第75話 ソフィの買い物

リューは剣を納めると、三人に向かって手を翳す。

 

次の瞬間、手足を切り飛ばされたはずの3人の騎士の体は、何事もなかったかのように元の状態に戻っていた。リューが時空魔法を使って、三人の体が斬られる前の状態まで時間を巻き戻したのだ。

 

呆然としながら、自分たちの手足を確認しているアイガ達。

 

リューは神眼によって、騎士たちの心を読み、命令に逆らえないが、本当はやりたくはないという気持ちがあるのを知ったので、騎士達を助ける事にしたのだった。基本的には自分を殺そうとしてきた者は殺すのがリューの中のルールの一つであったので、助けたのはかなりの気まぐれではあったのだが。

 

リュー 「良かったな、殺されずに済んで。言っておくが、次は容赦しない。敵対するなら死ぬ覚悟をしてくるがいい」

 

そう言うと、リューは自宅へと転移して消えていった。

 

 

   *  *  *  *

 

 

リューを見失ったアイガ達はハリス王子のところに戻りリュー襲撃が失敗した事を報告していた。

 

ハリス 「奴がそれほどの実力者だというのか? たかが平民の冒険者のガキが?」

 

アイガ 「申し訳ありません王子。ですが、あの男の実力は本物です、おそらく並の騎士ではまったく歯が立たないかと」

 

ハリス 「だが、お前達、どこも怪我しておらんじゃないか? 切られたという腕と脚も無傷のようだが?」

 

アイガ 「それが……気がついたら元に戻っていたのです。おそらくあのリュージーンという男が治癒魔法を使ったのかと……」

 

ハリス 「切断された腕や足を、傷も残さず瞬時に治すなど、教皇クラスの最上位治癒魔法か、アリクサーでも持ってこなければできん芸当だぞ。それをあのガキが使ったというのか? ありえん。大方、幻覚でも見せて煙に巻いて逃げたんだろう」

 

アイガ 「いや、王子、あれは幻覚には思えませんでしたが……」

 

ハリス 「黙れ。平民のガキ一人始末してこいという簡単な命令もこなせない騎士など、私の騎士団には不要だぞ。しかも、自分達が騙されたのを、相手が強かったから仕方がないなどと言い訳するような奴は、即刻首を刎ねて…」

 

マシュウ 「もっ、申し訳ありませんでした! アイガよ、やはりあれは幻覚だったのだ! そうでなければ我々があんな簡単にやられるワケがない! 王子、どうか今一度我らにチャンスを! 必ず仕留めて見せますので、どうかお慈悲を!」

 

ハリス 「ふん、まぁ、平民の冒険者というのは、卑怯な手段をよく知っているらしいからな。ちょっと予想外の小細工をするヤツだったのだろう。よし、いいだろう、もう一度だけチャンスをやる。だが、次失敗したらお前らの首だけでは済まさぬ、家も取り潰しだ。せいぜい気合を入れて掛かることだ」

 

「ははっ! 必ず……!」

 

ハリス 「ただ、ソフィの見てないところでだぞ、いいな? ソフィにバレたら怒られてしまうからな」

 

頭を下げ退出した三人の騎士。

 

だが、アイガは、あれが幻覚とはどうしても思えなかった。あれがリューの実力であったとしたら、戦えば間違いなく殺される事になる。

 

だが、命令を遂行できなくとも、王子に処刑される事になる。いや、処刑されるだけならばよい、家にまで累が及ぶ事になってしまった。

 

アイガ・ガルテオ・マシュウの三人の騎士は、後がなくなってしまったのだった。

 

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― ― ― ― ― ― ― ―

翌日、街に買い出しに出たリューとソフィ、ソフィの護衛兼メイドのマリー・ベティ・アリス達。

 

もちろん、ソフィが自ら買い出しなど兄のハリス王子が反対したが、ソフィが本気でキレてしまい、ハリスは宿泊先である領主の迎賓用別邸で待っている事を約束させられたのだった。

 

おかげで邪魔もなく、ソフィ王女の初めての買い物は無事に済んだのであったが、ソフィ達はそこでもリューに驚かされてしまう。

 

