第304話 カレーが食いたい! ヴェラ、作ってくれ!

パーシヴァルとエヴァンスもフードを外し仮面を取って見せた。ドクロの仮面の下からは、禍々しい骸骨の頭が現れる。


それを見て騎士達は怯え思わず剣の柄に手をやったが、ドロテアが止めた。


ドロテア 「大丈夫だ、スケルトンだが敵ではない。従魔だと言ったろう? 従魔を連れている冒険者など珍しくもなかろう」


ランバート 「いや、アンデッドを従魔にしている冒険者など、聞いた事もないですよ!」


ドロテア 「今この街は警備兵が不足していていな、リュージーン殿の従魔であるアンデッド兵に協力してもらっているのだ。ほれ、入城手続きをしている兵もスケルトンだぞ?」


ドロテアに促され、入場手続きをするランバート達。手続きは全身鎧の兵士が行っていたが、ランスロットが見せてやれと言うと、スケルトンは鎧兜の面を上げ、骸骨の顔を見せたのであった。


ランバート 「魔物が街の警備をしているとか……信じられん」


ドロテア 「いつも言ってるだろう? 常識に捕らわれず、頭を柔らかく保てと。頭が堅いと魔法も縮こまってしまうものだ」


本当はもう日が暮れる時間なのだが、スケルトン達が警備するようになってからは夜も出入りできるようになった。(一応門は閉めるが、声をかければ都度開けてくれる。)スケルトン兵達は眠る必要もなく、夜通し警備してくれるし、何よりランスロットのアンデッド軍団は強いので、魔獣が来ても簡単に退治されてしまうので、何も問題ないのだ。


とは言え、夜に街を出入りする者などほとんど居ないのであるが。もし、暗がりの中で街を訪ねて来た者があったら、門の前に佇む骸骨の兵士を見て恐怖で気を失ってしまうかも知れない。そうならないように門番役のスケルトン兵には全身鎧を着せているのだが、暗がりで見ればオドロオドロしい雰囲気はいかんともしがたいのであった……。


とりあえず、リュー達は場外の小屋に戻る事にした。ドロテアとガーメリアも一緒である。


ランバートは街に入り、忙殺されているブリジットの助けになるべく領主の館へと向かったのであった。



   **  **  **



翌日。


ランバート達が手伝いに到着したとは言え、彼らもしょせんは仮の手伝いに過ぎない。


この街の執行を正式に任せる者達が到着するまでにはまだ二~三日掛かると言う事だったので、いましばらく、スケルトン兵による街の警備は必要なようだ。





ランスロットの命令で、街の警備だけでなく、人手が足りない街の肉体労働もスケルトン達は手伝うようになった。


最初は怯えていた街の住民もすぐに慣れてしまい、街の仲間として受け入れられつつあるのであった。





リュー達は、特に急ぎの案件もないので、この日は完全休養日とする事にした。


ランスロット達も冒険者として登録したのだから、暇つぶしに何か依頼を受けてみるかとも思ったのだが、街の周囲の魔物は軍団レギオンのスケルトン兵達が狩り尽くしてしまっていたし、薬草も取り尽くしてしまっていたので、仕事が殆どないのであった。


これでは他の冒険者達の仕事がなくなってしまうから、しばらく活動しないでくれとキングに文句を言われてしまったのであった。


リューは王都に集金に行っても良かったのであるが、とりあえず金には困っていない。ランクアップ試験のために王都に行くことになるのだから、その時で良いだろうと考えた。


それよりも、リューは、せっかく暇になったので、以前からヴェラに頼んでいた事を実行してもらう事にしたのだ。そのために昨晩、市場で色々買い込んだのである。


それは、日本での料理を再現してもらう事……。


リューはこの世界に転生して赤ん坊から育った。前世の記憶が戻るまでは、完全にこの世界の人間であったため、食生活にも特に強い違和感というのはなかったのだが、記憶が蘇ってからは、たまにふと日本での料理の記憶がフラッシュバックするようになったのである。


