第128話 ヴァンパイアの侵攻を阻止せよ

背後にヴァレードの街を背負うリュー。眼前には、無数の魔獣と数十人のレッサーヴァンパイアが迫ってきている。

 

再び、本気モードのリュー。

 

まずは魔獣を片端から次元断裂で屠っていく。

 

だが魔獣の数が多い。そこで、広範囲に次元障壁を展開し魔獣の群れをすっぽりと包み込み、それを狭めていくことで一箇所に集めてまとめて切断してしまう事に。これなら一匹ずつ殺していくより効率がいい。

 

そのうちそれも面倒になり、次元障壁で囲んだ空間を作り、そこに片端から転移で魔獣を放り込んでいくことに。次元障壁の檻である。


ただ、後で気づいたのだが、どうせ転移させるなら亜空間に直接収納してしまうという手もあったのだが……、何となく、次元断裂を使う意識が強すぎて、思いが至らなかったのであった。まだ戦闘方法の最適化には時間がかかるようであった。


ただ、障壁による檻はヴァンパイア達に眷属の魔獣がまとめて捕われていく事を示す意味があったのはよかったかも知れない。

 

事態に気づいたレッサーヴァンパイアがリューを攻撃しようと近づいて来る。

 

最初の数体は次元断裂で瞬殺したが、その後のレッサーには通用しなかった。どうやらレッサーも霧化能力があるらしい。となると厄介だ。ミムルでも瞬殺できていたので、下級の吸血鬼には霧化はできないのだろうと予想していたのだが違ったらしい。

 

王宮の資料室で魔族について資料を調べたのは、吸血鬼の弱点を知りたかったからである。


あのヴァンパイアロードは手強かった。戦って負けるとは思わないが、勝てる方策も浮かばない。長時間戦えばどうなるかは分からないが、その間に部下のヴァンパイアや魔獣に街を襲われてしまったら意味がないのだ。

 

だが、結局、ヴァンパイアの弱点は見つからなかった。そもそも、魔族との最期の戦争からもう2000年以上経っているのだ。まともな資料は残っているはずもなかったのだが。

 

ただ、リューなりにいくつかヴァンパイを仕留める方法を考えてはいた。後は、ぶつけ本番で試してみるしかない。リューは、いくつか思いついた霧化対策を順番に試してみる事にした。

 

その一、次元障壁の檻に閉じ込める。

 

結果…… 成功。

 

霧化した状態のレッサーヴァンパイアを次元障壁で囲ってやったところ、どうやら霧・実体関係なく、次元を越える能力はないようだ。

 

その二、霧化した奴を、時間巻き戻して霧化する前の状態に無理やり戻してから切断する。

 

結果…… これも成功。

 

霧化する前の状態であれば、物理攻撃が通用するようだ。最初に不意打ちに近い状況で次元断裂を発動したケースではすべて効果があったので、そうではないかと予想していたが、そのとおりであったようだ。

 

その三、霧化したヴァンパイアを、霧状のまま亜空間に収納。

 

結果…… これも成功。

 

倒すことはできないが、亜空間に捕らわれて出てくる事ができないようだ。次元を越える能力がないということであれば当然の結果であるが。

 

 

 

 

リューが考えた作戦は全部当たった。なんだ、これなら怖くない。

 

リューはレッサーを片端から次元障壁の檻に閉じ込めて捕らえる事にした。そうしていれば……

 

予想通り、奴が出てきた。

 

上級吸血鬼ヴァンパイアロードである。

 

名前はなんと言ったか……そう言えばコイツの名前を聞いていなかった。

 

リュー 「お前、名前は?」

 

ロード 「……ネムロイ伯爵だ。お前は?」

 

リュー 「リュージーン」

 

ロード 「お前……人間ではないな?」

 

ロードの目が光った。

 

ロード 「竜人だと? 長らく見ていなかったがまだ居たのか。 貴様、何故我々の行く手を阻む?」

 

リュー 「この先は俺の第二の故郷の街があるんだ。攻撃されては困るんだよ」

 

そう言いながら、リューはロードの周囲に次元障壁を展開、ロードを閉じ込めてしまう。

 

吸血鬼に次元を超える能力がないのであれば、これで解決である。あとはゆっくり尋問するなり、退治するなり―――だが、恐れていた事が起きた。

 

ロードはあっさりとその次元障壁を脱出してみせたのである。

おかしい。前回戦った時には、ヤツの攻撃はリューの次元障壁を貫通できなかったはずであるが……?