リューは最近忙しくてあまり買い物もできていなかったため、ここぞとばかりに、自分用の買い出しをついでに行ったのである。

 

リュー 「今日はどれくらい出せる?」

 

店のおばちゃん 「今日は50皿くらい用意してるから20皿くらいなら出せるよ」

 

リュー 「じゃぁそれで。あ、食い終わった皿返しておくね」

 

リューは、食事を出している店に寄っては、料理を何十皿と注文するのである。

 

最初、リューが全部食べる気なのかと驚いたソフィ達であったが、リューは出てきた料理を全てそのまま亜空間に収納してしまう。

 

そして、リューの収納魔法では時間が停止している事を聞き、ソフィ達はまた驚く事にになったのだ。

 

通常は、内部が収納魔法で拡張されているマジックバッグ等は、中に入れたものも普通に時間が流れるので、食べ物を入れておくと腐ってしまう。だが、リューの亜空間収納の内部は時間が停止している。そのため、料理をそのまま収納しておけば、食べたい時にいつでも出来立ての料理が食べられるのである。

 

ソフィ 「なるほど、そうか。で、リューはどれくらいの量を収納できるのじゃ? 何か大きさとか重さとか、制限はないのか?」

 

リュー 「分からん、限界を試した事はないのでな。多分、無限、じゃないかな?」

 

ベティ 「ありえないでしょ。どれだけ魔力消費すると思ってるのよ」

 

リュー 「俺は魔力はゼロだけどな」

 

ベティ 「それが嘘だっての。転移にせよ収納にせよ、魔力ゼロでどうやって魔法がつかえるっていうのよ?!」

 

リュー 「さぁ?どうしてだろうな?」

 

ベティ 「あとで魔力を測って見せなさい。ギルドに行けば測定できるでしょ?」

 

リュー 「測定は何度もやったんだがなぁ」

 

ベティ 「じゃあ測定器が壊れているんだじゃないの? 王宮にある測定器で測定してみたら?」

 

リュー 「王宮に行く機会はないと思うが」

 

ソフィ 「しかし……転移と収納魔法が使えるだけで、使い方次第では無敵じゃろう、戦争の仕方が変わってしまうぞ。」

 

マリー 「確かに大量の物資を運ぶことができれば兵站は楽になるでしょうが、戦争の仕方が変わるほどとは・・・」

 

アリス 「転移で敵の指揮官をピンポイントで暗殺できる」

 

マリー 「あ……」

 

ソフィ 「収納も戦いにも使えるぞ? 大量の大きな岩石を収納しておいて、敵の頭上で開放したらどうなる? 容量無制限というのはとんでもないのう……」

 

リュー 「模擬戦でベティが放った火球も収納したままだからな、いつでも取り出せるぞ?」

 

ベティ 「……!」

 

ソフィ 「リューの能力が世間に知られたら、囲い込もうと貴族のスカウトが殺到するのではないか?」

 

リュー 「今の所、来てないな。来ても断るがな」

 

ソフィ 「リュー、どうじゃ、王宮に来んか? その力があれば父王も破格の待遇を用意すると思うぞ?」

 

マリー 「ソフィ様、このような得体の知れない者を王宮に入れるなど……」

 

リュー 「得体が知れないか、確かにな(笑) まぁ遠慮しておくよ、宮仕えする気はない」

 

ソフィ 「そうか、残念じゃの。それだけの力があれば、王宮騎士団の団長にだってなれるだろうに」

 

リュー 「なんで俺が王族のためにこき使われなければならないんだ? 俺にメリットがないだろう」

 

ソフィ 「もちろん相応の報酬は払うぞ?」

 

リュー 「俺は自由に生きるのが信条なんだ、縛られたくないからな。金にも困ってないしな。遠慮しておく」

 

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買い物が終わった後、リュー達は冒険者ギルドに来ていた。

 

ソフィ達のダンジョンアタック用の買い物が終わったなら、解散して休み、明日朝からダンジョンへ潜る予定だったのだが、ベティがしつこく言うので、解散前にギルドにいって魔力の測定を行うことになってしまったのだ。

 

― ― ― ― ― ― ― ―

 

次回予告

 

リューの魔力測定とソフィの初体験

 

乞うご期待!

 

 

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