第305話 カレーの芳ばしい香りは風に乗り

翌日、大量のカレーを作る作業に取り組んでいたリュー達。


まずは街で材料と道具の買い出しである。リューはヴェラと二人で行くつもりだったのだが、モリーとドロテアもカレーの材料の勉強のためについてくると言う。


アネットとレスターは小屋に残りガーメリアが見てくれる事になった。いまいち不安であるが、ランスロットに頼んでおいたので大丈夫だろう。


リューは街の市場に行く前に道具屋に立ち寄った。食材も必要であるが、大量に作るならそれ用の調理器具も必要である。


買ったのは巨大な寸胴鍋。大鍋は四つ。直径は約九十センチ、深さは八十センチほどの巨大な鍋である。


その大鍋ふたつにカレー、のこりふたつで米を炊く予定である。


普段使っている鍋が直径二十五センチ、深さ二十センチというサイズであるので、大鍋の容量は通常の鍋の約五十倍、それが二杯分だからちょうど百倍となる。材料のレシピは全部百倍にすればよい計算だ。


次に、市場に行って材料を仕入れる。かなりの量になるが、街中の食堂や宿、個人宅の食材を支えている市場である、その程度の量は特に問題ないようだった。


ただし、スパイスに関しては在庫がかなり少なくなってしまったようだったが。


スパイスは、仕入れに多少時間が掛かるような種類もあるそうだが、たくさん買ってもらえる分には儲かるのでありがたいと、在庫がなくなるような買い方でもどんどん売ってくれた。


モリー 「他にスパイスを使った料理を使う人や店が居たら困る事になったりしませんか?」


リュー 「待てば入荷するんだし、店の人間が売ってくれるというのだからそこまで気にする事もあるまい」


大鍋も大量の食材も、リューが亜空間に収納してしまうので運搬には特に支障もない。


買い物を終え、街の防護壁の外にある小屋に戻ったリュー達。小屋に残ったレスターとアネットはドロテアとガーメリアに見てもらっている。ガーメリアが今ひとつ心配だったが、ドロテアが居るから大丈夫だろう。周囲を見えないスケルトン兵が護衛しているので小屋の防御も問題はない。


だが、調理を始めようとしたリュー達は、そこでやっと鍋のサイズ的に小屋の中の調理場では無理な事に気づいた。ならばと、小屋の外に土と石で窯をつくり料理する事にする。(幸い天候は良い。この季節、この地域ではそれほど頻繁には雨は降らない。)


リュー 「へぇ、大したもんだな」


窯と調理台(テーブル)はランスロット達スケルトン軍団があっという間に作ってくれた。


スケルトン兵は森の木を剣の一閃であっさりと切り倒していく。


倒した木を伐採班とは別のスケルトン達が処理していく。


枝を払い、皮を削り、四角くカットしていくのだが、やはり剣を使ってあっという間であった。それを見れば、スケルトン兵達は相当にレベルが高い事が伺える。軍団レギオンに入隊を認められたような兵達は、ダンジョンなどで遭遇する野良スケルトンとは格が違うのであった。


さらに、パーシヴァルとエバンスが、どこで教わったのか、それらの材木を器用に加工し、釘を使わずに組み立てるだけのテーブルをあれよあれよと作り、組み上げてしまったのである。


木材は乾燥させる必要があるのだが、それも魔法であっという間に処理してしまったようだ。最後に何やら魔法でコーティングをして完成である。


スケルトン兵の別働隊が窯も製作を終え、薪まで用意してくれているので、その脇にテーブルを置いてもらう。調理台に材料を並べて調理の開始である。


ここからはヴェラとモリーが中心の作業である。スケルトンの骨っぽい手では野菜の皮むきなどの細かい作業はあまり得意ではなさそうだったのと、やはり食べ物をスケルトンの骨の手で調理されるのに若干の抵抗感があったためである。(実際に細かい作業が苦手なのか、骨の手で調理すると不浄なのかは不明である。)


レスターとアネットも野菜の皮むきのお手伝いである。人手が足りないのでもちろんリューも手伝わされた。


スケルトン達は料理には関わらないので、今度は屋根を作り始めようだ。屋根と行っても、細めの柱と梁だけで、布を張って巨大なタープになるようだ。


晴れているので今日は特に必要ないが、あれば便利だろう。完成したら亜空間に収納しておこう。(リューの亜空間収納だけでなく、スケルトン達が普段隠れている?亜空間に引き込んでおく事も可能らしい。)ついでに大中小様々なサイズのタープを作っておいてくれるようランスロットに頼むリューであった。


なんだかスケルトン兵達が嬉々と大工仕事をしているようにリューには思えた。骸骨なので表情はないのだが、なんだか動きが軽快なのだ。スケルトン兵になってからはあまりこのような作業をする機会はないだろうと思うのだが、彼らも元は人間だったのである、生前の記憶や知恵を思い起こしているのかも知れない。


延々と野菜の皮むきが終わり、材料を煮込み、米を炊き、ついに大鍋2杯分のカレーができあがった頃には太陽がかなり傾いていた。昼食もとっていなかったので、できあがったカレーを皆で食べる事にする。


もともと大鍋カレーはリューの亜空間(時間停止)に収納しておく予定であったものだが、大量にあるので今一食二食食べたところで問題はない。


スケルトン達が作った屋根の下にテーブルと椅子を並べる。


椅子もいつのまにかパーシヴァル達が作ってくれていた。やはり釘などは一切使わず木を組み合わせて作ってあるようだ。本当に、どこでそんな技術を身につけたのかと思うが、彼らは実は、今の時代の人間族の文明よりはるか前、何度か滅びた文明の時代を生きていた人間達なのであった。その頃培った技術、そして、その後スケルトンになってからも長い時を経ているので、その間に身につけた知識や技術なども持っているのである。


皆でカレーを食べ始めたリュー達。ただ、リュー達は気づいていなかったのだが、調理中からカレーの芳ばしい香りは風に乗り、かなり遠くまで漂っていた。


その匂いに吸い寄せられ、森から出てきた数人の冒険者達がフラフラとリュー達の食卓に近づいてきたのであった。



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


貴族 「美味そうな匂いだな、その料理を寄越せ!」


乞うご期待!


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