第97話 もうひと組のAランクパーティ
バラバラに切り飛ばされては元に戻され、また切り刻まれる。延々とそれが繰り返される。
まったく手も足も出ない。
その状況に、雷王達の心は折れてしまった。
雷王 「俺達の負けだ、頼む、どうか、許してくれぇ」
剣を置き、土下座する雷王。
雷王の後ろに集まって一斉に土下座する祥王・聖王・鳳王・牙王
雷王 「依頼は取りやめる! 手を出すべきじゃないってギルドに戻って報告する。だから許してくれ」
リュー 「まぁ、いいけどね……他にも依頼を受けた冒険者が居るって聞いたが、知ってるか?」
雷王 「あ、ああ、あの食堂に居たバットって男、奴もその一人だ。」
リュー 「それは知ってる。他には?」
鳳王 「確か、『闇夜の風』の連中が引き受けていたはず…」
リュー 「?」
雷王 「Aランクのパーティだ。交流はあまりないから良く知らないが、どちらかと言うと暗殺みたいな裏の仕事が得意だって噂の連中だ。」
リュー 「暗殺とは、嫌な感じだな」
聖王 「アンタだったら何の問題もないんじゃないか?」
リュー 「そうだといいんだがな。そうだ、できたら諦めるように、その連中にも言ってくれないか? いや、もうちょっと試したい事があるから、彼らも練習台になってもらおうか」
それを聞いた雷王達は、闇夜の風の連中が遭わされる仕打ちを想像して顔を顰めたのであった。。。
リューに街に戻してもらった雷王達は、そのままミムルを出て王都に帰る事にしたのだった。
その様子を遠くから見ていたバット。
「おやおや、何があったのだ、あの陽炎の烈傑が依頼を達成せずに逃げ帰っていくよ……?」
だが、それとは別のグループが入れ替わりに街に入ってくるのをみつけた。
「おや、あれは闇夜の風の連中だね。アイツらも来たんだ、なら、もう少し様子を見させてもらおうか」
** ** ** **
宿に置いていた荷物をひったくるように回収し、宿を引き払った雷王達はそのまま街を出ていく。
だが、城門で偶然にも闇夜の風のメンバーとすれ違ってしまったのだった。
闇夜の風のメンバーが一人、近づいてきて話しかけてきた。
闇 「おや? 陽炎の烈傑の方々じゃないですか? まさか、もう依頼を達成してしまったんですか?!」
雷王 「い、いや……。依頼は中止だ、王都に帰るところだ」
闇 「え? 中止……とは???」
雷王 「俺達は依頼に失敗したんだよ」
闇 「……え? 目的の男が見つからなかったとか?」
鳳王 「男は見つけた」
闇 「ではなぜ? 何か、陽炎の烈傑が戦わずに手を引くような特殊な理由でもあったんですか?」
牙王(小さな声で) 「戦ったんだよ……」
闇 「え? なんですって?」
牙王 「戦って、負けたんだよ!」
闇 「え?……ええ?! 陽炎の烈傑が負けた? ちょっと信じられませんね、相手はたかがFランク冒険者と聞きましたが」
雷王 「その情報は誤りだ。いや、Fランクなのは本当らしいが、実力をランク通りだと思わないほうがいい。Sランクパーティである俺達が手も足も出なかったんだ」
闇 「ちょっと信じられませんが……
…陽炎の烈傑も焼きが回ったとか?」
牙王 「喧嘩売ってんのか?!」
闇 「おおっと。すみません、冗談ですよ」
雷王 「…悪い事は言わない、あの男には手を出さず、王都に帰ったほうがいい」
鳳王 「と言っても聞かんだろうがな」
闇 「そりゃあね、何もしないまま、依頼失敗を受け入れるなんてできませんよ、私達もAランクパーティですからね。ところで、陽炎の烈傑は新メンバーを入れたんですか?」
雷王 「?」
闇 「そちらはどなたで?」
振り返ると、陽炎の烈傑達の後ろに、いつのまにかリューが居た。
リュー 「いや、ワタクシを狙っているという『闇夜の風』というパーティの皆さんを紹介して頂コウカト思イマシテネ!」
祥王 「うげ」
雷王 「リュージーン……!」
