第641話 領主にお仕置き(中)

ランスロット 「あ、先ほど言っていた……?」


リュー 「ふふ。さぁ行くか。ランスロットも来るか?」


エライザ 「あ、アタシも…」


リュー 「エライザは待ってろ。パーシヴァル、エライザの護衛を頼む」


エライザは自分も行きたいとゴネようとしたが、言い終わるなりリューとランスロットは転移を発動して消えてしまったのでどうにもならなかった。




  * * * * *




リューとランスロットが転移したのは、街から少し離れた森の中。


そこにはリュー達のほかに二人、呪術師とサルタ子爵も転移されてきていた。


呪術師とサルタ子爵は一度死んだが、直後、魂が離脱する前にリューが巻きどもし、身体も治療してやったのだ。と言っても、死なない程度に軽く治療しただけなので、二人は変わらず重症で呻いている状態だが。


ランスロット 「リューサマ、実験と言っていたのは、アレですね?」


リュー 「バレたか。アレ、悪用したら凶悪だよなぁ……」


サルタ 「こ…、ここは? お、おまえは!」


突然、見慣れない森の中に転移させられたサルタだったが、横に呪術師が倒れていて、リューが立っているのを見て、サルタはだいたい状況を把握したようであった。


サルタ 「……わ、悪かった! 謝る! 本当に、二度とお前に手出しはしない! 約束する!」


リュー 「約束って言われても、言ったそばから破ってるからなぁ、信用できるわけないだろ? というわけで、お仕置きは確定です」


サルタ 「こ、殺すのか? 頼む、命だけは…」


リュー 「安心しろ、殺しはしない」


それを聞いてほっとするサルタ。だが、次のリューの言葉が理解できない。


リュー 「人間はやめてもらうけどな?」


サルタ 「な、どういう事だ? 何をする気だ?」


リュー 「太古の魔道士が、人間を魔物に転生させる秘術を開発したそうだ。それを、俺の師匠が魔法として確立してくれたのでな。その実験台になってもらう」


先程言っていたアレとは、この魔法の事である。不死王が、わんこのエディをただの犬からフェンリルに進化させた、魂の属性を変えてしまう、この世界を根幹から揺るがしかねないとんでもない技法。


これはもともと太古の昔に別の魔道士が研究していた技術なのであるが、当然その程度の事は不死王ならば再現可能である。


ただ、珍しくリューが驚いていたので、気を良くした不死王はその複雑な技術をパッケージ化し、一つの【魔法】として確立させ、魔法制御の仮面に追記したのだ。


(使い方によっては大変危険な魔法となるし、そもそもこれも莫大な魔力が必要になるので、リュー以外は使う事はできない魔法であるが。)


サルタ 「な、何を言っている?」


リュー 「理解できないか。例えば、大昔の魔道士は、悪さをした人間を人食い花に変えてしまったらしいぞ? お前もなってみるか? 人食い花?」


サルタ 「…ちょっとナニ言ッテルカ分カラナイ」


リュー 「飲み込みが悪い、いや、信じられないのは仕方がないか。実際に見れば理解できるかな?」


リューは、いまだ倒れて気絶したままの呪術師に向かって【魂属性変換】の魔法を発動する。


すると、呪術師の体がみるみる変化していき、ついにはウネウネを動く触手を持った巨大な花となってしまった。近くに獲物が来ると触手で捕らえて花の中央にある牙の生えた口を開いて食べてしまう、植物型の魔物、通称「人食い花」である。


(※元々は、死んだ後、生まれ変わる種族を変える技術だったのだが、生きたまま肉体まで改造してしまうように不死王が改良したのである。その分とんでもない量の魔力を消費するが、不死王やリューならば問題ない。)


サルタ 「うぉぉぉそんな、あり得ない、そんな、信じられん……そんな事が…」


リュー 「温情で、死んだらまた人間に生まれ変われるようにしてやった。人食い花にどれくらいの寿命があるのかは知らんが…」


ランスロット 「人食い花には寿命はなかったと思いますよ。殺されない限り、ほぼ永遠に生きるかと」


リュー 「へぇ、多年草なのか? 樹齢数千年とかなったりするのかな? まぁ、寿命はなくても冒険者でも通りかかって討伐されるか、物好きな他の魔物に殺される事もあるかも知れないしな」


人食い花は触手と花の口は動かせるが、下半身は地面に根を張って自分では移動できないので、自分から死にに行くことはできない。仮に獲物が居なくても、根から水を吸って生きられるので、餓死する事もない。まぁそもそも、人食い花となった今、人間だった頃のような “意識” がどれだけ残っているのかも定かではないのだが。なにせ、植物系の魔物には脳に当たる器官がないのであるから…。(それでも動き回って獲物を捕獲したりするのだから、何らかの脳に類似した器官や機能(意識)があるのかも知れないが、そこまでは解明されていないところである。)



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


リュー 「さて、お前は何になりたい?」


乞うご期待!




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る