され、弱小貴族として再スタートを切る事になった。今後、国のためにそれなりの働きを見せられなければ、いずれ衰退し絶家となる可能性すらある。残された者たちは必死で頑張るしかない。あるいは、早々に家を諦め平民に下る判断をする者も居るかもしれない。


余談だが、グリンガル侯爵家は取り潰しとなったが、侯爵の息子のジャスティンは、新たな家名と子爵位を与えられ、地方の領地へ転地していった。ジャスティンはクーデターに最後まで反対し、兵を拠出しなかったのだ。


侯爵も、無理に息子をクーデターに参加させようとはしなかった。資産や騎士・使用人達をジャスティンに分け与えて別行動としていたのである。変わった息子であったが、侯爵は息子を可愛がっていた。侯爵なりに、万が一クーデターが失敗した時の事を考えての、息子への愛情であったのだろう。


その他、消極的反対派であった貴族も、クーデターに参加、あるいは何らかの形で協力していた場合は、同様の処分が下された。






反対派から没収された領地は、親エド王派の貴族の領地として分配された。また、親エド王派の貴族達は新たに国の要職にも任命される事となった。全員領地加増・出世した事になるわけで、正直、タナボタであった貴族も居た。あまり褒められたものではない事情で王派に属していたような貴族もいたのだが、接収した領地を現在の王の力だけで統治できないため、やむを得ない。


だが、新しい領地をきちんと治めていく体制を作るのもそう簡単ではない。国に与えられた役職も全うしなければならないが、いきなり重職を与えられ慣れない仕事に右往左往する者が多かった。


エド王は親エド王派だった貴族を中心に国を再編したが、中立の貴族達も積極的に重用した。中立派の貴族達は賞罰なしの現状維持であったが、領地加増や陞爵こそなかったものの、新たに何らかの国の職務に任命される者も多かった。クーデターを起こすような反対派は困るが、イエスマンばかり固める気もエド王はなかったのだ。


ただ、事態は当然、国内の再編だけでは収まらない。


国が揺らぐとき、敵対する周辺の国家も動き出す……



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


国王 「兵隊が不足している」


リュー 「貸そうか?」


乞うご期待!



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