第306話 モリー「これは商売になるんじゃ?」
近づいて来る薄汚れた冒険者達。
だがその前に、ランスロットとパーシヴァル、エヴァンス達が立ち塞がる。
ドクロの仮面をつけた異様な雰囲気の三人に、冒険者も足を止め、そのうちの一人が口を開いた。
冒険者 「あ、ああ、食事中のところ済まないんだが……、何か食料を分けてくれないか?」
聞けば、森で魔物の討伐依頼をこなして帰る途中の冒険者だと言う。男女それぞれ二人ずつ、セミ、モス、アビー、ローラの四人組で「木陰の蝉」という名のパーティを組んでいるとのこと。
たしかに、衣服は薄汚れて、なり疲れている様子である。
ランスロット 「腹を空かせているのは分かりましたが、もう街の城壁まで来ているのですから、街に入って食事したら良いのでは?」
セミ 「そうなんだが、なんだかすごい美味そうな匂いがしてるもんだから、我慢できなくなってしまってな」
アビー 「知ってるわよ、この匂い! 遠い街で一度だけ食べた事あるわ、カレーでしょ?」
ローラ 「タダでとは言ワナイヨー、ちゃんとお金払ウヨー! オネガイ!」
ヴェラがどうするの? という表情でリューを見る。
リュー 「いいぞ、一杯銀貨一枚でどうだ?」
セミ 「おお、ありがたい!」
リュー 「だがその前に……」
リューは冒険者達にクリーンの魔法を掛けてやった。冒険者達は誰も怪我はしていないようだったが、衣服は汚れ、魔物の返り血で汚い状態であり、身体は汗臭かったのだ。その臭いでせっかくの美味い料理がまずくなるのが許せなかったのである。せっかく美味しい料理を作ったのだから、できるだけそれをちゃんと味わって欲しいのであった。
クリーンを使うと、身体の汚れも衣服の汚れもすべて洗ったのと同じようにきれいになる。(汚れが落ちるだけで生地が新品に戻ったりはしないのだが。)
これが使えれば、風呂も洗濯も不要なのだ。これは地球にはない恐ろしく便利な魔法である。
リューは瞬時に四人全員の身体をきれいにしてみせた。クリーンのような生活魔法は使える者が非常に多いのだが、それで四人同時には結構高度な技である。リューはクリーンの魔法は得意で、仮面をつけなくともこれくらいはできるのであった。
リューは、以前(記憶が戻る前)は魔力ゼロで魔法が使えなかったが、それでも生活魔法は多少は使えたのだ。マッチの先程度の火を出したり、手を洗う水を出したりという程度である。記憶が戻って時空魔法が使えるようになった後も、それ以外の魔法は相変わらず不得意なままであったのだが、生活魔法は以前よりはかなり使えるようになった。中でも、クリーンはリューの得意な魔法であった。素質があったわけではなく、もともとリューはきれい好きだったため、クリーンを使う事が多かったためであった。数をこなせば得意でない種類の魔法も少しずつだが上達していくものなのだ。
セミ 「おお、スマンな、汚かったな。俺たちももちろんクリーンは使えるが、魔力の節約でクエスト中は使わないようにしてたんだ」
セミが金貨一枚を投げ渡して来たので、リューは銀貨六枚を返してやった。正直、この世界では、安い店なら一食銅貨三枚で食事ができる。一皿銀貨一枚(銅貨十枚)は庶民にとってはかなり高い料理のはずだが、躊躇なく払ったセミ達はそこそこ稼ぎの良いパーティなのだろう、金は持っているようであった。
スケルトン達はテーブルと椅子をたくさん作ってくれていたので、それを出してやり、カレーライスを出してやると、貪るようにセミ達は食べ始め、結局四人ともお代わりしたのだった。
リュー 「二杯目の分もちゃんと金を払えよ? 後でいいけどな」
セミ 「もちろんだ!」
モリー 「これは商売になるんじゃないですか?」
ヴェラ 「そう甘いもんでもないのよ。作り方さえ分かってしまえば、誰でも作れるからね。皆が作れるようになってしまえば、あとは普通に他の店との競争になるだけだから……実は他の国で知り合いがやろうとしたんだけどね、結局最後は資金力のある大商会に負けてしまったわ」
ドロテア 「作り方を秘匿しておけばよいのではないか?」
ヴェラ 「まぁそうなんですけど、私の専売特許ってわけでもないから、その気になれば調べられない事もないのよねぇ……」
リュー 「まぁ、経営というのはどこの世界でもなかなか難しいよな。でも、冒険者に飽きたら料理屋をやるのもいいかも? やってみたいと思った事はなんどかあるんだよな……」
ヴェラ 「アンタなら、邪魔してくるライバルは力づくで潰してしまえばいいものね……」
リュー 「やるならちゃんと商売で勝つ、力づくで解決なんてしないさ」
おかわりを平らげたセミ達は、金を払い礼を言って去っていった。
満腹になった子供達が船を漕いでいるのが目に入る。同じく船を漕いでいたガーメリアに小屋の中に連れて行って昼寝させる事にした。
するとそこにまた、別の冒険者が現れた。先程のセミ達とは違い、なかなかに人相の悪い冒険者である。
冒険者 「おい、美味そうな匂いをさせているな? これからこちらにガンツ様という貴族様が来られる。お前達、その料理をガンツ様に供出せよ。急げよ?」
リュー 「あん? いきなりなんだ? てかお前は誰だ? ガンツって誰だ?」
冒険者 「おれはポンチョ、Dランクの冒険者だ。ガンツ様は、伯爵家の三男で、冒険者をしておられる。少し遅くなったが昼食の仕度を言い使ったのでな、さっさとしろ、時間がないぞ?」
リュー 「ガンツが貴族の冒険者なのは分かったが、だから何だと言うんだ? 頭を下げて頼むなら食事を分けてやらないでもないが……あもちろん金は取るがな。しかし、そう上から偉そうに言われるとなぁ、それは人にモノを頼む態度じゃないだろう?」
ポンチョ 「お前らは平民だろうが。平民は大人しく貴族の命令に従うもんだ。お前、冒険者だな? 等級はなんだ?」
リュー 「つい昨日、Bランクにあがったところだが」
ポンチョ 「何?! Bだと?! う、嘘をつくなよ? お前みたいな細いガキがBとか……ギルドカードを見せてみろ!」
リュー 「ほれ」
銀色に輝くカードを見せるリュー。ランスロット・パーシヴァル・エヴァンスの三人もカードを出して見せた。
ポンチョ 「う、Bランクが四人も! やべぇ奴らに声かけちまったか……」
ガンツ 「おい、どうした? 食事の準備はできたのか?」
その時、ガンツと思しき上等な服を来た冒険者が近寄ってきて声をかけた。
見れば少し離れたところに馬車が止まっている。
ポンチョ 「い、いえ、その、コイツラが分からず屋なもんで、すいません、すぐに用意させますんで」
ランスロット 「失礼ですか? どちら様ですかな?」
ポンチョ 「バカッ、この方がガンツ様だ! 無礼だぞ!」
リュー 「ほう、アンタが “ガンツ様” か。随分礼儀知らずな従者を雇っているのだな? ま、貴族なら平民に対する態度はそんなもんか」
ポンチョ 「おい! やめんか! 無礼だぞ! 不敬罪で処刑されたいのか?」
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次回予告
ガンツ 「Bランクが、Aランクの私に勝てると思うのか?」
乞うご期待!
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