第639話 雇い主だろ? 責任とれよ?

リュー 「ふん。報告してやれよ。それくらい待ってやる」


マヅン 「お…おおお…お館様…申し訳ありません…」


サルタ 「騎士団はどうしたのだ?」


マヅン 「それが…その……全滅……致しました」


サルタ 「全滅だと?! 騎士団をほぼ全て連れて行ったはずだぞ? 一体何があった?」


マヅン 「はい、その、言われた通り騎士団全員と街の衛兵もほぼ全員駆り出して、この冒険者を街の外の草原に呼び出し、取り囲んだのですが……」


サルタ 「ですが?」


マヅン 「ですが……この冒険者の強さは規格外過ぎまして、騎士団はまるで歯が立たず…。騎士は全滅、衛兵達は全員逃げ出してしまいました」


サルタ 「なんと…」


サルタ子爵は焦っていた。出し惜しみせず、ほぼ全ての戦力をマヅンに預けたのである。それが全滅したと言うことは、つまり、もうサルタ子爵の屋敷にはロクな戦力が残っていないという事である。


サルタ 「全滅、というのは、全員、死んだ、という意味か?」


マヅン 「はい…。申し訳ありません」


サルタ 「……お前がリュージーンか?」


リュー 「そうだ。そう言うお前が領主だな?」


サルタ 「いかにも…。私がこの街の領主、サルタ子爵であるが…。貴様、なぜこのような残虐な事をする…? こんな事をして許されると思うのか?」


リュー 「は? 襲ってきたのはお前達だろうが? 騎士団を俺のもとに差し向けたのはお前の命令じゃないのか?」


リューはマヅンをサルタの前に放り投げた。手足のないマヅンは受け身を取る事もできず、サルタの足元の床に叩きつけられ呻き声をあげた。


サルタ 「…! それは…! お前が…そうだ、お前が私の息子のルイの腕を燃やしたからであろうが! しかも、怪しげな呪い掛けたであろう? 息子の呪いを解け! そのためにお前を呼びに行かせただだけなのに、なぜこんな無法な真似をする?」


リュー 「呼びにきたなんて雰囲気じゃなかったが? 穏やかに話をしに来たのなら、俺だって話くらい応じてやったのに、問答無用で『逮捕する!』だったんだが? そもそも原因は、お前の息子が、俺の娘に汚らわしい真似をしてくれたからだろうが? まさか、聞いてないのか?」


サルタ 「……」


リュー 「ギルマスに説明しておくように言っておいたはずだが…」


サルタ 「聞いては…いる……


…が! だからといって腕を切り落とすなど、やり過ぎではないのか? 貴族に危害を加えたなら、逮捕されて当然だろうが。それを、騎士達を全員殺すなど、貴様、王国の貴族全員を敵に回すことになるぞ? 正気か?」


リュー 「貴族だろうがなんだろうが、娘に手を出す奴は許さん! だが、俺も命まではとる気はなかったがな。だから、お前の息子と最初の連中は、お仕置きはしたが生かしておいてやっただろう?


だが、今日の連中は、貴族の権力を使って娘に危害を加えると脅してきたからな。街ぐるみで、いつ、どこから狙われるか分からないとなると、さすがに不安だから、全員殺す事にした。だから、首謀者であるお前も殺しに来たってわけだ。憂いは元から断っておかないとな。これも娘を守るためだ」


サルタ 「待て待て! それは! 娘に危害を加えろなどとは、私は一切命令していない! それはマヅンが勝手にやった事だ!」


マヅン 「そんな! どんな手を使ってもいいと言っていたではないですか?」


サルタ 「その冒険者を連れて来いとは言ったが、娘を害せよなどとは命じた覚えはないわ! もっと穏便な方法もあったであろうが!」


マヅン 「そんな…確かに具体的には言っていませんでしたが…」


サルタ 「方法は任せるとは言ったが、具体的な方法を考えたのはお前じゃないか。私はまさかそんな卑劣な策を取るとは思っていなかったわ!」


マヅン 「それは…ぐぬぬ」


サルタ 「だいたい、事情は説明してあっただろうが。事件はルイがその冒険者の娘を乱暴した事が原因であったと。それなのに、さらにまたその娘に手を出すなど、馬鹿なのか?」


リュー 「ああ、もういい、黙れ。責任のなすり合いなどいらんよ。行き違いがあったにせよ、部下のやった事は雇い主の責任だろ? だから、責任を取ってもらおうか」


サルタ 「…ど、どうすればいい? 何が望みだ?」


リュー 「死んでもらおうかなと」


サルタ 「私を殺す気か?! そっ、そんな事をすれば、犯罪者として王国中に手配される事になるぞ?」


リュー 「ああ、それは大丈夫。俺はエド王から、王国内で不埒な貴族を見つけたら粛清していいって許可を貰ってるから」


サルタ 「まさか…あの十数年前の王命の話か! やはり、噂通り、お前は、“王の剣” という事か!」


リュー 「…なんだソレ?」


サルタ 「王の勅命を受けて、国内で敵対勢力を討つという、別名、“王の懐刀”」


リュー 「ああ、懐刀とか、前にも言われたな…。そんなモノになった覚えはないんだが…」


サルタ 「十五年前のクーデターの際、王に味方し、クーデターを潰したSランク冒険者というのもお前の事だろう? その後は王の剣として、王に逆らう貴族を粛清してまわっているという噂は本当だったのか…


…だが、私は一貫して王には恭順を示している。そんな私を粛清するのはただの私怨、王命には反する行為なんじゃないのか?」


リュー 「ああ、なんか、“世直し旅” みたいな事をした覚えは俺はないよ? そういうのは興味ない。悪徳貴族なんて掃いて捨てるほど居るしな、そんなのを退治してまわってたら国内から貴族が居なくなってしまうだろ。


別に、どんな貴族だろうと、俺は俺に関わって来なければ何もする気はない。だが…


…今回はお前達が俺に、俺の娘に手を出してきたからな」


サルタ 「分かった! 謝る! そして、二度とお前の娘には手を出さないし、出させない! 約束する!」


リュー 「だから命は助けてくれって?」


サルタ 「ああ、頼む! そもそも、娘に手を出したのは息子や執事マヅンが勝手にやった事! 私は関係ないんだ!」


リュー 「だからぁ。息子や使用人の行動は、親であり雇い主でるお前に責任があるだろうが?」


サルタ 「息子と執事には責任を取らせる! 処刑する!」


マヅン 「そんな…お館様……」


絶望の顔色に染まったマヅン。


だがサルタは腰の剣を抜き、そのままマヅンの胸を貫いた。


ルイ 「どうしたの~? パパ、治療師はまだ~? こんくそ! この腕だと扉を開けるのも一苦労だ……ぐえっ?!」


そこにフラフラとやってきたルイの胸も迷うことなく刺し貫き、ドヤ顔をリューに向けるサルタ。


リュー 「やれやれ、己の保身のために、部下も、息子さえも殺すのか? やっぱりクズだな。街での噂を聞いても、お前はクズ領主だって評価だったぞ? 粛清したほうが街のためでもあるんじゃないか?」


サルタ 「…っ、よ、世直し旅はしていないんだろう? 娘に関しては、もちろんお主に関しても、最大限の保護を約束する! だから…」


リュー 「…そうだな。いいだろう、今回は見逃してやるかな?」


サルタ 「え? マジ?!」



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


せっかく助かったのに……


乞うご期待!



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