 

だが、今回ロードは全身を霧化して壁をすり抜けていた。なるほど、霧化状態であれば、次元の壁を越える能力があるという事なのか……? だが、先程試したレッサー達は、霧化しても次元障壁を越えられなかった。つまり、同じ霧化でもロードとレッサーではレベルが違うという事なのかも知れない。

 

やはり手強い。

 

ただ、おそらくだが、霧化した状態では向こうも物理的な攻撃はできないのではなかろうか。なぜなら、前に戦った時は確かに攻撃は次元障壁で防げていた。それはおそらく、物理的な攻撃を仕掛けるためには実体化する必要があるということなのだろう。


そして、実体化している状態であれば斬る事はできる。ただ、レッサーは実体化した状態で斬れば倒せていたが、ロードにつては前回、一度斬っているが、斬った後からでも霧化して元に戻れていた。


復元するのにエネルギーを消耗するとか、うんと細かくバラバラにしてしまえば復元できないのではないかとか、まだ分からない部分はあるのだが、現段階では不死身、打つ手なしと言う事になる。


むろん、相手もリューに有効なダメージを与えられないのは同じであるが。ロードは不死身ではあるが、リューの次元障壁を破る攻撃力は持っていない様子である。それを知っていれば、無駄な攻撃はしてこないかも知れない。だが、この世界のロードはそれをまだ知らないのだから、攻撃してくる可能性がある。先程閉じ込めた時に気づいてくれたかもしれないが、もう一度やりあう必要があるかもしれない。

 

霧化した状態の吸血鬼が、霧化したまま魔法で攻撃してくる可能性については不明である。

 

吸血鬼は今のところ魔法は使っていないが、使わないのと使えないのでは意味が違う。ヴァンパイアが魔法を使えないのかどうかは未だ不明である。使えると考えておいたほうが良いだろう。だが、単なる魔法であれば次元障壁で防ぐことが可能なはずなので、それほど心配する必要はないだろう。


また、霧化した吸血鬼に対して魔法による攻撃が有効なのかも分からない。これについてはリューには火や風、水や雷などの一般的な攻撃魔法がないので検証しようがない。(実は過去に対戦した相手の放った攻撃魔法を収納してあるのだが、長らく使っていないのですっかり存在を忘れてしまっていたのだ。後でそれを思い出したリューは使ってみれば良かったと後悔するのだが、後の祭りである。)

 

ロードの場合、霧化した状態限定であるとはいえ、次元障壁を越える事が可能である、という事は、亜空間に収納してしまう技も通用しない可能性が高い。もしかしたら、転移も通用しないかもしれない。


実はリューは転移を使って相手を致死性の場所に送り込んでしまうという方法も考えていたのだが―――ヴァンパイアを確実に仕留められそうな場所……太陽の中とか? なんとなく、太陽に弱いというのは過去世の地球の知識の影響を受けての発想であったのだが―――だが、空間魔法を相手が使えるとなると、それも通用しない可能性もある。

 

まだまだ未知数の部分が多い相手である。奴自身は、自分を不死身だと形容していた。油断はできない。

 

このまま長期戦になった時、どうなるかは分からない。どうあっても決着を付けようとなったら、体力勝負になるのかも知れないが、リューも相手も(そしてヴァンパイアも)無限に体力があるわけではない。


幸いにもレッサー達と魔獣は次元障壁の檻に閉じ込める事ができたので、長期戦になっても問題はないのだが……

 

ただ、リューはもう一つの可能性に賭けていた。その可能性が高いと踏んだからこそ、ヴァンパイアの弱点が掴めないまま戦闘に望んだのだ。

 

そして、リューは賭けに勝ったようだ。


それは……

 

ネムロイ伯爵が撤退を選択したのである。

 

「人間の血はごちそうではあるが、嗜好品のようなものだ、なくても生きていけないわけではない。

 

今回は防備が手薄になったレッサーが先走ってしまったので “乗った” だけだ。

 

お前のような者が人間の側にいるなら、無理に手を出す事もない」

 

そう言って、ネムロイ伯爵は仲間のレッサーと魔獣を連れて引き返していったのだった。

 

 

― ― ― ― ― ― ― ―

 

次回予告

 

リュー、帰還

 

乞うご期待!

 

 

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