この世界の料理も、それほど酷くはない。中にはまぁまぁ美味いものもある。ヴェラもそれほど不満に感じてはいなかったのだが、日本の思い出話をリューとしているうちに、日本の料理ももう一度食べてみたいねという話になったのだ。


ヴェラは日本では料理が上手であった。リューとヴェラ(龍司と愛美まなみ)の母が亡くなった後、龍司の母代わりになり食事を作ってくれていたのは姉の愛美なのだ。リューの覚えているおふくろの味は、実質、姉の料理の味なのである。


愛美は料理が得意だった。その記憶をそっくり持ったまま転生したヴェラは地球の料理の作り方を当然覚えていたし、ケットシーとしてこの世界で長く生きたので、地球と似た食材や調味料の知識も豊富であったのだ。(※ヴェラはリューより後に死んだのであるが、この世界に転生してきたのはリューより前であった。タイムパラドックスがあるが、その辺は神の御業の奇跡という事で納得するしかないのだろう。)


中でも、リューはカレーライスが食べたいと言い出した。子供の頃の龍司は愛美の作ってくれるカレーライスが大好きだったのである。


この世界には日本で売っているようなカレールーは手に入らないが、スパイスから調合して作るカレーの作り方もヴェラは覚えているというので、ぜひ作ってくれとリューがお願いしたのである。


実は、ダヤンの街だけでは手に入らないスパイスがあった。ヴェラはあるものだけでなんとかなると言ったのだが、リューがこだわって、ガリーザ王国やフェルマー王国ほか、各国・各街の市場へと、転移でヴェラを連れ回し、必要な食材スパイスをかき集めたのであった。





カレーを煮込んでいるヴェラの後ろで子供達が不思議そうな顔をしている。


レスター 「なんか、不思議な臭いがする……」


アネット 「……なんか、いい匂いぃ……」


ヴェラ 「もうすぐできるからちょっと待ってね。リュー、ご飯炊けた?」


リュー 「おう、バッチリだぜよ」


ヴェラ 「なぜ土佐弁?」





数分後、リューの小屋の食卓には懐かしいカレーライスが並んでいた。


それを一口食べたリューは思わずホロリと涙を流した。日本でのいろいろな記憶が蘇ってきたからである。


ドロテア 「リューの故郷の味だって? おお! これは美味いな! 辛いが癖になる!」


子供達もモリーも美味しい美味しいとお代わりする。ガーメリアも子供達と競うようにお代わりしている、こうしていると子供達と姉妹のようではあった。


そうして……


あっという間に鍋は空になってしまった。


リュー 「亜空間収納にストックしておくつもりだったのに……仕方ない、ヴェラ、もう一度だ」


ヴェラ 「へ?」


リュー 「もっとデカイ鍋を買ってくる、大量に作ってストックしておこう」


ヴェラ 「マジかい」


リュー 「子供達も手伝ってくれるだろう?」


レスター 「う、うん、手伝う」


アネット 「手伝う~」


モリー 「手伝います!」


ガーメリア 「あ、アタシも手伝うぞ」


結局、翌日もまた、皆で総出で大量のカレーライス作りに勤しんだのであった。


ドロテアとモリーは是非にとヴェラにせがみ、カレーの作り方を聞き懸命にメモしていた。ヴェラが居なくても自力で作れるようになりたいのだそうだ。


リュー 「そのうち、カレーライスがこの国でもメジャーな食べ物になるかも知れないな」


しかしヴェラが言うには、この国では多少珍しい料理ではあるようだが、どうやらこの世界には既にカレーライスはあるところにはあるのだとか。おそらく、過去に地球からの転生者・転移者が他にも居て、この世界に伝えたのだろう。ヴェラもそのような先達の残した情報を教えてもらって、うろ覚えだった作り方をなんとか完成させることができたのだとか。


探せば他にもいろいろな日本の料理が残っているかも知れない。リューは旅をしながらそういうのを探してみるのもいいかも知れないと思う。


だが、その前に、他にもまだまだヴェラは日本の料理を知っているそうなので、それを吐き出させるのが先だなと思うのであった。



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


冒険者「なんか美味そうな匂いが漂ってくるんだが……」


乞うご期待!



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