第321話 断頭台の刃は誰の首に落ちるのか?

タスー 「隊長!」


群衆を掻き分け、タスー達が柵のところに到達する。だが、既に隊長ルガルの首は断頭台に括り付けられていた。あとはロープを切れば頭上の刃が首を斬り落とすだろう。


ベリン 「させないっ!」


走りながら呪文詠唱を終えていたベリンとヨリンがすかさず魔法で攻撃しようとする。


だが、魔法が発動する前に二人は後ろから殴り倒されてしまう。


気がつけば、タスー達は騎士にとり囲まれていた。


騎士 「お前らみたいな馬鹿者達が来ると思って警戒してたんだよ」


騎士達が嘲笑う。


気を失ったベリンとヨリンは取り押さえられてしまった。


二人を人質に取られて、タスーも抵抗できずに捕縛されてしまう。もとより、タスー一人で抵抗したところで騎士一人にも勝つ力はないのであるが。


断頭台の前に引き出されるタスー達。


騎士達の隊長ベムリが、断頭台に固定されたルガルの髪を掴んで顔をタスー達のほうに向けた。


ベムリ 「おい、見ろ! お前の仲間だろ?」


ルガル 「タスー! ベリン! ヨリン……! っ頼む、俺は大人しく処刑される! だから彼らは助けてやってくれ!」


ベムリ 「あん? 断頭台に首突っ込まれた状態で何言ってんだ? 取り引きできる立場じゃないだろ?」


そう言うと騎士隊長はルガルの顔面を膝で蹴った。グッと声を上げルガルの首がガクッと落ちた。鼻から大量の血が流れ始めた、鼻が折れてしまったようだ。


騎士隊長 「んー、しかし。イマイチつまらんなぁ……死ぬ覚悟ができてる奴を処刑しても楽しくないんだよなぁ。死にたくないって泣き叫んで命乞いしてくれないと……。よし、あれやろう! おい、連れて来い!」


騎士達に引きずられて来たのはルガルの妻と娘である。


ルガルの妻 「あんた!」


騎士隊長 「コイツラは、柵を乗り越えようとした。お前を助けようと乗り込んできた、つまり、お前と同じ逆賊というわけだ」


ルガル 「…な…にを……」


ベムリ 「反逆者のお前を助けようとする者は、同罪としてその場で殺してもいいとキロン様からは言われている。どうだ、まずはお前の妻と娘から殺してやろう。その次はアイツラ(タスー達)だな。お前は最後だ。


お前はみんなが処刑されるのを指を咥えて見ているしかないってわけだ。ああ、縛られているから指は咥えられないがな。


やれ! つまの方からだ、その次は娘だ!」


べムリの合図でルガルの妻の傍に立っていた騎士は剣を抜き大きく振りかぶると、ルガルの妻ラエナの首を目掛けて振り下ろした。


鋭い振りである。


一撃で首が地面に落ちた。


見事な腕である。


ルガル 「ラエナ~!!」


だが……


よく見れば、地面に転がったのはルガルのラエナの首ではなかった。


地面に落ちて虚ろな目を天に向けていたのは、ラエナを押さえつけていた騎士の首である。いつのまにか、ラエナの首があったはずの場所に騎士の首があったのである。


ルガルの妻と娘は、気がつけば観衆の最前列に居たリューの傍に立っていた。リューが二人を転移させたのである。


モリーに二人を任せるリュー。モリーの両脇後方にはパーシヴァルとエヴァンスが護衛についている。


仲間の首を刎ねてしまい戸惑っている騎士を横目にリューが言った。


リュー 「ああ、もういいや。少し状況を見極めてからと思ったが、十分下衆ゲスな根性なのはわかったから。遠慮なくやらせてもらおう」


ベムリ 「なんだ? お前も仲間か? おい、捕らえろ!」


べムリの号令で即座に襲いかかってくる周囲の騎士達。


だが、リューの手の中に現れた光の棒がヒラリヒラリと舞うたびに、地面に騎士達の手足がバラ撒かれていくのであった。リューの光の剣の前には、騎士達の剣も、盾も、鎧も、紙でも切り裂くようにあれよあれよと断ち切られて行く。


