第640話 領主にお仕置き(前)

宿に戻ってきたリュー。


エライザ 「おかえり、リュー」

リュー 「ただいま、エライザ」


エライザとハグするリュー。スキンシップは幼い頃からの習慣である。


エライザ 「終ったの?」


リュー 「ああ、一段落…かな?」


ランスロット 「領主を見逃したようですね」


ランスロットはエライザと宿に居たが、リューと同行していたパーシヴァルから既に報告は受けているようだ。


ランスロット 「普通に潰してしまって良かったのでは?」


リュー 「ああ、まぁ、二度と俺達には手を出さないと約束したしな」


ランスロット 「言ってる端から約束を破ってるようですが…」


リュー 「うん、それも予想通りだけどな」


実は、リューは帰りの道中から既に、纏わり付いてくる微量の魔力を感じていた。


闇の仮面を着けて【鑑定】してみると、それは闇系の魔力であった。出本はサルタ子爵の屋敷であると鑑定に出ている。


なるほど呪いを掛けられるとはこんな感じかと思うリュー。(リューも自分が呪いを掛けられるのは初めてである。)


呪いとは、直接的な攻撃力は乏しいが、微弱であるが故に相手に気付かれず、徐々に相手を侵食していく攻撃である。相手の弱いところを見つけ、そこを静かに少しずつ攻撃し、長い時間を掛けて相手を弱体化させたり病気にしたりするのだ。


鑑定の結果、今回の呪いはかなり高度な技のようで、巧妙に隠されているようだ。


自分が呪いを使った経験があったのでリューは気づいたが、相当敏感な人間か、高度な【鑑定】が使える人間でなければ気づかないだろう。


そして、鑑定によれば、この呪いには、かなり強い悪意がこもっている。


悪意のない呪いなどはそもそもないのではあるが、やはり、呪いには程度がある。


例えば、本人は気付いていないが、潜在的に闇属性の適性を持っている者が稀に居る。そして、生きていれば誰しも、人間関係で苦しむ事が必ずある。そんな時、潜在的に闇属性の適性を持っていた者が、無意識の内に恨みを持った相手に憎しみの念を飛ばし、それが呪いのようになる事もあるのだ。


だが、そういうケースならば、単に嫌がらせ程度で済む事が多い。しかし、今回の呪いはそうではない。


執拗に、相手の弱点を探し、みつけたらそこを攻撃し続け、最終的には相手を呪い殺すという、明確な目的と技術を使用した呪いであり、そのような呪いはプロの仕事である。


実は、サルタ子爵は以前から、強力な闇系の魔術師を雇っていたのだ。


呪術が得意なその魔術師を使い、サルタはライバルの貴族を次々失脚させていった。現在の領主の地位も、前領主が病死(真相は呪殺)した事で手に入れたのである。


呪術師はその性質上、表立って活動させるわけには行かないので、屋敷の者とも接触は少なく、もちろん戦闘に参加したりはしないが、今日もサルタは屋敷の奥に控えさせていたのだ。


ランスロット 「かなり性格の悪い呪いのようですね」


リュー 「分かるか?」


ランスロット 「闇系の魔力には私達は慣れてしますから。まぁ凶悪な呪いと言っても、人間に対してであれば、ですが。リューサマや私達には効果はないでしょうね。特にリューサマには魔力分解がありますからね」


リュー 「今回はまだ放置しているけどな。実はちょっと試してみたい事があってな」


ランスロット 「ほう、“実験” のために、どうせ約束を守らないと分かっていて、あえて許したというわけですか」


リュー 「ふ、約束を守るなら本当に何もしないで見逃してやるつもりだったのになぁ…予想通りとは言え、馬鹿な奴だ」


サルタ子爵は、自分の思い通りにならなかったリューを、結局そのまま放置はしておけなかった。今まで、気に入らない人間はことごとく呪いで排除できた。その成功体験が自制を効かなくさせ、判断を誤らせたのである。


まだ相手が自分より上位の貴族や王族であれば自制が効いたのだろうが、相手はただの平民、たかが冒険者であった。そんな者が侮った態度をとったのだ。それを思い返すと怒りが湧いてくるのであった。


そして、呪術師が呪殺を提案してきた。その呪術師の自信満々な態度が、最後に背中を押してしまった…。


これまで、自分の障害となる者は皆、病気になったり事故に遭ったりして死んでいった。今回も、気に入らない冒険者など、同じように消してしまえばよい…。


そして、呪術師にリューの呪殺を命じたのだ。


―――だが。


リューは徐に光の仮面を装着する。


光属性の魔法には、闇属性である呪いの魔力には強い抵抗力がある。レベル次第で呪いの無効化(解呪)も可能であるし、さらに、光属性ならではの、“鏡” の魔法もある。相手の魔法をそっくり相手に反射してしまうのだ。


まずは、呪いの魔力を【反射】リフレクションでそっくり呪術者へと返してやる。しかもそれだけではない。その効果を数百倍にも増加させるオマケ着きである。実は、それをするために、リューは既に着けていた闇属性の仮面の上に光属性の仮面を重ねて装着したのだ。こうする事で、本来は相反する属性であるため同時に使える者が居ないはずの光・闇の二属性を同時に使える事になる。


そして、光属性の【反射】と同時に闇属性の呪力を大量に注ぎ込み、何倍にもして送り返したのだ。


―――――――――――


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呪術者は、サルタとともに領主邸の執務室に居た。


呪術師 「…完全に捉えた。これでもう奴は逃げられない」


サルタ 「ふん、貴族に対して生意気な態度をとるからだ。血反吐を吐いて死ぬがいい」


呪術師 「まぁ、しばらく時間は掛かるがな…


…ん? なんだ? むぐぅ!」


だが突然、呪術師は苦しみ始めた。


呪術師 「…っこれは! 返呪の法?! ぐぅ、まずい! 解じ…ゅ……


…ぐぼぁ!!」


呪術師は呪い返しを受ける可能性も視野に入れていた。人を呪わば穴二つ、呪いを使う者は常にそれを警戒しておくものなのだ。呪術師は呪いが帰ってきた事を察知して即座に呪いを解除しようとした。だが、返ってきた呪いは放った時の数百倍も強力になっており、呪術師の力で制御する事は叶わなかった。


結局、強力な呪いに身を焼かれ、体内に潜在していた脆弱な部分や病気の元がすべて悪化し一気に吹き出し、呪術師は血反吐を吐いて死んだのであった。


だが、増幅された呪いの魔力は呪術師を殺しただけでは収まらなかった。溢れた呪いは同じ室内に居たサルタに襲いかかる。


サルタもまた、断末魔の叫びをあげながら、全身の肉が破裂して死んだのであった。


    ・

    ・

    ・


ランスロット 「終わったようですね?」


リュー 「いや、実験、もとい、お仕置きはここからだけどね」



― ― ― ― ― ― ―


後編に続く


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