第288話 王が悪い、文句なら直接王に言え

王 「そのような事はもちろん認めていない。違法奴隷を扱うのは重罪だ」


リュー 「だが、現実にはそうなっていないじゃないか?」


王 「どういう事だ?」


リュー 「俺は、ダヤンの街に行く途中、盗賊の村を発見して殲滅した、その時、この子達を見つけたのだが」


リューの後ろに隠れるようにして膝を突いていた子供達が上目遣いに王の顔を見た。


王 「ああ、子供達も楽にしてくれていい、立ってくれ」


リューも頷いたのを見て、レスターとアネットもゆっくり立ち上がった。相変わらずリューの後ろに隠れるようにしているが。


リュー 「この子達は、どこかの村から誘拐され、奴隷にされたのだそうだ。つまり違法奴隷という事になるはずだ。そうだろう?


盗賊の村は殲滅したが、この子達を捕らえて奴隷にしたのはその盗賊達ではなく、別の奴隷商だったそうだ。盗賊達は奴隷商を襲って金品とこの子達を奪ったらしい。


盗賊を殲滅したあと、ちょうどその場に居合わせたガーメリアに二人を預けたんだが……。


ガーメリアがこの子達を奴隷から解放し、親を探して帰す事になっていたはずなのだが、面倒だったのか知らんが、ダヤンの街でこの子達は再び奴隷商に売り渡されていたんだ」


ガーメリア 「ちょっ! まて、嘘を言うな! 私はちゃんとダヤンの領主に預けた! 奴隷商になど売っていない! その後の経緯についてはよく知らないが……」(最後は声が小さくなってしまう)


リュー 「経緯真相は知らん。ただ、奴隷商の牢の中にこの子達は居た、それが事実だ」


ガーメリア 「それは! おそらくダヤンの領主、バラス男爵が奴隷商に売ったのでしょう! バラスは反逆罪で逮捕されたと聞きました! 私はバラス男爵がそんな人間だとは知らなかった」


リュー 「バラスを捕らえたのは俺だがな。まぁ経緯は重要ではない。話が脱線したが、俺が王に問いたいのはそこじゃない。俺が訊きたいのは―――


―俺は偶然、この子達を奴隷商で見つけたので再度保護しようとしたんだが。奴隷商は “合法な奴隷” だと言い張ってな。仕方ないので、俺が金貨一万枚で買い取り、解放したのだ」


王 「そうだったのか……ガーメリアと領主の不始末だ、その金はもちろんこちらで払おう」


リュー 「金の話はまぁ置いといてだ。問題にしてるのは、違法奴隷を合法だと言い張って取り扱う奴隷商が、一切取り締まられる事はない状態についてだ」


王 「……何故取り締まれないのだ?」


宰相 「違法奴隷を扱った事が判明したら即逮捕される事になっているはずだ」


リュー 「違法奴隷だと知らなければ合法なんだそうだよ。


奴隷商が言うには、買い取る際に、違法奴隷であるかどうかを確認する義務が法律に定められていないんだそうだ。


つまり、あくまで知らなかったという事にしておけば違法にならないというザル法になってるそうだ。


鑑定すれば違法奴隷かそうでないかは分かるはずだが、鑑定には高い金が掛かる。義務でないなら誰も調べる者は居ない。仮に後で発覚しても『知らなかった』と言えば済む。そう言っていたよ」


王 「なんと……。宰相、そうなのか?」


宰相 「確認してみないと分かりませんが…確認の義務は法律にはなかったかも……知れません、が、しかし!


そもそも、奴隷の管轄は国ではなく奴隷ギルドですからな。奴隷商は奴隷ギルドのルールに従って商売しているはず。なのでそれは国の責任とは必ずしも言えないのではないかと」


リュー 「奴隷商に『そのような法律にしているのは王が悪い、文句なら直接王に言え』と言われたんだが? 国によって違いはあるだろうが、奴隷ギルドもその国の法律には従わなくてはならないはずだろう。売買時に違法奴隷かどうか鑑定で確認する事を義務付ければ済む話だ。なぜやらない?」


王 「それは確かにその通りだな。奴隷ギルドと言えど国の法は守る必要がある。宰相! 今この場で王の権限において命ずる。奴隷の売買時には違法奴隷でないか必ず確認する事を義務付ける! 直ちに発令せよ!」


宰相 「はっ……仰せの通りに……」


リュー 「随分物分りが良いのだな。良いのか?」


王 「こんな事でリュージーン殿に恩を売れるなら安いものだ」


リュー 「俺の事は呼び捨てでいい。それと、俺はこの件で国や王に恩など感じる必要はないと思っているんだが? この国の問題点を指摘してやっただけで、俺にはなんの恩恵もない話だからな」


王 「それは、そうだな、その通りだ。むしろ感謝しなければならないのはこちらの方か」


リュー 「俺が、いいのか? と訊いたのは、今日初めて会った俺などの言うことを簡単に言葉だけで信じていいのか? という意味なんだが」


王 「リュージーン殿……いや、リュージーンと呼ばせてもらってよいか? リュージーンの事はドロテアから報告を受けていた。ブリジットの報告にもあったので、会うのを楽しみにしていたのだよ」


リュー 「相手にされないだろうと予想していたのだけどな。だからドロテアのつてを頼ったのだが。そもそも俺に他人の国の法律に口を出す権利はないからな。しかし、思っていたよりずっと若くて話の分かる気さくな人物だったので驚いた」


ドロテア 「先代の王が不慮の事故で急逝され、エドワード王が後をついだのは最近の事なのだ。先王は戦争を繰り返し領土を広げる事に熱心だった。だが、そのツケで国内はどうしても乱れ気味でな。現王はそれをなんとか立て直したいと思っておられるのだよ」


リュー 「……」


王 「戦争が長く続き、国民は疲弊している。そもそも本当は戦争などする必要などないのだ。領土はもう十分にある、これ以上広げる意味はない。内政を重視し、国内を豊にしていけばよい」


ドロテア 「しかし、戦争で功績をあげてきた貴族達は、戦争をしない王の方針が気に入らない者も多く、なかなか国内を纏めきれない状況なのだ」


王 「正直に言うと、国内の貴族の7~8割が先王派で、好戦派なのだ。私を更迭してまた戦争を始めようとする動きがある」


リュー 「7~8割って」


王 「お恥ずかしい話なのだが。皆、戦争をしないという私の方針にはついてきてはくれないようだ」


ドロテア 「だが、戦争などできればしないほうが良いに決まっている。リュージーン殿、貴殿のように力の在る方に、できれば王の味方になって頂けるとありがたいと思っているのだ」


リュー 「……俺は誰の味方になるつもりもないが?」



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


宰相 「王! そこまでこの者を信じてよろしいのですか?」


乞うご期待!



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