リュー 「俺を捕らえろと依頼を出した奴をぶん殴りに王都まで行くつもりなんで、あまり時間がないんでな。雷王達が話しているのが見えたから、もしかしてと思って来てみたんだ」
闇 「……お前が? リュージーン? 驚きました、自分からノコノコ出てくるとは……余程自信があるのか、それとも諦めて自首しに出てきたのか?」
リュー 「どうせお前たちも
だが、突然闇夜の風の一人が大声を出した。
『いや、戦う気はない! 俺達も帰るぞ!』
闇 「リーダー! なぜですか?」
闇リーダー 「雷王達がやめたほうがいいと言ってるんだ、危ない橋を渡る必要はない!」
リュー 「随分、物分りがよいんだな、この世界では初めてのパターンだ」
闇リーダー 「今日はもう遅い、とりあえず今日のところは町に泊まるが、明日には王都へ戻る。リュージーンと言ったか、俺達はお前と戦う気はない、見逃してくれるとありがたいんだが?」
リュー 「関わってこないなら、こちらも興味はないさ」
宿に入った闇夜の風のメンバーは、リーダーに詰め寄った。
メンバー 「よかったんですか? 依頼失敗となって違約金を取られますよ?」
リーダー 「雷王達の実力は本物だ。その雷王が敵わなかったと言ってるんだ。俺達が勝てる相手じゃない。
大体、俺達が得意なのは闇討ち・暗殺だ、ああ正面切って戦いを挑まれたら、俺達には不利過ぎる。
それに、Sランク冒険者のバットがこの依頼を受けて、既に街に入ってるはずだ。奴が依頼を果たしてくれれば、依頼失敗にはならんさ。依頼を受けた誰かが成功すれば、失敗はカウントされず、経費は出るって条件なんだ。無理をする必要はない。」
メンバー 「もったいない……ならば、今夜の内に闇討ちで倒してしまえば……」
リーダー 「殺すなって条件だったろ?」
メンバー 「生きてさえいれば五体バラバラでもいいって条件でしたよね?」
リーダー 「…俺は飯を食って寝る。寝てる間は自由時間だ、お前たちが何をしようと俺は関知しないがな……」
* * * *
その頃、リューは警備隊長(領主の息子)のゴランに、再び領主の館に来て欲しいと言われ、領主と会っていた。
なんでも、王宮から領主に対して、リューを捕らえて王都へ連れてくるよう命令が来ているという。リュージーンという冒険者は貴族を殺した嫌疑があり、王都で裁かれる必要があるという理由だそうだ。
だが、さすがに領主の手持ちの戦力でリューを捕らえる事などできないだろう事はゴランの報告で領主も理解しており、リューに頼むしかないという現状なのだと。
だが、いくら頼まれたとして、虜囚としてリューが王都に護送されるなど、リューは許容する気はなかった。一度、トッポ男爵の護送にあえて付き合ってみた事があったが、退屈なだけでメリットは何もなかったのである。
リューを連れていかなければミムルの領主も困った立場になると言うが、そんな事はリューの知った事ではない。そもそも領主に対してリューは恩義を感じる理由がほとんどない。領主のために何かしてやろうと言う気も起きようはずもないのであった。
とは言え、リューも事態に腹を立てていて、王都に乗り込むつもりではあったので、その旨を王都に伝えるようリューは領主に言った。
結局、領主としては、リューを捕らえようとしたが逃げられたと報告する事にしたのだった。そして、リューに言われた通り、リューは王都に乗り込むつもりのようだと申し伝えたのであった。
リューを捕らえたいのであれば、リューが王都に到着した時に、自分達でどうにかすればよい、という姿勢であった。
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次回予告
闇夜の風に襲われるリュー
乞うご期待!
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