リューは、本当に憎たらしい奴は殺さない。生きたまま手足を斬り飛ばし、残りの人生を後悔しながら生きさせるためである。


モリー達を襲った騎士も居たが、そちらはパーシヴァルとエヴァンスが対応した。二人もリューを見習い騎士達を殺さない。二人は剣も使わず、騎士達の手足を掴んではへし折り引きちぎっていた。とんでもない怪力でブチッという音とともに手足を引きちぎられた騎士が激痛に絶叫する地獄絵図が展開されている。これならリューに斬られたほうがマシであろう。


あれよあれよと倒されていく騎士達を見て、べムリが慌てて剣を抜き声を上げた。


ベムリ 「動くな! コイツがどうなってもいいのか?」


べムリはルガルの頭上にある巨大な刃を吊っているロープに剣を押し当てていた。ロープはべムリの剣で既に少し切れ目が入り始めている。


リュー 「おい、やめておけ」


ベムリ 「ほ! 顔色が変わったな! これを切ればもっといい表情かおがみられそうだな!」


リュー 「どうしても切るのか?」


ベムリ 「ああ、切る!」


リュー 「後悔する事になるぞ?」


ベムリ 「ああ、たっぷり後悔するんだな!」


リュー 「もう切れるな」


ベムリ 「そうだ、切れたら刃が落ちてきて首がすっぱ―んと……あれ?」


いつのまにか、断頭台にべムリが首を固定されていた。


リューがルガルを転移で救出、同時にべムリをルガルが居た断頭台に同じ姿勢で転移させたのである。


『アンタ!』『おとう!』


再会を喜ぶルガル親子。ルガルの身体は酷い状態であったが、リューが光の仮面を装着して治してやる。


自分が置かれた状況を理解するのにしばらく時間が掛かるべムリ。


ベムリ 「あのー?」


やっと状況を理解したべムリが何か言っている。


ベムリ 「あのーーー?」


リュー 「うるさいな、なんだ?」


ベムリ 「私はどうなるんでしょー?」


リュー 「そりゃ、断頭台に居るんだから、首が落ちるんじゃないか? そろそろロープは切れそうだぞ」


ロープはほとんど切れていて、僅かに細い繊維でかろうじてつながっているだけの状態であった。断頭台の刃は重く、切れてしまうのは時間の問題であろう。


ベムリ 「そ、そんな! おい誰か、私を開放しろ!」


だが、既に騎士達は壊滅状態である、べムリの指示に従う者は誰もいなかった。


リュー 「だから言ったろ? それを切ると後悔する事になるって」


ベムリ 「そんな、許して、死にたくない……」


リュー 「さっき、命乞いをしてる奴を殺すのが楽しいとか言ってたよな? 良かったな、自分で楽しめて」


ベムリ 「自分が命乞いするのは楽しくなーい」


リュー 「まぁそう言わず。よく見えるようしてやるから存分に楽しめ」


リューが転移を使ってうつ伏せだったべムリの躰を仰向けにひっくり返してやる。


べムリの眼前に巨大な刃が見える。べムリは恐怖に慄き声も出ないようだ。


べムリ 「あ……」


その時、ついにロープが重さに耐えられなくなり、刃が音もなく落下を開始する。


落下する刃の動きは実に滑らかである、ガイドは金属製で、油が塗られているようで、途中で引っかかって止まるような事はなさそうである。


べムリ 「ちょまっ…」


べムリの首は地面に転がった。


首を斬られてどれくらいの時間意識があるのだろうか? 冷たい土の上でべムリの眼は大きく開かれ、再会を喜ぶルガル達を見つめていた…。



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


リューは代官の屋敷の門番に声を掛けた。

「代官は居るか?」


乞うご期待!



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