第289話 王(宰相の変わった趣味ってなんだろう?)
リュー 「強いて言えば……俺は、平民の味方では、あるかな。俺も一応平民として生きてきたしな。平民を奴隷と同等にしか思っていないような貴族や王族は好きではない」
王 「それならば私と同じ考えだ。今、国に必要なのは疲弊した民に味方する力だ、民から搾取する貴族ではない、民あっての王であり貴族なのだから。それが分からない貴族が増えてしまったのが嘆かわしい」
そこでふと、リューの後ろに隠れるようにしている子供二人に王は目を留めた。
王 「ところで、その子達(レスターとアネット)は我々に引き取らせてもらえるだろうか? 購入時の代金ももちろん国が負担する」
二人は突然謁見の間に連れてこられて国王に会って、ずっと口をポカンと開けたままキョロキョロしていたが、王の言葉を聞いて身を固くした。
王 「その子達はこの国の国民なのだから、今度こそ、ちゃんと責任を持って親元に帰す。
……そうだな、ガーメリア?」
ガーメリア 「は、はいっ、必ず!」
リュー 「要らないよ。この子達は俺が親元まで連れていく。また国に任せるとか “たらい回し” にされるのは、この子達ももう信用できないだろう」
ガーメリア 「大丈夫だ! 今度こそはちゃんと親元に送り届ける!」
リュー 「買ったのは俺だ。乗りかかった舟だ、俺が送り届ける。金もいらない、だからこの子達はもう放っておいてくれ」
王 「そうか……分かった。だが、できれば奴隷商に支払った代金だけでも払わせてもらえないだろうか? それに、ダヤンの街の件でも多大な助力をしてもらったと報告を受けている。ブリジット救助の報酬も約束したと。それも含めて、色々と力になってもらった報酬という形で支払わせて頂きたい」
リュー 「依頼として受けた分の代金はきっちり頂くよ、もちろん。それより話は戻るが、違法奴隷の件。当然、法律を改正してはい終わり、ではないんだよな? 国中の奴隷達を鑑定し、違法奴隷を洗い出して解放する作業が必要じゃないか?」
王 「もちろん、そのように手配するつもりだ。宰相、直ちにしかるべく手配せよ」
宰相 「はっ、仰せのままに」
リュー 「それについてだが、俺にもその権限をくれるか? 俺は【鑑定】が使えるから違法奴隷かどうか見分けられる。奴隷商には俺の言葉だけでは信じられんと言われたのでな。国のお墨付きを持って戻れば文句も言えんだろう?」
王 「そうか、分かった、リューに国の公認鑑定士の資格と奴隷商の監査人の資格を与えよう」
宰相 「王!? そんな簡単に! 鑑定ができると言うのも嘘かも知れませんぞ?」
リュー 「何ならアンタ(宰相)について鑑定してみようか? …年齢43歳、名前、バリオ・バッティ・ミントリン。伯爵位を持っているのか。趣味は特に無し、仕事が趣味? 奥方とは関係良好。相性が良いようだな、ほうほう、趣味はないと言ったが、何やら夜ごと変わった趣味を奥さんと楽しん…」
宰相 「王! リュージーン殿を国の公認鑑定士に認めましょう!」
王 「変わった趣味? ……まぁ何でもいいが、しかしドロテア、鑑定というのは、本人の趣味や隠し事まで詳しく分かるモノなのか?」
ドロテア 「その鑑定人の能力とレベルによりますが……リュージーン殿はその点も規格外なのでしょう」
リュー 「それから、話はまだ、もうひとつある」
王 「なんでも言ってくれ」
まだ何か要求するのかと宰相は眉を顰めていたが。
リュー 「実は、この子達と一緒に、奴隷商で俺はもう一人奴隷を購入した。こちらは犯罪奴隷なので買い取ったとしても解放はできないという話だったのでまだ奴隷のままだが……これも違法奴隷だったのだ」
宰相 「犯罪奴隷なら違法奴隷ではないのであろう、きちんと裁判の上、奴隷落ちが決定されているはず」
リュー 「貴族に無実の罪を着せられ、拷問を受けてそれを無理やり認めさせられたとしてもか?」
ドロテア 「それは……」
リュー 「この国に限った事でもないのだろうが……貴族が平民に有らぬ罪を着せるなんて事はよくある事のようだな。貴族に正しい道徳観があれば良いのだが、この国の貴族も他国の例に漏れず、腐っている者が多いようだな」
王 「……うむ、この国は他国に比べても特に貴族の平民差別は酷いかもしれないな……。長く戦乱が続いて、領土は増えたが国内に目が行き届かず荒廃してしまったのだ……領土が荒れた分は、内政に力を入れるのではなく他国の領土を奪って資産を増やせば良いという考えが貴族の間で当たり前になっていてな」
ドロテア 「エドワード王はなんとか国を立て直したいと努力されているのだが、先代を王を慕う貴族も多く、若い王を侮っている貴族が多いのは否めないのが正直なところだ」
王 「全ては私の力不足だ、申し訳ない」
ドロテア 「いえ、王は現状でできる事は十分にされています。国を立て直すには時間がかかるでしょう」
リュー 「俺は別にこの国の政治に口を出す気はないよ。ただ、冤罪だと分かっている犯罪奴隷については解放の許可を貰えるか? 本人の言と俺の鑑定結果以外の証拠はないが」
王 「それは許可しよう、リュージーンの鑑定結果は国が証拠として認める。リュージーンの裁量で奴隷を解放する権限を与える。そうだな、いっそ……
…どうだろう、リュージーン、この際だ、この国を回って腐った貴族を洗い出し粛清する仕事を頼まれてくれないか? リュージーンの目から見て、平民に害があると判断した貴族は裁判を経ずに処分して構わない」
宰相 「王! そこまでこの者を信じてよろしいのですか?」
王 「これでも人を見る目はあるつもりだ。リュージーンならば信用できる、俺の直感がそう言っている」
リュー 「宰相の言う通りだ、そこまで、会ったばかりの俺を信用して良いのか? 迂闊すぎやしないか?」
王 「実はな、私にもスキルがあるのだよ、リューの【鑑定】には遠く及ばないが。私のスキルは、その者を信用して良いかどうか、そして、何が正しいかを直感的に判断できるのだ。理由は一切説明できないのだがな」
リュー 「それは……また便利なスキルだな。それが本当だとしても、つまり俺を利用して世直しをさせようと言う魂胆だよな? 俺は利用されるのはあまり好きではないんだが?」
王 「確かにそういう事にはなってしまうが……積極的に捜査などはしなくてよい。リュージーンが行った先、関わった貴族で、気に入らない者が居れば遠慮なく〆てくれてよい、という話だ」
宰相 「それでは、この者に国の中で好き勝手する権限を与えるようなモノではないですか? 王の威光を笠に着て悪事を働き始めたら、国が崩壊してしまいますぞ?」
王 「それでも構わん」
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次回予告
リュー 「えー? なんかちょっと迷惑ナンデスケド?」
乞うご期待!
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