第76話 リューの魔力測定とソフィの初体験
ギルドに到着し、受付嬢レイラに魔力を測定したい旨を伝えると、大きな水晶玉が嵌った器具を持ってきてくれた。
この水晶は、手を触れると、触れた者の魔力によって光を放つ。光の強さと色によって、魔力の大きさが分かるのである。
ベティ 「旧式のタイプね、あまり精密に測れないけど問題ないでしょう」
試しにベティが触れてみる。すると水晶は紫色の光を放った。
レイラ 「これは! Aランク超級の魔力があるということです。凄いですね」
ベティ 「ま、こんなものでしょう。さぁ、リュージーン、やってみなさいよ」
リューが水晶に触れる。過去に何度も試した事だ。そして今回も過去と同様、水晶が光を放つ事はなかった。
ベティ 「壊れているんじゃないの?」
しかし、リュー以外の誰がやっても正常に作動するのである。結論としては、リューには魔力がない、という事にしかならない。
ベティ 「でも、じゃぁ、魔力ゼロの人間がなんで魔法が使えてるのよ?」
リュー 「さぁ、分からんが……俺のは魔法じゃないのかもしれないな。呪文詠唱とかしたことないし」
ベティ 「スキルと言う事? でも、スキルだって使うのに魔力は必要なはずでしょう?」
リュー 「魔力がいらないスキルなのかもしれない」
リューの魔法・能力は魔力ではなく“神力”を使って実現されている。神力とは、この世界を作った根源の力であり、この世界の物質もエネルギーも、理も、全てを形成する元となるものである。魔力さえも神力によって作られたものなのである。
だが、この世界では、神力は未だ認識すらされていない。魔力しか知らず、魔力を測定するために作られた器具で、神力は測定できないのである。
リューに自覚はないが、時空魔法というこの世の理を歪める能力は、その神力を直接使う事で実現されているのだ。
ベティ 「ありえないわ。いいわ、今度、王宮の魔術院にある測定器で測ってあげる。王宮魔術院なら何か分かるはずよ」
リュー 「まぁ、機会があったらな。行くことはないと思うが」
アリス 「王宮に平民は入れない……」
ベティ 「あ……」
ソフィ 「許可があれば構わんじゃろ、妾が招待するぞ」
リュー 「王宮の話は今はいいよ、明日からダンジョン初体験だ、今日は良く寝ておけよ」
ソフィ達は一旦屋敷に帰っていった。
だが、ソフィとリューが離れる時を待っていた者たちが居た。リューを始末するよう命じられたアイガ達である。
アイガ達は、リューがギルドから出てくるのを外で身を隠しがら待っていたのだった。
ソフィ達がギルドを出たので、当然、後からリューも出てくるだろうと思ったのだが、しかし、いつまで待ってもリューは出てこないのであった。
やむを得ないので、アイガ達はギルドの中に踏み込むことにした。
ソフィの前でないならば、王子の特命で冒険者を殺しても、不敬罪という大義名分があるので問題はない。人前で堂々とやるのは多少外聞が悪いだろうが、もうそんな事に構ってはいられない。
後がないアイガ達は、手段を選んではいられないのだ。たとえ冒険者達と悶着を起こそうとも、王子の命令は遂行しなければ自分達が殺される。
だが、ギルドの中に入ってみても、リューは居なかった。受付嬢に尋ねると、リューはもう帰ったという。だが、裏口を張っていたマシュウもリューが出てくるのは見ていない。
実はリューは、ソフィたちと別れたあと、転移で直接アパートに帰ってしまったのだった。
リューが居ないのでは仕方がない。リューの自宅を襲撃しようにも、場所を知らないアイガ達にはどうすることもできない。
アイガは受付嬢にリューの家を尋ねてみたが、何のために知りたいのか? とレイラに問われ、リューを不敬罪で処刑するためだとも言えず……もういいとアイガは踵を返し、ギルドに併設されている酒場で酒を飲み始めたのであった。
ガルテオ 「リューの家を襲いに行かないのか?」
アイガ 「リューのことは、また明日、チャンスを伺うこととしよう」
マシュウ 「いいのか?」
アイガ 「幸い、王子の命令に期限は設定されていない。遅くなれば王子に怒られるだろうが、任務を遂行すれば許して貰えるだろう」
遂行できれば、であるが……。
リューの実力が幻覚などではなく本物であったとしたら、戦えば殺されるのは自分達だろう。だが、リューを始末できなければ王子に処刑される。どちらにしても死ぬ運命かも知れない事を考えると、アイガは、あまり積極的にリューを探そうという気にもならないのであった。
いっそ、このまま出奔してしまえば命は助かるかも知れない。しかし、そんな事をすれば実家が取り潰しにされるだろう。せめて、自分たちが討ち死にしたとなれば、王子も家まで潰そうとは思わないだろう。
結局、やるしかない。いや、殺られるしかない、かも知れないが。
アイガは酒を煽った。
アイガ 「もしかしたらこの世で最後の酒となるかもしれないな……」
ガルテオ 「弱気だな、勝てばいいんだろ」
アイガ 「お前、本当に、幻覚だったと思ってるのか……?」
ガルテオ 「それは……でもちょっとありえない事が起きてたのも事実だ」
マッシュ 「もし幻覚じゃなかったら……」
そう思うと、三人ともつい酒が進んでしまう。結局、ヤケ酒を呷り続け、三人は酔いつぶれてしまうのであった。
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翌日の早朝、街の門の前にリューが行くと、すでにソフィ達は準備万端で待ち構えていた。
マリー 「馬車も馬も用意していないが、歩いてダンジョンへ向かうのか?」
ダンジョンまでは徒歩または馬車で十時間程度の距離である。早朝出発しても到着は夕方になる。
ダンジョン内には太陽はないため、夜から潜っても問題はないのであるが、長時間かけて移動した後では、ダンジョンに入ってすぐにキャンプを張る場所を探す事になってしまうかも知れない。あるいは、ダンジョンに入る前に外で一泊するか……
リュー 「いや、時間がもったいない、転移で移動しよう」
そうリューが言うと、全員の足元に魔法陣が浮かんだ。
一瞬、めまいがするような感覚があり、気がつけばもう、そこは街はなく、ダンジョン入口の前であった。
ソフィ 「おお……これはこれは、大したものじゃの」
ベティ 「この人数を纏めて? これだけの長距離を一瞬で? 転移魔法には詳しくないけれど、そんな事、普通できるものなの???」
マリー:(もしかして、このリュージーンという男、とんでもなく危険な人物なのではないか……?)
アリス 「………………」
リュー 「どうした? さぁ行くぞ?」
リューに促され、ソフィ達はダンジョンへと入る。
第一階層~第三階層までのゴブリンやコボルト、オークなどは危なげなく倒していくソフィ達。例によってリューは手を出さずに見守るだけである。ソフィ達はリューの実力を知っているので特に文句は出なかった。
マリー・ベティ・アリスもメイドではあるが高い戦闘能力を持っている。王女も、幼い頃から王族として文武両面で英才教育を受けてきており、剣の腕も近衛騎士に匹敵するほどである。
その能力を生かしてダンジョンアタックは順調に進んでいった。
第四階層になるとゴーレムやパペットマンなど、無機物系モンスターが出るようになる。体が硬く防御力が高いモンスターだが、これも難なく下していくソフィ達。
第五階層~第八階層になると、ステージがガラリと変わって、草原や湿原、森林、さらにはグランドキャニオンのような大渓谷のような景色の階層まである。もちろん、リューの記憶にある地球の風景のイメージを反映して作り出されたものであるが。
洞窟がずっと続くと思っていたソフィは驚き、感動していた。
これらのフロアでは毒系・爬虫類系・鳥系・植物系など、様々な種類のモンスターを経験できるようになっている。
ここで一旦休憩を入れる事にした。
テントを張って交代で何時間か眠る。そして翌日?(※ダンジョン内に昼夜の区別はないのでよく分からない)休憩を終えた一行はさらに先に進んだ。
そして、いよいよ八階層のボス戦。
八階層目までは初心者向けのイントロダクションであり、九階層目から難易度の高いダンジョンへと変貌していくのである。
八階層目のボスは、これまで出てきたモンスターの上位種・ボスクラスが総出演となる。
ゴブリンキング・コボルトキング・オークキング、さらにはキングリザードマン、キングポイズントード、アイアンゴーレム等など、節操なくキング級が揃う。バラエティ豊かな分、連携などはないのであるが。
正直、初心冒険者にはかなりの難易度となるが、これを突破できれば、他のダンジョンに行ってもそこそこ活躍できるであろう。
だが、それもソフィ・マリー・ベティ・アリスの四人でなんとか撃破に成功、リューは危険になったら助けるつもりで構えていたのだが、出番はなかったのであった。
無事第八階層をクリアしたので、初心者研修としては満点以上の成績と言える。卒業ということで帰ろうとしたリューであったが、さらに先に進みたいとソフィが言った。
確かに、まだ余力を残してはいる……危なくなったらそこまでとして撤退すると言う事で、一同は、第九階層を覗いてみる事にしたのであった。
だが、ソフィ達はそこで苦戦を強いられ、撤退を余儀なくされる事になる。
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次回予告
ダンジョン撤退~再び王子?
乞うご期待!
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